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川本真琴、「ホラーすぎる彼女です」発売記念インタヴュー

自分の現在と今の自分がいる環境を撮っておきたかったんですよね。

──気を取り直して映画の話から先にお伺いします。映画を撮られるのは初めてですよね。

 

川本 「今回の映画は、私が自分で企画制作をしているんですよ。絵コンテとかも自分で考えてやっているんです」

 

──なぜ映画を撮ろうと?

 

川本 「今回ミュージックビデオを作る予定がなかったんですよ。でも何か映像を作りたいな、と思ったんですよね」

 

──それは「ホラーすぎる彼女です」に関するものですか?

 

川本 「うーん、なんか自分の現在と今の自分がいる環境を撮っておきたかったんですよね。ミュージックビデオにしてもよかったんですけど、なんか・・・ずっと続いていくもののほうがいいなと思ったんですよね。1回で終わりではなくて、自分の生活の中に短編映画が組み込まれていったら面白いなと思って」

 

──記録に残したいということですか? 違います?

 

川本 「いや、記録に残したいというよりは・・・創作ですね。映像で何か作っていくのが面白いんじゃないかと」

 

──今までご自身で映像作品を作られたことはないですよね?

 

川本 「ないですね。これまでもやってみたいなと思ったことは何度かあったんですけど、ドラマ性がなかったんですよね。景色だけを撮って、編集してみんなに見てもらっても面白くないし・・・やってみてはいたんだけど、なんかぼんやりしていたんですよね」

 

──短編映画は、今後何話作る予定なんですか?

 

川本 「何回やるとかも決めてなくて、自分の創作活動の一環としてずっとやっていってもいいんじゃないかと思っているくらいなんですよ。今回監督をお願いしている村山さんとは最近知り合ったんですけど、話をしてみたら“やろうやろう!”とわりとすぐに決まったんです。仕事という堅苦しい感じではなく、一緒に作っていこう、という感じでトントン拍子に話が進んだんですよね。話をしたのも1ヶ月前で(笑)」

 

──かなり最近ですね(笑)。それって20周年記念だからとかそんなノリもありますか?

 

川本 「いや全然関係ないんですよね。20周年とか、そういうお祭りごとを“よしやるぞ!”と気負っちゃうと逆にもう、力なくすタイプで(笑)。そういうのはできない人なんですよ。ただ、今年になってから“あれやろう”“これやろう”と思いつくことが多いんです・・・だから結果としてなんだか20周年ぽくなっていますよね(笑)」

 

──配信シングルの話があり、立て続けに短編映画の話もあってと・・・リスナーから見ると20周年記念に盛り上がっていくのかな? と気にはなりますよね。

 

川本 「だんだん自分でも楽しくなってきているんですよね。最初は別に20周年といっても何もなかったんですけど、最近は何でも20周年で(笑)」

 

──デビュー20周年というきっかけがあることで、新しいことができたり、人が集まってきたり、昔の人にまた会えたりと色々あるから楽しいと思いますよ。

 

川本 「確かに、これをきっかけに短編映画へ出てもらったり、ライヴのゲストでちょっと来てください、ということもできますしね。面白いかもしれないですね」

 

──映画のテーマは?

 

川本 「特にテーマはないんですよ。レーベル担当の金野(かねの)さんの最近の名言で“いきあたりばったりティム・バックリィ※”というのがあるんですけど(笑)、そんな感じですね」

 

※ティム・バックリィは1966年にアルバム『Tim Buckley』でデビューしたアメリカのシンガーソングライター。『Happy Sad(1969年)』『Blue Afternoon(1970年)』など。

 

──どんな映像にしたいとお考えですか?

