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『夜はそのまなざしの先に流れる』 空気公団 2012年11月21日発売 ¥3,000円(tax in)/CD
<収録曲> 01.天空橋に 02.きれいだ 03.暗闇に鬼はいない 04.街路樹と風 05.つむじ風のふくろう 06.元気ですさよなら 07.にじんで 08.夜と明日のレコード 09.あなたはわたし 10.これきりのいま
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一回性と構築性の共存
text by 渡辺 裕也
ライヴに勝るものはないと考える人は多いが、録音された音楽を聴く喜びもまた、かけがえのないものである。その魅力について語り始めるといつまでも本題にたどり着けなくなりそうなので控えるが、音源を聴くという行為は、もうそこにはない過去の空気と触れることであり、筆者はそこで巻き起こるロマンティックな感情こそがポップ・ミュージックの原動力だとさえ思う。「録音」に魅了され続ける音楽家は今も後を絶たない。そしてこの空気公団もまた、その作業に特別な情熱を捧げるバンドと言える。
ライヴならではの一回性と、録音芸術としての構築性。空気公団の新作『夜はそのまなざしの先に流れる』は、その両方を掛け合わせたような作品である。日本橋公会堂に聴衆を集めて公開された本作のレコーディングは、今野裕一郎が率いる演劇集団「バストリオ」との共演という形で敢行されている。彼らがこの試みによって実現しようとしたのは、バンドが音で表現する世界観の可視化/立体化であり、同時にそのイメージをさらに拡大させることでもあった。ヴォーカルでメイン・ソングライターの山崎ゆかりは、メンバーおよび演奏者、そしてバストリオに「穴」という本作のテーマを前もって伝えていたそうだが、その「穴」をどう表現するかは各々に委ねたのだという。テーマの解釈を揃えないままライヴ・レコーディングに臨むというのは、いささかリスキーなようにも思えるが、空気公団というバンドの本質はむしろここにあるのかもしれない。
つまり、空気公団の音楽とは、「山崎ゆかり、戸川由幸、窪田渡の3人」とイコールではない、ということである。そういえば、ライヴ・レコーディングを無事に終えてスタジオでの作業に移る際、山崎はヴォーカルを別人の声に差し替えることも検討したという。結局その案が採用されることはなかったようだが、こうして本作の制作プロセスを知っていくと、空気公団の音楽にはいわゆるバンドにありがちなエゴイズムがほとんど見当たらないことに気づく。結成からの15年間、常に彼らの活動の中枢にあったのは、その音楽が鳴り響く「時間」をとどめることであり、そこでパーソナリティの主張が求められたことは、恐らくこれまで一度もなかった。その「時間」に向ける探究心が結びついた先に生まれたのが、この『夜はそのまなざしの先に流れる』である。冒頭の“天空橋”から聞こえる秒針の音が、あまりにも示唆的に響いてくる。
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