音楽コミュニティアプリ「nana」を運営する nana music主催の音楽フェス「nana フェス」が去る8月23日に開催、話題のアカペラユニット Little Glee Monster (リトルグリーモンスター)が TBSドラマ『表参道高校合唱部』の主題歌「好きだ。」を披露したほか、企業ブースによる音楽体験、nanaユーザーによるセッション企画などでおおいに盛り上がった。
「nana」はスマホアプリ上でユーザーが「カラオケ」「バンドセッション」などを行うことができるアプリで、主に中高生を中心に100万ダウンロード以上を誇る人気を持つ。
通常のロックフェスとの大きな違いは、ユーザーが「出演者」でもあるということで、「参加型」と謡うようにイベント当日は、先に挙げた Little Glee Monster やニコニコ動画などでも有名な歌い手であるコゲ犬、あやぱんずなどのゲストアーティスト以外にも、全国から多くの nanaユーザーがバンド・セッションを披露、普段ネット上でコミュニケーションを取っているユーザーがリアルの場でもつながる機会になっていた。
くるりによる「京都音楽博覧会」、LUNA SEA主催の「 LUNATIC FEST.」などのアーティスト発のフェスや、音楽メディア主催の「ロック・イン・ジャパン・フェスティバル」「VIVA LA ROCK」、地域活性化を目的とした「OGA NAMAHAGE ROCK FESTIVAL」など、近年様々な主旨の音楽イベントが増加する中、nana フェスのようなスマホアプリ、インターネット上でのプラットフォームを提供している企業によるフェスは大変珍しい。
nana musicにとっては初となる大型イベント。事前には不安の声もチラホラ聞こえてきたものの、フタを開けて見ると、延べ1,000人以上が参加する大盛況のイベントとなった。参加したユーザーや音楽リスナーはもちろんだが、運営側もホッとしたところだろう。
普段インターネット上でコミュニケーションをとっているユーザーが、リアルの場で実際にライヴを行うのは、このご時世では珍しくはないものの(筆者も10年以上前から経験がある)、例えばmixiコミュニティで参加者を募ってバンドを結成しライヴを行う、というユーザーによる自発的な動きと比べて、企業がそれらをサポートする形での企画はあまり見られない。
筆者も当日イベント会場に足を運んだが、まず目についたのはユーザーの表情であった。一般的なロック・フェスではアーティスト目当てのファンが多いため、憧れの人間を観る人によく見られる笑顔、柔らかい表情、いわゆる羨望のまなざしが大多数を占める。しかしこのイベントでは自ら参加する人が多いこともあってか、緊張感、少しこわばるような表情を見せる人が散見された。だからといって何かネガティブなものがあるということではなく、雰囲気が異なったということだ。
またアマチュアで音楽活動している人間にとって、ステラボールのような大きなステージで演奏できることは、大変魅力的なことだ。通常、アマチュアのバンドがライブを行うとなると、数十人から数百人のライヴハウスがいいところである。あとは部活のブラスバンドの定期演奏会で公民館やホールで演奏するといったのがある程度だろう。それがプロと共演もできる上に、1,000人クラスのステージでライヴができるということは、嬉しい以外の何物でもない。
そして nana フェスでは島村楽器などの企業ブースもあった。音楽に携わる事業を展開している会社によるプロモーションも兼ねたブースで、音楽ゲームのほか、オーディション体験やレコーディング体験など、音楽制作に興味がある nanaユーザーにとっては魅力的に映ったであろう。学生の若い時分からそれらに触れられる場はあまりないわけで、参加したユーザーにとって貴重な機会になったのではないか。
本イベントは「ネットとリアルを繋げて、nana アプリに参加しているユーザーコミュニティを活性化」することが一つの大きな目的のようなので、今回のフェスを通じてそれらは達成できたと言えるだろう。イベントの合間にユーザーネームを交換するファンの様子も多数伺えた。
ただ筆者が注目している点は別にある。「ネットとリアルを繋げる」だけなら、そこは mixiの音楽コミュニティ、セッションコミュニティなど過去のプラットフォームでも散々行われてきたことで、目新しくはない。
この nana music の活動における一番の魅力は、音楽制作者予備軍とプロの間の大きな溝、スキマを埋めるサポートプラットフォームであるという点だ。アマチュアがプロデビューする方法は、インターネットの発達により多様化しているものの、レコード会社などがプロデビューできそうなアーティストの卵を探す際に、従来のオーディションやコンテスト以外に、ネットで活躍している人へ対象を広げたというのが近年の流れだと認識している。
nana music はアプリを使うことで、誰もがスマホだけで簡単に参加できるよう敷居を下げた。そしてこのプラットフォーム上では自動的にコミュニケーションが深まり、参加者が互いに育っていくようになっている。その表現の場としてアプリ上はもとより、今回のようなイベントを行うことで、プロとアマチュアとの懸け橋、つながるきっかけを作っている。ステージに立ったユーザーは、恐らくまた立ちたいと思うだろうし、これがきっかけで本格的に音楽の道に進みたいと思うかもしれない。
今後、レコード会社やレーベルの新人開拓担当者が nana フェスに参加することで、アマチュア・ミュージシャンがプロデビューできる流れを加速できるのではないだろうか。他にも nana music
の利用者へ音楽制作のノウハウやTIP集といったコンテンツを提供することで、彼らがミュージシャン、表現をすることに対してより深く興味を持つようになるだろう。
毎日3万曲がアップされるこのコミュニティーには、濃い音楽リスナー・ファンが集まっている。レコード会社やアーティスト、楽器・機材メーカーなどにとっても nana music
は大変注目に値するだろう。今後の活動がとても楽しみな音楽プラットフォームである。(MK)