 

川本 「最初はジム・ジャームッシュや北野武監督のような映像にしたいとは話していました。北野さんの作品『あの夏、いちばん静かな海。』に見られるような、しゃべらなくても映像中心で話が進むような作品がいいなと思っていて・・・。最初は絵コンテといっても何もなかったんですけど、ある日写真家の佐内さんと電話で話をしたんです。“短編映画を撮ろうと思うんですよ”“へえ、どんな感じにするの”・・・としゃべっているうちにイメージが膨らんで、佐内さんと話をしながら絵コンテができあがっていたんですよね。“主役はこういう感じだよね”、とか“カーテンの柄はいるかな?”とか」

 

──カーテンの柄って・・・割と細部から入るんですね。

 

川本 「そうなんですよ。細かいところから入るんです(笑)。でもね、私、曲の作り方もそうなんですよね。全体から入っていかないんですよ。細かく色んなものを作っていくうちにできあがっていく感じです」

川本真琴 
短編映画撮影時の様子

この歌は、最初の出だしに〈東京〉って入っているんですけど、ここを入れた時に“あ、できた!“って思ったんですよ。

──続けて「ホラーすぎる彼女です」についてお伺いします。クレジットを見ると、歌詞は川本さんとトクガワロマンさんの二人が、楽曲は川本さんが作られたと書いてあります。トクガワロマンさんと一緒にやることになった経緯から教えていただけますか?

 

川本 「トクガワロマンさんとはすごく長いつき合いなんですよ。それこそデビュー当時からよく知っている方で、私がマイベスト※に入ってからは、作詞だけを完全にまかせている曲もあるんですよ。『ホラーすぎる彼女です』は80%くらいは私が書いていますね。“こういう言葉がいいんじゃないか?”といったアドバイスをロマンさんからもらっていれてみたり、ですね」

 

※ディスクユニオンのインディーズレーベル「マイベストレコード」のこと

 

──この歌は楽曲を先に作られたんですか? それとも詞が先ですか?

 

川本 「曲先ですね。実は、この曲2年ぐらい前にできていたんですよ。某レコード会社のディレクターからオファーがあって、とあるアイドルグループ向けに書いた曲なんですよね。ところがその方の人事異動の都合で曲が戻ってきたんです。もともとそのアイドルグループ向けに書いていたし、男性のグループだったので仮ヴォーカルも男の方に歌ってもらっていて・・・自分が歌うとは思ってもいなかったんです。でも去年の秋ごろにふと自分で歌ってみようかなと思って、歌詞をつけてみたんですよ。そうしたら、いけるかも、と思って今年の1月の“やぎOナイト~ワンワンワン~”というイベントで歌ってみたんですね。そうしたらファンの方から、“この曲は発売しないんですか?”と聞かれて・・・“あ、いいかも”と思って、発売にいたりましたね」

 

──なるほど、そんな経緯があったとは思いもよりませんでした。ファンの方の一言って大きいんですね。続いて歌詞についてお伺いしたいのですが、作る際に何かテーマのようなものはあったのでしょうか?

 

川本 「この歌はイメージとか、そういうのを一切無くして書いたんですよ。やっぱり曲先なので、曲の雰囲気に囚われていたんですよね。それで、全然思いつかないなと・・・。しばらく寝かしておいたんですが、昨年、ふと詞を書いてみようと思い、曲のイメージとかもない状態で、歌詞だけを、今言ってみたいこと、伝えたいことを一気に歌詞にしたんですよ」

 

──僕はこの詞を読んだとき、やっぱり川本さんらしいなと思ったんですよね。以前の取材の際にも書きましたが、川本さんは昔から女性の気持ちや恋愛、乙女心について書かれることが多かったじゃないですか? いつもの川本さんだなと、まず思ったんですよね。今回の詞は川本さんの体験をベースに書かれたものなんでしょうか?

 

川本 「やっぱりそうですね、自分の体験を通じて歌詞になっていますね」

 

──甘酸っぱい想いだったり、こうあって欲しいな、という気持ちがこめられている詞だと思ったんですよ。例えばAメロに出てくる〈キスはそっけなく切ない〉〈なんで二人になると 優しくなってしまうの〉といった何気ない一節も、自分の経験と照らし合わせてみると、こういう情景って昔あったよな、と腑に落ちる感じがすごくあってグッと来たんですよね。

 

川本 「うんうん、なるほどね」

 

──歌詞についてもう少し詳しく伺えますか?

