公式直販サイト「ポプシクリップ。ダイレクトストア」開設にあたって

 

公式の直販サイト「ポプシクリップ。ダイレクトストア/Popsicle Clip. DIRECT STORE」を開設することにしました。

 

ポプシクリップ。ダイレクトストア

 

インディーズ雑誌「ポプシクリップ。マガジン」や「ミオベルレコード」の作品、その他関連アーティストの作品やグッズなどを取り扱います。先に申し上げておきますが、私たちが制作している作品に理解を示し、応援してくださっているレコード・CDショップなどのご販売店様でも、原則これまで通りお買い求めいただけます。読者・リスナーの皆様には入手経路が一つ増えた、とお考えいただければ。

 

公式直販の運営については、これまではあえて避けてきました。雑誌や音楽CD・レコードは定価販売が基本で、どこのお店でも等しく同じ価格で読者・リスナーの皆様にお届けができるため、他業界では当然のごとく起こっている、流通間の競争による価格下落などを考える必要がなく、既にある全国のご販売店様に委託することが、特に有志で運営しているちっぽけな立場(ほぼワンオペ)では、理に適っていました。

 

そのためイベントでの手売り以外は行っていませんでした。それは私自身、お店が大好きですし、昨今レコードショップは大変な状況に立たされていることも聞いていたので、少しでもお店で買ってもらうことがいいのではないかと思っていたからです。そのためポプシクリップ。マガジンやミオベルレコードの作品は、販売店での販売を優先する流通施策を展開してきました。

 

しかしながらパンフレット、それが発展した雑誌を作り始めて早7年、CDやレコードなどの音楽作品をリリースするようになってから3年が経ちましたが、年々その厳しさを感じてはいます。 お手伝いしている音楽ジャンルは、今の世間の流行からは少し離れたところにあります。またそもそも流行を追うようなことを一切しないという方針を貫いているため、ある意味自分で自分の首を絞めているのは理解した上で、それでも理想を追求し、インディペンデントで音楽家に投資を続け、音楽家の作品を生み出していくサイクルをまわしていくためには、少しくやり方をアップデートしていく必要があると考えました。

 

改めて申し上げておくと、私は立場上は編集長でもありレーベルオーナーも担ってはいますが、自分自身はどこにでもいる、普通の音楽ファンでもあり、その感覚を持ち続けることを大事にしています。

 

ポプシクリップ。を始めて10年以上経ちましたが、当初から変わらずストリート・チームの精神で運営、音楽家のサポートをしています。これまで一切の利益を取らず、経費を除いて全て音楽家や協力してくださっている方々に様々なかたちで役立てていただけるようにしてきました。イベントでは赤字のときは全額自己負担、黒字のときは全額出演者の謝礼に、パッケージの売上から出る微々たる利益も全額次回作へ再投資。普通の会社員ですからできることは少ないのですが(残業むっちゃ頑張ったりもしていますけど)、このような私の考えに賛同してくれる仲間が少なからずいるおかげで、これまでなんとかやってきました。このストリート・チームのスタンスを今後もできる限り続けていきたいと考えています。

 

しかし新型肺炎の感染拡大が続き、ここ数カ月イベントも全て中止になりました。またお世話になっているレコードショップも軒並み休業を余儀なくされており、一部の通信販売サイトでの販売はあるもの、販売が大幅に落ち込んでいるのはポプシクリップ。も例外ではありません。投資回収ができないことは、それにより音楽家、エンジニア、スタジオ、ライブハウス、デザイナー、プレス会社、カメラマンなど音楽を支えているあらゆる方々への影響が出ますし、何よりファンの方が楽しみにしている次回作のリリースにも影響が出てくるのは言うまでもありません。

そこでレーベルの公式直販サイトをスタートすることにしたのですが、はじめるにあたって読者・リスナーの皆さんにその目的をお伝えしておこうと思います。

 

主に2点あります。

・(新型コロナでライブやイベントでの収入が当面見こまれない中)収支を改善し、音楽家への再投資をより多く行いたい

・作り手からお客様に直接作品をお届けすることの意義を改めて考えていきたい

 

1つ目について、現状のポプシクリップ。マガジンやミオベルレコードに係る大まかな投資費用についても交えながらお伝えします。都合上%にしていますが、計算すれば実数値も大体ご理解いただけるかと思います。

