次に今回お世話になった東洋化成のカッティングエンジニアである手塚和巳さんと、アルマグラフの美音子さんとKoji Sunshineさん、そして杉本清隆さんによる記念対談をお届けします。
カッティング作業終了後に行われた本対談では、メンバーが感じた作業に関する素朴な疑問から、レコード制作にまつわるミュージシャンならではのお話、そしてレコードの魅力や役立つお手入れ方法まで話に花を咲かせました。
司会・テキスト 黒須 誠
撮影 塙 薫子
企画・構成 編集部
協力 東洋化成株式会社
※本記事は2017年6月28日に発売されたポプシクリップ。マガジン第9号収録の記事を一部編集の上、期間限定で再掲載したものです
上記でそれぞれ試聴できます
Alma-Grafe / 杉本清隆『汽車を待つ列を離れ / Blowin' (the gloom away)』リリース記念インストアライブ
日時:2017年9月18日(月・祝) START 17:00(イベントは1時間程度を予定)
会場:HMV record shop SHIBUYA http://recordshop.hmv.co.jp/category/shibuya
出演:Alma-Grafe/杉本清隆
備考:イベント終了後にサイン会&チェキ会も開催!
黒須誠 「初めての立会い作業はいかがでしたか?」
杉本 「僕はとても神聖なものだと感じました。音を作っていくわけですからね」
Koji Sunshine 「とても不思議な感覚でしたね。今までレコードがどうやってできるのか、また音が鳴っているのか仕組みがわからなかったので」
手塚和巳 「CDと比べたら簡単なんですよ。レコードには“音溝”というものがあって、これは90度で切られています。その溝の壁面がそれぞれ左チャンネル、右チャンネルだと思ってください。そこにプレーヤーの再生針が落ちて針が壁面に触れることで音を拾い、鳴るという仕組みです。実際には少し違うのですが、イメージとしては音の波形が溝になっていると思ってもらったらいいと思います。ちなみに溝の部分は直角二等辺三角形なんです」
美音子 「小さいころ雑誌の付録についていたソノシートに、針を落として回すと音が鳴ったんですけど、それと同じなんですよね?」
手塚 「それが原型ですね」
Koji 「削る作業なのに削りカスがどこにもなかったのが不思議だったんです」
手塚 「削っているときに“シュー”とした音が鳴っていたでしょ? あれが掃除機の役割を果たしているんですよ。機械の針先の側にある細い管がそれで、削りながら同時に削りカスを吸い取っていたんです」
杉本清隆 「じゃあ機械の中に削りカスがたまっているんですね?」
手塚 「そうですね」
杉本 「疑問が解けてスッキリしました(笑)」
黒須 「せっかくなので、回転数と音質についても教えていただけないでしょうか? レコードには3種類の回転数があって今は45回転と33回転が主流で、45回転の方が音質もいいと言われています」
手塚 「先程のカッティング作業で、皆さんは音量を大きくしたいと話されましたよね? マスタリングエンジニアの方からもアドバイスがあったんでしょ?」
美音子 「はい、そうです」
手塚 「それは“一般的に人の耳は、大きな音で聞こえた方がいい音だと認識しやすいから”なんですよ。ですから音を大きく入れることで、再生した時にいい音だと感じてもらいたいという意味では正しいんです。でも音を大きく入れすぎると、さっきのように音が歪んだり潰れてしまうんですよ。これはレコードに限らずCDでも同様です。そして回転数については、45回転のほうが33回転よりも時間当たりの情報量が多いんです。だから45回転の方が少し大きな音で入れることができるので、一般的にいい音だと言われるのだと思います。その代わり33回転は45回転よりも長く録音できるメリットがあります。気になるんだったら再生するときにプレーヤーの音量を少しあげたらいいと思いますよ」
黒須 「今回作ってもらった7インチシングル、アルマグラフは約6分の曲なので33回転、杉本さんは約4分の曲なので45回転なんですが、それは回転数と収録時間の関係があったんですね」
黒須 「レコードやCD、配信といったメディアの違いについてはどうお考えですか?」