 

川本 「この歌は、最初の出だしに〈東京〉って入っているんですけど、ここを入れた時に“あ、できた!“って思ったんですよ。私、歌詞というのはそのときの記録みたいに思っていて・・・ちょっと大袈裟かもしれないけど、そのとき自分が生きていた記録というか・・・それで、その時々の状況をどのように表現したらいいのか考えて歌詞をつけるんですよね。この曲も、自分が今、一番心の中に映っているものを歌詞にできたと思いますね」

 

──この歌・・・もしかして福井で書かれました?

 

川本 「これはそうですね、福井ですね」

 

──やっぱりそうなんですね・・・“東京”を強く意識されていたので。

 

川本 「・・・実は・・・私の周りでは、最近東京を離れて実家に帰るという話が結構多かったりするんですね。仕事の関係みたいで、今やっている仕事から変わるという人が多くいて・・・その、なんていうのかな、東京って移り変わりがシビアだったりするじゃないですか? それでどうしても帰らなきゃいけない状況になったり、仕事を変えなければいけない状況になったりとか・・・そういうところに焦点を当てることができたと思いましたし・・・そのどうしようもない状況の中で、この先、この人とは、何年後かには東京で会うことがないのかもしれないなっていう・・・そういうのって今の東京って感じがしませんか? もしかして2年後にこの人とは東京では会ってないかもしれないなと、もちろん自分が東京にいないかもしれないですし・・・そういったことも含まれていますね」

 

──僕の周りでも実家に戻ってしまった知人や、都会を離れた友達が結構いますね。

 

川本 「私の周りだけではなくて、増えてきている気がするんですよ。その移り変わりの狭間で出会った人がいるじゃないですか? そのときの一瞬を切り抜いた歌かな、と思いますね」

 

──歌詞に〈出逢いは冬のストーリー〉とあるじゃないですか? この一節がとても気になっていて・・・。この“冬”というのは、あらかじめ別れが前提の出逢い、トーンダウンしていくような意味なんだろうなと思っていて、とても切ないというか、寂しい歌でもあるんだなって感じたんです。せっかく出逢ったのに冬だなんてね・・・。軽快なイントロがそれをより際立たせている感じもして・・・今のお話を聞いて腑に落ちました。

 

川本 「今言われた〈冬のストーリー〉も、ものすごくこだわっていた歌詞で、ずっと悩んでいた部分だったんですよ。周りからは“春に出すんだから、〈春のストーリー〉でいいんじゃないの?”と言われたりして(笑)、“いやいやいやそれは違うから!”と。今、黒須さんがおっしゃっていた通りですね。あと別れってやっぱり寂しいじゃないですか? でも生きているとまた会ってるよね、ということも多いじゃないですか? “あれ、また普通に飲んでるね(笑)”みたいなこともあったり。この歌詞には、私の中のちょっと楽天的なところで、包んでいる感じもありますね。寂しい気持ちで、もう一生会えないみたいなことじゃなくて、私はいつもここにいて、“ワンダーランド”って言っちゃっているんですけど、“いつでもいるから東京から離れてしまってもまた遊ぼうね!”みたいな想いを持っているんですよね。“いつでも来いよ!”みたいな(笑)」

 

──今のお話を伺って、この歌は東京と福井と2か所に拠点を構えている川本さんだからこその視点なんだろうなと思いました。どちらか片方だけだったら、多分一方の気持ちしかわからなくて書けない気がするんですよね。

 

川本 「確かに・・・東京だけにいたらもう少し殺伐とした気分かもしれませんね」

 

──僕も田舎出身なのであくまで想像ですけど、仮に東京だけに住んでいたら“また実家に帰るやつが一人いるのか、寂しいけど仕方ないよね”くらいの感覚で終わってしまうんじゃないかと。別れ一つとっても先のような捉え方をされたのは、実は川本さんらしさが出ているところだと思いますね。

        

 

 

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