上記は一般的な書籍の制作・流通コストと、ポプシクリップ。マガジンの場合の比較です。主となる私の人件費が無料なので人件費の支出は少ないのですが、その分を制作費などの必要経費に充当していることもあり、完売後の収支=限界利益が1%、トントンです。販売規模が小さいこともあり、デザイン費などの固定費も相対的に高くなってしまいますが、ある程度の誌面のクオリティを維持しつつ、ギリギリで赤字にはならずにすんでいます。もともと利益が目的ではなく良い音楽を伝えることが目的ではじめたので、赤字にならなければいいというスタンスでこうなりました。(少しギリギリすぎますが)なお一般書籍の費用内訳については、出版社の知人やインターネットで調べた情報を基に試算しています。案件により大きく変わるのであくまで目安です。

上記は関係者へのヒアリングに基づき、大手レーベルの新人アーティストが6曲入りのデビューミニアルバムを制作した場合※と、ミオベルで6曲入りのミニアルバムを制作した場合との実績比較です。こちらも変動要素が多々あるため一概には言えないのですが、販売規模が小さいのと制作環境提供を優先するというレーベルの方針から、ミオベルでは固定費となる音楽原盤の制作費が相対的に大きなウエイトを占めています。上記以外にJASRAC等への支払いや各種印税・諸経費も必要ですから、このケースではミオベルの場合、単純に完売しても赤字ですが、音楽家が必要と考える一定クオリティの制作環境を提供することが大事なので一定程度の赤字は覚悟しつつ、配信やイベントなども含めて3年5年と中長期な視点で、トータルで赤字解消となるようやりくりをしています。まだ道半ばではありますけどね。

 

なお、大手レーベルでは一つの案件に関わっている人間も多いため、人件費もたくさん必要です。人件費と印税を差し引いたらここ数年の案件単位の収支が厳しいのは恐らく同じでしょう(1作品で1万枚以上販売するような人気アーティストは除く)。なお大手レーベルの場合は数十年に渡って生み出してきた過去のカタログがあるために、案件単位では赤字でも、それを十分に補う過去の音楽資産、もしくはミリオンセラーとなるような一部の著名アーティストが、売れ行きの鈍い赤字案件分も吸収しています。先に挙げたフリッパーズ・ギターのPVには、新人アーティストに対し当時としても大変なお金がかけられていますが、当時ポリスターではWINKが大ヒットしていたため、その利益が彼らはじめ、他のアーティストへの投資資金の源泉になったと言われています。

<豆知識>

・メジャーはじめ一定規模の大きなレーベルやレコード会社の場合、近年新人では制作費と宣伝費合わせて1作品あたり150万~200万円程度が相場です。期待値が高いアーティストは新人でも500万程度予算がつく場合もあります。余談ですが1980年代後半にフリッパーズ・ギターがデビューしたころはミュージック・ビデオだけで2,000万円、90年代から00年代の新人アーティストのアルバム1枚あたりの制作費・宣伝費は1,000万円を超えることもざらでした。今から考えると信じられませんけど、当時は今のように自宅のパソコンで音楽制作をする環境がほとんどなく、原則スタジオを使用する必要があったことも影響しています。

・現代はパソコンと音楽ソフトがとても安価になったおかげで個人でも技術と機材を揃えれば、メジャークオリティにある程度近いかたちで録音ができるようになりました。オーケストラの録音といった生楽器を多数必要とする場合を除き、コストのかかる大きなスタジオは不要になり、近年、有名なレコーディングスタジオが次々と閉店しているのはそのような時代背景があります。一方で小規模のスタジオを立ち上げる個人のエンジニアも増えているほか、アーティスト自身が自宅にスタジオを作るケースも増えています。とはいえ、電源や防音、空間、何より機材の問題があり、余程売れている・裕福な方でない限り、個人の音楽家でプロのレコーディングスタジオ同等の機材や環境をそろえることは難しいので、クオリティを求めるならばスタジオでの録音は欠かせません。例えばヴォーカル録音のマイクには、1万円程度のものから、個人ではなかなか手が出せない1本100万円を超えるようなビンテージ機材まで、幅広い種類があります。一定程度以上のスタジオでは、このようなビンテージ機材も存分に使うことができるので、生音にこだわるミュージシャンには、スタジオでのレコーディングを好む方が多いのです。

