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『DUET』 Chocolat & Akito 2012年11月28日発売 ¥2,000円/CD
<収録曲> 1. One 2. ジョヴァンニ 3. 扉 4. Daddy Daddy 5. Don't loose your heart 6. 静かな平和 7. 黒猫 8. Sweet dreams
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ひとつになれたら
text by 立原 亜矢子
地球が踊ったその日から、なにかにつけて愛だの勇気だの歌うものだから、正直いっておなかいっぱいだった。そういう意図が仮になかったとしても、その日を境に発表されたものは、そういう風に出来ているものだと見なされてしまう風潮がどこかにあるような気すらもした。そういう風に感じてとってしまう自分も嫌だった。本来ならもっと純粋なものだったはず。それでも音楽は鳴り続ける、もっと純粋に音楽を楽しみたい。
この世の中に散らばっている純粋なもの、それは愛だと私は思っている。人それぞれさまざまな形があるけれど、誰かを慈しみ、愛することは何物にも何事にも置き換えられない、心から涌きあがる純粋な感情である。もう愛だの勇気だのおなかいっぱいだと思っていたけれど、この『DUET』というアルバムは純粋にいいと思えた。自然と滲み出る優しい暖かさがとても沁みたから。
なるほど、じゃあこれは Chocolat & Akito 夫妻の愛が詰まった多幸感溢れる一枚なんだろうなあと侮ることなかれ。1曲目「one」から、その期待は良い意味で大きく裏切られる。なんと、いきなり失恋するのである。しかし、ここで指す失恋は、復縁できないといった修正不可能な失恋ではない。恋から卒業して、愛へと変化する様子を歌っている。もう相手なしでは生きていけないと確信した瞬間に、恋が本物の愛へと変わり、自然とふたりがひとつになる。「この世界を見つめると/言葉が奪われた/沈黙の中/孤独の中/確かな愛だけ/強く感じる」という描写は、相手の存在がどん底で真っ暗な絶望の中でも明るく照らしてくれる道しるべとなるということを言いたいのだろう。ボサノバのように鳴り響く曲調も相まって、ありふれた日常にある普遍的な愛にパッと明るさや彩りを与えてくれる。
そして、この曲は Akito(Vo/Gt) ことソングライターの片寄明人がもうひとつ掛け持つ Great3 の「彼岸」と表裏一体になっていることにお気づきだろうか。「彼岸」も恋から愛へと変化する楽曲なのだが、相手を“死”という体験をもって失ってから本当に愛していたことを確信している。片寄自身、オフィシャルサイトで次のように語っている。「「彼岸」の直接的なテーマは、結果的に活動休止タイミングと重なってしまったデビュー前からのGREAT3のマネージャー突然の逝去から始まり、この約7年間に両手では数え切れないほど自分の身に起きた、大切な友人達との別れです。そしてそのいくつかの哀しみは白根賢一とも共有してきたものでした。ラブソングと言っても、この世を去っていった人達へのラブソングです。」
同じラブソングとはいえ、ここまで幅を持たせて歌詞を書ける片寄はやっぱり素晴らしく、5年9ヶ月待たせた私たちに最高の音楽を届けてくれたと言っても過言ではない。『DUET』というタイトルからもわかる通り、夫婦をテーマにし、今作のキー曲「One」をいきなりはじめにもってくる演出も私たちを放っては置かない。気持ちのいい憎さ。
そんないじらしさを思う存分発揮しているのは、4曲目の「Daddy Daddy」。4つ打ちのドラミングから始まるダンサブルチューンに合わせて、愛しいが故にしてしまう喧嘩の様子を可愛く歌っている。けれど、「Daddy Daddy Daddy Daddy 赦しこそ愛」と言い切ってしまう彼らは大人だ。まだまだ子ども(といっても23歳)の私にはまだわかりかねる世界だ…。
そして、今夏多くの豪華ミュージシャンによってリミックス及びミックス・アレンジが施されたことでおなじみの「扉」。シンセサイザーの突き刺さるようにまっすぐで軽快なサウンドは、どこかDaryl Hall & Oates、Talking Heads といった80’sニューウェイヴのファンキーな印象も、50’sオールディーズの印象も受ける。
音は、過去に存在した古き良き時代のものを奏でているのに対し、出だしの歌詞は「閉じた扉は/無理にこじ開けず/執着しないで/開かれた扉/きっとその奥に/何かある」というように、様々なしがらみから解き放たれよう、未来へ向けて歩き出そうとする姿が見える。扉という言葉自体、次のステージへ進む通過儀礼のような意味も持つし、心のスイッチのような意味も持つ。おそらく聞き手に意味は委ねているのだろうけど、「知れば知るほどなんで/何も言えなくなるんだろう/まるで子供のように/無邪気になりたい/誰に笑われてもいい/後悔したくない/泣きっ面に蜂だって/少しでも前に進もう」と歌詞にあるように前進する人びとへ向けての応援歌のようだ。
冒頭で、もう愛だの勇気だのおなかいっぱいだと話したが、命の危険に曝されると家族の安否が気になるし、不安になると誰かの声を聞きたくなる。やっぱり根底には、豊かな愛が潜んでいる。そんな純粋無垢な気持ちを忘れたくないし、愛に触れるときのように、様々なしがらみから脱して、純粋に楽しく音楽を聴いていたあの頃の自分に戻れたような気がした。
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