シンガーソングライターのリカロープが、4枚目のアルバム『a little trip』を昨年11月にリリースした。彼女にとって初めてのフルアルバムである本作品は、ピアノポップの枠を超えた全14曲から構成。ロック、ジャズ、ボサノバ、ファンク、アカペラと、これまでにないアプローチで耳を楽しませてくれる。そこに見え隠れするのは北欧やパリ、カリフォルニアを訪れたときの異国情緒や彼女が敬愛するビートルズやクイーンへのオマージュだ。
世の中にはピアノで弾き語る数多くのピアノポップ・シンガーソングライターがいる。一時期ブームになったこともあり、”またか”と食傷気味になっているリスナーもいるだろう。何故ならばピアノという楽器は存在感が強く、また多くのアーティストは歌いながら弾くということを考えるとコード中心の簡素なアレンジで弾くことが多いため、往々にして似たようなサウンドになりがちなのだ。歌に卓越した個性があったり、相当の演奏スキルレベルを持っていないと現代の音楽業界において、人を惹きつけることはなかなか難しいのが実情だ。
しかしながらリカロープにおいて、その心配は無用である。彼女もピアノポップ・シンガーソングライターと名乗ってはいるものの、バンドサウンドとアレンジに大変なこだわりを持っているアーティストで、ライヴも必ずバンド形態でやるという。また、珍しくも誰にも習うことなく独学でピアノを弾き続けてきたこともあり、音からもはっきりとした個性が見受けられる。
さらにサポートメンバーで本作品のプロデューサーでもある及川雅仁は、元来ロック畑のミュージシャンであることや、ポップス以外にも様々な音楽ジャンルにも精通しているためか、本作品のアレンジも他とは一線を画したアレンジに仕上がった。リカロープの魅力を拡張する上で、彼の果たした役割は大きい。
今回はリカロープとプロデューサーの及川のお二人に話を伺った。本作品は、彼女がピアノポップの枠を超えるチャレンジをした作品であり、記念碑的な位置づけとなるアルバムであることがよくわかるインタヴューとなった。ぜひ最後までお読みいただければ幸いである。
インタヴュー・文 黒須 誠
企画・構成 編集部
リカロープワンマンライブ「春のリトルトリップ」
日時:2016年 3月26日(土) 開場13:30 開演14:00
会場:東京・北参道ストロボカフェ
出演:Ricarope
料金:前売¥2,700円(+1D) /当日¥3,000(+1D)
──まずはアルバム完成、お疲れ様でした。いつぶりのアルバムですか?
リカロープ(Vo/Key) 「前回はシングルだったので作品としては2年ぶり、アルバムとしては6年ぶりかな」
及川雅仁(Producer/Ba) 「今回は初めてのフルアルバムなんです」
リカ 「これまではミニアルバムだったんだよね。8曲入りの作品もあるけど、それはミニなんですよね?」
──8曲はギリギリミニ扱いだと思いますね。今回は14曲も入っていますから間違いなくフルアルバムですけどね。曲数といい、今回はかなり大変だったのではないですか?
及川 「曲数が多いから単純に時間はかかりました。自分としてもこれまで6曲は同時に動かしていたことはあったんだけど、14曲は初めてだったんですよね。制作に使っているパソコンのメモリも足りなかったし、アルバム全体を見渡すことがなかなかできなくて、その整理にも時間がかかってしまいました」
リカ 「これでもお蔵入りになった曲もたくさんありましたからね」
──どれくらい準備されていたんですか?
リカ 「ざっと20曲くらいかな」
──制作はいつ頃から取りかかっていたんですか?
リカ 「旅をテーマにしたアルバムはずっと前から作りたかったんですよ。どれぐらい前だろう・・・シングルはコンスタントに作っていたけど・・・7,8年前くらいですかね」
──今までフルアルバムを出さなかった理由はあるんですか?
及川 「タイミングの問題かなあ。僕がリカロープをサポートするようになったのは2ndミニアルバム『Pianovel』の直後からなんですけど、当時はLD&Kからリリースをしていたんです。そのときは卒業ソングのシングル『ちいさな校舎』の制作を頑張っていた時期だったから、アルバムの話がそもそも出なかったんですよね。その後自主レーベルのC’est bon!label(セボンレーベル)を始めて『Good morning!』を出して・・・自分たちでやり始めたばかりだったし、いきなり10数曲というのはまだ敷居が高かったんだと思う」
リカ 「『a little trip』の構想は前からあったんですけど、曲が出そろうまでアルバムとして出したくなかったんです。自分が実際に旅をした上でコンセプトに合う曲を作っていたから、それができあがるまでには時間が必要だったんです。その間にコンセプトが明確なシングルをきっていたんですよ」
──『旅』アルバムを作ることになったきっかけは何だったんですか?