・一般的な事例としては、ヴォーカル、ドラム、ストリングスやブラスなど、空間での鳴りが必要なパートはレコーディングスタジオで録音します。そしてギターやベースをライン接続で、またシンセサイザーなどの打ち込みやトラック作りは、宅録でもある程度の機材があれば、それほど遜色のない音質で録音できるので、それらを使い分けることで予算をおさえることがインディーズでは多いのです。もちろんギターやベースでもアンプを通した音の鳴りを綺麗に録る場合は、スタジオが必要です。制作予算に応じてやり方を皆さん工夫しており、極端に言えば全て宅録ですませれば制作費としての支出は0円にすることもできます(ただし音楽家やエンジニアによる各自への投資やそれまでの経験に基づくスキルがあることを理解しないといけません)。これといった正解はなく、個々の案件、アーティストのこだわりにより正解は変わります。

・生音を中心としたポップ・ミュージックを制作するインディーズの場合、アルバム1枚の制作・宣伝費として50万円から100万円前後は必要と考える方が多いようです。レーベルとしては、アーティスト毎に求める音像、彼らが実現した音像をサポートするため、個々の希望を踏まえて予算配分やマネジメントをすることが求められます。

・販売店のマージンや物流費(運送費・倉庫保管料・資材費・それらに関わる人件費等)は、大手レーベルの場合、ある程度の規模の論理が働くため、実際は25%程度から45%程度だと言われています。インディーズの場合は流通経路やお店によって異なり、25%~50%程度は必要となります。今回は比較しやすいよう40%平均で統一して試算しました。

ミオベルレコードのスタンスとして、音にはできる限り拘りたいと考えています。ご関係の方々のおかげで、特に近年の作品は大手レーベルの作品と比べてもそれほど遜色のないクオリティには仕上がってきているとは思います。(ここでいうクオリティとは、楽曲やアレンジの良し悪しではなく、音の良さを意味しています)。

 

もう少し制作費に投資ができたら、例えばアーティストが望む生の弦楽器を録音するなど、といったことなどもできるのですが、なかなかそういういわけにもいきません。しかしながら今後レーベルから直接買ってくださる方が増えて投資回収が進めば、アーティストの制作環境をもっとよくすることができるようになります。これが直販サイトをやろうと思った理由の一つです。

そしてそれ以上に大事なのは2つ目の「作り手からお客様に直接作品をお届けすることの意義を改めて考えていきたい」ということについてです。今回直販をやろうと思った一番の理由です。

 

この10年の活動の中で、改めて音楽ファンの皆様に本当に支えてもらってポプシクリップ。が存在できていて、そしてアーティストの作品をリリースすることができていると、特にレーベルを始めてからのこの3年間、感じる場面にたくさん出くわしました。

 

私はスタッフなので表に出ることはありませんが、それでもイベント会場にはいますから、自然とお客様の顔なども覚えます。そしてお客様の中には、私のことを覚えてくださり、いつもイベントで声をかけてくださる方もいらっしゃいます。リリースをしたときに、ファンの方から感謝の言葉をいただいたり、楽曲やイベントの感想をいただいたりすると元気が出るんですよね。やってよかったなあと。それはお手伝いしている音楽家の皆さんも同様に感じられています。物販でいただいたコメントなどは打ち上げでアーティストに共有しますし、もちろんアンケートなどもメンバー全員で回覧して読んでいます。ファンの方の意見を取り入れてライブを決めたり、リリースを決めることも結構あります。本当にありがたいことです。

 

そんな皆さんにもっと何かできないかな?とは前々から考えていました。例えばいちはやく作品をお届けすることができたらいいのになあと。ポプシクリップ。ではメールマガジンを不定期に出していますので、メルマガ登録してくださっている方には、一番早く情報のお届けをしていますけど、直販が加わることで、一番先に作品をお届けすることも可能になります。 また一般流通には出せないようなものも、直販であれば出せるといったものもあると思いますし、そんなこともこれからやっていきたいと考えています。

 

直販をやられているアーティストは世の中にごまんといますし、今さらと思われる方も多いとは思います。冒頭で述べた想いもあってこれまでは踏み切れなかったのですが、コロナの影響もあり、考え方を少しく変えていくことが、結果として音楽家のお役に立つことにつながると考えました。

 

正直申し上げて、費用構造なども含めて公開することが、いいことなのか、かなり悩みました。ただ、読者・リスナーの皆さんは音楽家を応援する仲間だと、勝手ながらそんな風に思っていることもあり、ポプシクリップ。やミオベルレコードの考え方を皆さんに改めて知っていただく機会を設けることにしました。

 

音楽家がコンスタントに作品を発表し続けることができるよう、これからもできる限り続けていきたいと思います。

今後ともポプシクリップ。並びにミオベルレコードをよろしくお願いいたします。

 

長文をお読みいただきありがとうございました。