#001 『胸キュン☆アルペジオ Takayuki Fukumura with Friends』/Various Artists

胸キュン☆アルペジオ~Takayuki Fukumura with Friends

 

 

 

 

 

 

 

 

『胸キュン☆アルペジオ~Takayuki Fukumura with Friends』

Various Artists

2012年11月7日発売 ¥2,300円(tax in)DQC-977/CD

 

<収録曲>

01.Majestic Monochrome / Three Berry Icecream 
02.風の声 / 胸キュンFriends
03.STARS / advantage Lucy 
04.Color of sound / Bertoia
05.空の味 / Clay Hips:Brent Kenji (From USA/Germany)
06.言の葉 / 胸キュンFriends
07.RIBBON / Swinging Popsicle
08.カリフォルニア / 胸キュンFriends
09.Your Music Will Never Die / VASALLO CRAB75
10.Fly down / the primrose
11.アルペジオの環 / 胸キュンFriends

 

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人と人の向こう側


text by 黒須 誠

「人と人をつなげる天才だった」。

歌詞カードを1枚めくったところに書いてあるこのフレーズが全てを物語っているといっても過言ではないだろう。故人がつないだ多くのミュージシャンが、彼の死後9年の時を経て集まり、アルバムを作ることを故人はもとより誰が予想できたであろうか。

 

トリビュート・アルバムときくと、『TRIBUTE TO FLIPPER’S GUITAR〜FRIENDS AGAIN〜フリッパーズ・ギター トリビュート』などのように、大抵はそのアーティストをリスペクトする複数のミュージシャンが、そのアーティストの曲をカヴァーするコンピレーション・アルバムといった性格のものが多いが、本作品は全て新曲でわざわざこのアルバムのために全参加アーティストがオリジナル・ソングを書きおろしたというのだから、故福村貴行を知らない人でも、彼がどれだけ愛されていたのかはそれとなくわかるだろう。

 

advantage Lucy、VASALLO CRAB 75の元メンバーであった故人の10回忌の節目に制作された本アルバムは’90年代中盤から今もなお続くネオアコ/シューゲイザー/ギターポップスなど、現代の下北沢の音楽シーンの一端を彩るミュージシャンが多数参加しているのが特長で、先のバンドはいうまでもなく、20年以上音楽活動を続けている元ブリッジのイケミズマユミのソロ・プロジェクトであるThree Berry Icecreamをはじめ、Swinging Popsicleやthe primroseなどの中堅、若手シューゲイザーの新星とも名高いBertoiaまで幅広い年代のミュージシャンが集まっている。

 

収録されている全11曲は故人への様々な想いを形にしているため、極個人的、極私的な詞が多いが、だからこそ伝えたいことも明快で聴き手にとってこれほどわかりやすく感情移入できるものはないともいえる。それは今でも福村のことを愛し見守っていて欲しいという願いがこもったadvantage Lucyの「STARS」にある「星降る夜は まっさきに探すのさ/この広い星の中は君に出会えた奇跡で満ちてる」、彼との思い出をふりかえりながら今も一緒であることを歌ったVASALLO CRAB 75の「Your Music Will Never Die」における「ライブハウスで語り合った僕らの青春ミュージック/またいつかあの日の夢をみた夢をみる」などにも見られる。前者は煌いたギターのイントロと甘さと憂いを併せ持つヴォーカルaikoの歌が存分に生かされているし、後者は突き抜けるようなギターのリフが印象的な疾走感あふれる楽曲に仕上がっている。また力強さと優しさの抑揚が魅力の藤島美音子が歌うSwinging Popsicleの「RIBBON」は、軽快なワルツのリズムに「キミの笑顔を 思い浮かべるたび あの頃の思い出が蘇ってくる/キミはみんなを結び付ける まるでリボンのようだね そう思うんだ」と、冒頭にも書いた彼の天才っぷりを如実に表したストレートな表現で心に届きやすい。

 

アルバム最後を締めくくる歌は「アルペジオの環」。これは故人が残したデモ・テープをもとに制作された歌らしい。彼がギターのアルペジオが好きだったことと、その彼が好きだった音楽の環を広げたいという意図がストレートに反映された歌だという。彼への感謝の気持ちを伝えるのにこれほどうってつけの曲はないだろう。

 

福村貴行はもうこの世にはいない。でも彼が生んだつながりが新たな作品を生みだし、また多くの人々の記憶に残り広がっていく。彼は死してもなおこうして新たな音楽を、人と人とのつながりを生み出しているのだ。確かに「彼は人と人をつなげる天才だった」。この言葉に間違いはないだろう。