石田ショーキチさんのデビュー20周年特別企画第2回は、昨年開催されたスペシャル・イベントレポートです。
2013年9月1日、石田ショーキチさんがスパイラル・ライフのメンバーとしてデビューした1993年9月1日から20年経ったまさに当日、お台場にあるイベントハウス「東京カルチャーカルチャー」でトークイベント「“FURTHER ALONG 20th anniversary TALK”!!」が開催されました。チケットが発売から30分で完売したこのメモリアル・イベントには120人のお客さんが参加。イベント3日後の9月4日に発売予定だったスパイラル・ライフのデビュー・アルバム「FURTHER ALONG」のリ・ミックス盤「FURTHER ALONG 20th anniversary mix」の全編を、石田ショーキチさん本人の解説つきで試聴。「FURTHER ALONG」の93年当時のレコーディングの秘話も交えつつ、3時間のスペシャル・イベントは大いに盛り上がりました。その伝説のイベントの様子を、特別編集版でお届けします! 「FURTHER ALONG 20th anniversary mix」を聴き返しながら、お楽しみください。
【出 演】石田ショーキチ (スクーデリア・エレクトロ/MOTORWORKS/スパイラル・ライフ etc.)
藤井丈司 (スパイラル・ライフデビューアルバム『FURTHER ALONG』プロデューサー)
佐々木良 (キンモクセイ/『FURTHER ALONG』現役リスナー代表)
【イベント企画協力/出演】黒須誠 (WEBディレクター/編集記者)
【特別ゲスト】黒沢健一 (MOTORWORKS/L⇔R etc.)
黒沢秀樹 (uncle-jam/L⇔R etc.)
岡田純 (アップル&ペアーズ)
【イベント・プロデュース/司会進行】河原あず (ニフティ)
企画・構成・文 黒須 誠/編集部
協力 東京カルチャーカルチャー/撮影 木目田隆行
・6月28日(土) 東京/下北沢風知空知
・7月11日(金) 京都/SOLE CAFE
・7月12日(土) 岡山/Desperado Bar side
・7月18日(金) 盛岡/GLOBE
・7月19日(土) 秋田/山王ろっくす
・7月20日(日) 仙台/Take
・8月02日(土) 梅田/ムジカジャポニカ
・8月03日(日) 近江八幡/酒游舘
・8月09日(土) 名古屋/夜空に星のあるように
・8月10日(日) 静岡/Living Room
・8月30日(土) 札幌/ムジカホールカフェ
・8月31日(日) 帯広/Live & Pub Chabo
・9月03日(水) 根室/どりあん
・9月06日(土) 東京/新代田FEVER
石田ショーキチ 「すみませんね、せっかくの夏休み最後の日に。集まって頂きまして、かたじけないです。今日は楽しんでいってください」
河原あず 「20周年まさにその当日に、石田さんの解説を聴きながら9月4日に発売されるスパイラル・ライフの新譜を聴けるというレア感もありまして、本当にたくさんの方に集まって頂きました。チケットも30分で売り切れたんですよ。というわけで、今日はよろしくお願いします」
石田 「はい、よろしくお願いします。でも、身も蓋もないことを言いますけど、普段、自分が聴きなれている環境で聴き比べないと、オリジナル盤と今回のリ・ミックスの違いってわからないと思うよ(笑)」
あず 「(笑)。まあ、イベント会場で100名を超えるファンが、作ったミュージシャン本人と一緒に新譜を聴くというのはなかなかない経験だと思うので、この空間を楽しんで頂ければと思います」
石田 「そうですね。それと、この部分はこう変えましたよ、とかこの部分はこういう風に修復しましたとかね、そういうポイントはあるので、聴きながら解説していこうと思っています」
あず 「なるほど、そういう音楽制作の裏側って表に出てくることってなかなかないですからね。ツイッターで石田さんが今回の制作に苦労されている様子を流していらっしゃいましたが、端から見ていてものすごく苦労されているんだろうなというのが伝わってきたので、苦労話などをお話いただければと」
石田 「時々、ツイッターでは、セールストークがわりに苦労話を小出しに出しましたけどね(笑)。はい、そういうわけで、解説を楽しんでいただければと思います」
あず 「よろしくお願いします! 始める前に、「リ・ミックス」ってそもそもなんだろうというのをお話ししたほうがいいのかなと。スパイラル・ライフのプロジェクトを引っ張っていた牧村憲一さんにもツイッターで間違えられていたんですが・・・「リ・ミックス」じゃなくて「リ・マスター」とあちらこちらで間違えられていたんですよね。それに複雑な思いで対応されていたと思うのですが・・・そもそも「ミックス」という言葉をある程度知っておいていただいたほうがいいと思うので、簡単に資料を作ってきました・・・こちらはなんでしょうか?」
