読者の皆さんは、音楽ブロガーレジーさんが運営している「レジーのブログ」をご存知でしょうか? レジーさんは会社員として働きながら音楽ブログを書かれており、今では商業ライターとして雑誌やWEBなどでも活動されている方です。最近ではAwesome City ClubやShiggy Jr.のインタヴューなども手がけられていましたので、当サイトの読者であれば読まれた方も多いのではないでしょうか。
■レジーのブログ 新企画「音楽で食わずに、音楽と生きる」前口上
レジーさんの書かれたこれらの記事では、音楽以外の仕事で生計を立てながら音楽と関わる働き方をしている人々が描かれています。ただ、これは昔からずっと行われてきたことで、特段目新しいことでもありません。インディーズで音楽活動をしている人の大半は、他の仕事をしながら音楽活動を続けています。今はメジャーで活躍している人も、インディーズの頃はアルバイトをして生計を立てながら音楽活動を行い、晴れて音楽だけで食べていけるようになったという人がほとんどです。音楽ライターやカメラマン、デザイナーなどバンドのスタッフとして、もしくは協力者として働いている方も同様です。音楽に関する仕事だけで生活できている人は1割もおらず、多くは音楽以外の仕事もしながら生計を立てているのがデファクト・スタンダードなんですよね。音楽マーケットが縮小してきている近年、その傾向がより顕著に表れていることをよく聞きます。
なおここで述べるダブルワークの意味としては、生活費補填のためにとりあえず働く副業ということではありません。好きなことを仕事にするための方法論の一つとして、会社員をベースにしつつも、複数の仕事を行う働き方の「複業」です。ライフワークとして、意識的にはどちらも生業として取り組む働き方をイメージしてください。この観点においては前回の特集記事である「ブルーバッジレーベル15周年記念インタヴュー」において、レーベルオーナーであるヒグマさんが、ダブルワークとして会社員の仕事もしながら個人の音楽レーベルを立上げた苦労とその魅力について、たっぷりと語ってくださっていますので、そちらもぜひお読みください。
ここ数年私も音楽以外の仕事を行いながら、一方ではアーティストへの取材、原稿の執筆・編集、イベント開催、バンドの広報・プロモーション、WEBサイト制作など様々な形で音楽に関する仕事をするようになりました。その過程において「働き方」について考え悩むことも多々あったものですから、今回縁あって似たような立場である音楽ブロガーのレジーさんと対談を行わせていただくことになりました。 レジーさんとの出会いは昨年11月に開催された都市型フェスの「エビス・ミュージック・ウィークエンド」のトーク・セッションです。偶然にもレジーさんが出演された際に、私もスタッフとして現場で働いていたことがきっかけで繋がりました。 また、昨年9月に私が開催したPOPS Parade Festival 2014に、彼が遊びに来てくださっていたこともあります(後日ツイッターで知ったのでそのときはお会いできなかったのです、笑)。
対談では30代半ばの二人が取り組むリアルなダブルワークについてお届けします。 話があちこちに広がり雑多にはなりましたが(笑)、前編ではメインテーマである「ダブルワーク・働き方」を、数日後に公開する後編では前編の内容をより深掘りしつつ、「音楽業界のマーケティングに関する意識」について最近感じているところをお届けいたします。これは偶然にもレジーさんと私がマーケティングの仕事をしているという共通点があったことで、対談中に自然と話に挙がったものなんです。編集スタッフや知人から面白いから載せた方がいい! というプッシュもありまして掲載することにしました。本対談が音楽の仕事に興味ある方の後押しになったり、また皆さんが音楽と向き合う上で考える材料になってくれたら幸いです。
対談・テキスト 黒須 誠/レジー
企画構成 編集部
黒須 「昨日会社の先輩・後輩と飲んでいたのですが、会社の仕事以外にも色々な活動をしている人がいることがわかったんです。うちの会社の役員には働きながらミュージシャンとしてCDを10枚以上リリースしている人がいたり、休みの日に楽器屋で講師をしている人、メディアでスポーツの実況解説をしている人、NPOを立ち上げた人もいて、会社の仕事をしながら他でも働くダブルワークの実例がたくさんあったんですよ。ただみんな表だって言わないだけだったようで(笑)」