手塚 「個人的な見解ですけど、音楽は同じでパッケージ、形態が違うだけですよね。そうなると、メディアの違い以上に再生機器の違いの方が大きいと思いますね。再生機器が変わると音は全くの別ものになるんですよ。配信で聴かれる方の多くは、恐らくスマホなどに入れてイヤホンやヘッドフォンで聴きますよね。それとスピーカーで聴くのとは音楽体験が全く異なるわけで。配信音源でもいいアンプとスピーカーを通して聴いたら変わると思いますよ」
美音子 「レコードを手がけられている手塚さんから見て、CDはどのように映っていますか?」
手塚 「80年代半ば以降から次々とCDに変わっていきましたよね。そのときに僕はCDが素晴らしいものだと思いました。レコードよりも音圧を高く収録することもできるし、レンジも広いしね。その代りレコードに比べると抑揚のない音になってしまうという、CDならではの特性にも気がつきました。CDはその仕様やコンプレッサーという機械を通すことで低域を持ちあげて高域を抑える、つまり音を圧縮して収録してしまうことが実際には多いんです。一時期は圧縮してでも音圧を上げた方がいい音だという話もありましたけど、最近では圧縮するのをやめて、ダイナミックレンジを広げて収録するアーティストも増えてきていますよね」
黒須 「確かに周りのインディーズミュージシャンでは、音圧よりも音質を重視する人が増えています。メジャーレーベルの音楽作品を聴くと、未だ突っ込んでいる作品がたくさんありますが」
杉本 「特にチャート上位にランクインしている作品はそうだよね。その方がいい音に聞こえるのかもしれないけど」
黒須 「レコードの魅力はどこにあると思いますか?」
手塚 「僕は仕事柄レコードに携わっていますけど、だからといってレコードが一番だとは思ってはいないんですよ。CDでも配信でもそれぞれいいところがたくさんあるわけですから」
Koji 「意外でした」
手塚 「ただ、レコードの魅力が何なのかと言われるとそれは“自分で好きな音を作れること”だと思いますね。レコード針、すなわちカートリッジを変えるだけで音が変わるんですよ」
美音子 「確かにそうですよね」
手塚 「CDでそれをやろうと思ったらD/Aコンバーターを変えるような大掛かりなことをしないとまず無理なんですけど、レコードだったらカートリッジ一つで音が大分変わるので、そういう楽しみ方ができるのはレコードの魅力だと思いますね。皆さんはレコードを聴かれるのですか?」
杉本 「僕は小さい頃お小遣いを貯めて買っていましたね。今でも気になる作品はちょいちょいレコードで買います」
美音子 「私も大学まではレコードをたくさん買って聴いていました。周りにレコードショップもたくさんあったし、DJも流行っていたのでDJ用に買い漁っていた時代もあったんですよ。ただCDの方が取り扱いが楽だし持ち運びも便利なので、CDの方が圧倒的に多かったんですけどね」
杉本 「今の時代だからいいのが、中古レコード屋さんに行くと1枚100円でレコードが買えたりするんです。CDよりも安価に名作がたくさん買えるんですよね。それが結構魅力なんです。あとレコードの面白いところは、人によって接し方が違うところじゃないかと思うんです。例えば音質にひたすら拘っている人もいれば、コレクション目的で買っている人もいるし」
美音子 「お気に入りのジャケットを飾るのが楽しいんですよね」
杉本 「色々な楽しみ方がありますよね。それがレコードの魅力なんですよ」
黒須 「マニアになると同じ作品でもイギリス盤とアメリカ盤の両方を買う人がいるんですよ。プレスした工場が違うと音質が変わるからなんですね。レコードって奥深いんですよね。ついていくのは大変ですが(笑)」
Koji 「レコードの取り扱いについて何か気をつけたほうがいいことはありますか?」
手塚 「指紋はなるべくつけないほうがいいですね。それから市販で売っているクリーナーで汚れを取る方もいると思うんですけど、綺麗に取れないことも多いんです。そこでオススメなのはベッチンという生地を濡らして固く絞って拭くことです。綺麗に汚れが取れるんですよ」
杉本 「それはいいことを聞きました(笑)」
手塚 「あと、レコードそのものに傷がなくてもときどきノイズが入ることってありませんか? あれは静電気によるものなんです。レコード盤は動いているからどうしても静電気が発生してしまうんですね。そのあたりに気をつけるといいかもしれないですね」
黒須 「最後は役立つ小ネタまで(笑)。本日はありがとうございました」