石田 「これは93年当時の「マルチトラック・テープ」と呼ばれるものですね。今でこそレコーディングはパーソナル・コンピュータの中に録ってしまうんですけど。大体90年代くらいまで、テープ・レコーダーの磁性体の付いたテープに記録して録音していました。この会場にいらっしゃる年代の方であればカセット・テープを覚えている世代だと思いますけど、これはそのテープのパッケージですね」
あず 「皆さんがかつて使っていたカセット・テープの業務用とざっくり思っておけばいいんですよね?」
石田 「そうです。で、この一本のテープの中に、48本の道がついているんです。48本、それぞれこのトラックには歌をいれたり、このトラックにはギターをいれたり、48の別々のパートが一本のテープで録音できるんです。曲を作るときは、一本のテープの中で48個の音を重ねて作るわけですね。デジタル化して、パソコンでレコーディングができる現代は際限なく何百トラックでも重ねられるんですけど、この時代は一本のテープの幅が決められていたので、48チャンネルと決まっていたわけです」
あず 「例えば一回目ドラムの音を録って1トラック目に入れました、ギターをじゃかじゃか弾いて 2トラック目に入れました・・・っていうのが積み重なってそれを48個組み合わせて、それを混ぜ合わせて一つの音にするっていう感じですね」
石田 「よくドラムから順番に録っていくと思われがちなんです。特にプロは丁寧に仕事をやるからドラムから順番に録っていくと考えがちなんですけど、そんなことをやっていたら終わらないんですよ、レコーディングって(笑)。実は、みんな一緒に、ドン! と演奏するんです。そこから、それぞれのトラックの音を取り出していくわけです。その後、ギターを後から重ねていったり、ヴォーカルを録り直したり、コーラスを重ねていったりして、レコーディングが進むにつれて音が緻密になっていくんです」
あず 「20年前にミックスをやったのがスクーデリア・エレクトロで一緒にやった、石田さんがエンジニアリングの師匠と呼んでいる、寺田康彦さんなんですよね。今回の「リ・ミックス」というのは、このミックス自体を完全にやり直すということなんですね」
石田 「はい。そうです。ただですね、話はちょっと変わるんですが、現代における「リ・ミックス」が別のものとして録り直す、違うアレンジに差し替えるという解釈に変わってきているんです。そもそも「リ・ミックス」というのはミックスをやり直すということであって、アレンジを変更するということではないんですよね。アレンジが違うものは ○○バージョンと本来は呼ぶんです。ただ、最近の若い人たちが、アレンジを変えて演奏したバージョンのことを○○ミックスという風に言ってしまうことはあります。けど、本来は、ミックスというのはあくまでスタジオでの作業上での話なんですね。今回の「リ・ミックス」はまさにその、ミックスの作業のやり直しということです。スパイラル・ライフでも『Freaks of Go Go Spectators 2』というアルバムで、リ・ミックスを何曲か入れていました。やっていることは、基本それと変わりません」
あず 「で、その「ミックス」が終わった後に別行程で「マスタリング」があるんですよね」
石田 「はい。ミックスが終わると、1曲1曲オーディオのパーツとして曲ができあがった状態になります。それを1本のアルバムとして、10曲入りのアルバムであれば10曲のオーディオを、それ ぞれの音の大きさの調整や、イコライジング(注1)をしたりして一枚のマスターCD(注2)を作る、これがマスタリングです。ちなみに、「リ・ マスタリング」というのはこの1曲1曲の音量とかをもう1回作り直すことをいいます。「リ・ミックス」のように楽器同士のバランスを変えることをマスタリングはしないし、あくまで出来上がった1曲1曲のピースはそのままで、その1曲1曲の音量とかを変えるのが「リ・マスタリング」なんです」
あず 「大瀧詠一さん(注3)が10年に一回の頻度で、よく名盤の「ロング・バケーション」を「リ・マスタリング」でリリースされていますけど、それがまさにこの作業?」
石田 「そうですね。「リ・マスタリング」だから、ミックスからやり直しているわけではないんです。いわばCDを製品化する前の最終段階の作業ですね。だからリ・マスタリングというのはそんなに大変じゃないんですよ。よく皆さん大騒ぎしますけど(笑)。実は、アルバム一枚リ・マスタリングするのって、1日あれば終わる作業なんです。でもミックスからやるのは、途方もなく大変だったんです。他の仕事も抱えながらだったのもあって、作業開始から50日くらいかかりましたね」
(注1) 【イコライジング】 ある周波数の音を増減させて、全体的な音のバランスを調整する作業
(注2) 【マスターCD】 原盤ともいわれる。プレスして製品化するCDの大本となるCD。
(注3)大瀧詠一さんは、このイベントのおよそ4か月後の2013年12月30日に急逝。2014年1月11日に同じ会場の東京カルチャーカルチャーで開催された石田ショーキチ新年会トーク&ライヴ「ワイン・チキン・ミュージックナイトVol.4」では、ゲストの谷澤智文さんと石田ショーキチ氏により、「君は天然色」と「A面で恋をして」がトリビュート演奏された。