レジー 「なるほど、みんな黙っていたわけですね(笑)」
黒須 「そうなんですよ(笑)。レジーさんも会社員として働きながら一方ではブロガー・音楽ライターとしても活動されていらっしゃいますよね。昔からダブルワークというかたちで取り組まれていたのですか?」
レジー 「いや、『レジーのブログ』がきっかけで商業媒体に文章を寄稿し始める2013年の春ごろまで、そんなことをするつもりは全くなかったんですよ。そもそも『レジーのブログ』も以前から続けていた”音楽について思っていることを書く ”という趣味の一環として始めたもので、mixi日記→Twitterと変遷するなかでたまたまブログを立ち上げただけなんです。だから今も二つ仕事をやっているというイメージはあまりなくて、遊びでやっていたことがたまたまそうなっているという感覚が近いです」
黒須 「インターネットが普及してきてからあちこちで言われている話の一つとして、”プロとアマチュアの境目がなくなってきている”という議論があります。レジーさんも最初はアマチュアとしてブログをはじめて、それが一定レベルをクリアしたから、お金ももらえる”プロブロガー”として活動されるようになったという理解で合っていますか?」
レジー 「ブログ自体からお金を得ているわけではないので”プロブロガー”と言うと語弊がありそうですが、文章を書くことに関する”プロ””アマチュア”という話まで広げればそうですね」
黒須 「アマチュアとプロとの境目はどこにあると思いますか?」
レジー 「難しいですね(笑)。”誰かから頼まれて文章を書いて、かつそこでお金をもらっているかどうか”が境目でしょうか。発注者の存在と、お金の存在。自分で勝手に書いているかぎりはそれがどんなに面白くてもプロではないでしょうし、逆に言えば文章は決して面白くないんだけど商業媒体から原稿料をもらっていたらそれはプロという扱いになるんじゃないかと」
黒須 「レジーさんのブログが注目されて、プロになったきっかけは何だったのですか?」
レジー 「商業媒体に最初に書いたのは先ほども触れたとおり2013年の春で、『クイック・ジャパン』のディスク・レビューでした。ブログを読んでくれていた編集の人がたまたま連絡をくれたんです。飛び込みで、急なんですけど枠があるので書きませんか? と。あと『MUSICA』にディスク・レビューを書くようになったのも同じく2013年です。編集長の有泉さんが夏ごろに声をかけてくれました。だから”きっかけ”ということで言えば、ブログを書き続けている中でそれを読んでくれていた人がいた、ということになると思います」
黒須 「ブログがきっかけというのは面白いですね。インターネット時代だからこそでしょうか」
レジー 「ブログが注目してもらえた理由を自分なりに今改めて考えると、音楽そのものがどんどん細分化していくなかで”リスナー論”、”フェス論”みたいな”音楽の趣味はどうあれ、いろんな人が何か言いたいと思うネタ”を扱っていたことが大きいのかなと思います。フェスの話だと、僕は『ロック・イン・ジャパン』に初回から毎年行っているんですが、その中で感じた空気の変化について書いたところ音楽ジャーナリストの柴那典さんや鹿野淳さんが面白がって拡散してくれたりしました。2000年頃から日本に広がってきたフェスカルチャーが10年ちょっと経って、ある種の”歴史化”が求められていたタイミングだったのかもしれないです。そういう意味では運が良かったですね。”ロックフェスには音楽好きじゃない人も集まる”という話は今では当たり前のものになっていますけど、僕が指摘した3年前にはわりと目新しく映ったのではないでしょうか」
黒須 「文章を書くスキルはどうされたのですか?」
レジー 「完全に独学です。ライタースクールなどにも通ったことはないですし。文章を書くのも本を読むのも小さいころから好きだったので、その積み重ねで何とかやっています。音楽に関する語彙は、学生時代に欠かさず読んでいた『ロッキング・オン』と『ロッキング・オン・ジャパン』に影響されている部分が大きいです」