リカ 「まだ私が先生の仕事をしているときにまで遡るんですけど、7年くらい前に友達が住んでいるカリフォルニアに遊びに行ったんです。そのときにカリフォルニアの雄大な景色を見ていたら、自分のちっぽけな悩みがどうでもよくなるくらい素晴らしくて、いいインスピレーションを受けたんですよ。またそのとき行われたホームパーティでライヴをやったんです。自分の歌を外国の方に初めて聴いてもらって…言葉は通じないけれども楽曲をちゃんと受け入れてもらえた実感を得られたんですよね。それから旅に出て、いいメロディが浮かぶのが楽しくなって漠然と旅をテーマにした作品が作りたいなと思うようになりました。その後もパリや国内各地を旅行しながら、旅先で思いついたメロディや歌詞をノートに書き留めるようになって、曲作りも加速していきましたね」
及川 「今思うとこのアルバムを作るために、助走的にシングルやミニアルバムを作っていたと思えることもあって。『Good morning!』をリリースする前から『a little trip』というアルバムを作りたいと話は出ていたんです。アルバムに収録されている[radio]や[北欧ロマンス]は昔からある曲で、ほんとはもっと早く出したかったんですけど、収録するなら『a little trip』に入れたいイメージがあったので、これまで出せなかったんですよ」
リカ 「だから曲を作るときもこのアルバム用とそれ以外で区分けしながら作っていたんです」
──小さい頃から旅が好きだったんですか?
リカ 「小さい頃は家族旅行などをしていたくらいで、本格的には大人になってからですね。実は全都道府県制覇しているんですよ(笑)」
──47都道府県全部ですか? それはまたすごいですね。
リカ 「仕事もプライベートも合わせてなんですけどね」
──ちなみに一番のお気に入りは?
リカ 「宮崎、鹿児島ですね。人があたたかくて、特に自分にしっくりきたんですよね。空港で現地のおばちゃんにオススメの観光地を聞いたときも、“もし道に迷ったり困ったりしたことがあったらここに連絡してきてね”と、自分の連絡先電話番号まで教えてくれたんですよ。なんていい人なんだーと思って(笑)」
──細かい質問で申し訳ないんですがタイトルで「trip」を使われていますけど、「travel」や「jouney」などにしなかった理由ってありますか?
リカ 「“travel”は観光のイメージが強くあって違うなと思ったんです。“journey”はLife is journey ではないけれども、壮大なイメージがあって。”trip“は”過去、現在、未来へトリップする“という使い方もあるように時間軸や、気軽に場所を移動するという印象があるんですよね。それこそ散歩でも行ける、といったとっつきやすいイメージがあったんです。日常にもっと密着している感じを出したくて”trip“にしたんですよ。小旅行だったり、過去や未来に想いを馳せるトリップだったり、色んなイメージを持てますし」
──これまでの旅行で印象的だった出来事があれば。
リカ 「パリは駅で何気なく抱き合っているカップルが絵になるといったような、小さなストーリーがあちこちに詰まっている街だと思いましたね。どんな会話をしているのかなどを想像したり、街を歩いているだけで絵になる場所がたくさんあって、インスピレーションを受けてメロディがどんどん湧いてきたんですよ」
──日本でもカップルが歩いている光景を目にすることがあると思いますが?
リカ 「うーん、何故か全く思いつかないんですよね(笑)。日本でいちゃついているカップルを見てもなんとも思わないというか、日常だからなんでしょうね」
及川 「旅行って、旅先で一つでも多くのことを吸収しようとするじゃないですか。決められた時間を有効に使おうとするしね。やっぱり非日常の特別な条件だから自然と取り入れようとする気持ちが増すんじゃないかな」
リカ 「今まで考えたことも気にしたこともなかったようなことが、パリでは街のいたるところにあったんです。パリの街並み、恋人同士の歩いている姿が自分の目に映ったときは、過去の恋愛経験が走馬灯のようにぐるぐる回って、音符となり歌と一緒に出てきたんですよ。詞とメロディーが一緒になって」
及川 「リカちゃんは曲だけ出てくるってことがないよね。デモを聴かせてもらうときでも、最初から詞がちゃんとついているし。普通デモだったらラララ・・・と歌詞をあとからつけることが多いんだけどね」
リカ 「あまり意識していなんだけど、メロディと歌詞が一気にできあがる時もあるんですよ」
及川 「同時にできあがる人って珍しいし、それがリカちゃんの特徴でもあるよね」