Orangeade(オレンジエイド)というバンドがいる。佐藤望、大沢建太郎、黒澤鷹輔による3人組の男性グループで、2017年に結成された新進気鋭のポップスバンド。その音楽性から、近年日本のインディーズ界隈中心に人気が再燃しているシティ・ポップグループの一つ、と見えなくもないが、そんな単純なくくりでは語ることができない、大いなる可能性を秘めたバンドである。
特筆すべきなのは、その楽曲アレンジの妙である。当サイトの読者には、キリンジやLampにも通じる音楽と言えば想像がつきやすいだろう。それは音楽理論に裏打ちされたクラシックや現代音楽の手法も交えた独特なもので、デビュー当時に天才と絶賛された作・編曲家の北園みなみと、自身もカメラ=万年筆という実験的な音楽を志しながら、一方で婦人倶楽部をプロデュースし、早耳リスナーの半歩先の感性を持っている佐藤望という、2人の作・編曲家がタッグを組んだバンドだからである。音楽作品としてはある種の前衛的な傾向を含む2人ではあるが、そこにいい意味で一般リスナーの感覚をも持ち合わせている黒澤鷹輔の存在が、リスナーとの距離感をいい塩梅にとっており、バンドとしてのポップネスと、トライアングルを堅実なものにしていると筆者は考えている。
この3人にとって、オレンジエイドは初めてのアーティスト活動ではない。元々別のバンドをやっていたり、ソロ活動をやっていたりと、詳しくは本文に譲るが経歴も様々である。ある種の育ちの良さに加えて、豊かな音楽知識とセンスもあり・・・彼らの作品を聴いたとき、筆者は素直に「新しい」と感じた。それが何故なのか・・・何故昨今の多くのバンドやシンガーソングライターとは違うように感じるのか・・・取材を通じて一つ分かったのは、彼らが「編曲家目線を持ち、だからこそできる独特の制作手法で、新しいポップスを生み出している」ことである。彼らは世にも珍しい“アレンジャーソングライターグループ”なのだ。
今回の取材では、バンド結成からデビュー一年目の活動、そして新作『Broccoli is Here』に至るまでの経緯などについて、詳しくお話を伺った。この3月にはバンド初のレコ発リリースツアーも予定されて勢いに乗っている彼ら。ぜひ本インタビューで予習をしてもらえたら幸いである。最後に取材場所を提供していただいた、F氏にもこの場を借りて御礼申し上げたい。
Interview & text 黒須 誠/編集部
Photo 塙薫子
Orangeade
Orangeade
2018年2月21日リリース
1,000円+税
orange-01
収録曲
1. 港の見える街
2. わたしを離さないで
3. GreenLawns
Orangeade presents「Broccoli is Here」Release Tour & Party
2019. 3.25(Mon)Open : 19:00 / Start : 19:30
会場:京都 SOLE CAFE
前売:¥2,800(当日券なし)
出演:Orangeade-1 Guest : シンリズム
2019. 3.26(Tue)Open : 19:00 / Start : 19:30
会場:名古屋 K.Dハポン
前売:¥2,500 / 当日:¥2,800
出演:Orangeade-1 Guest : シンリズム
2019. 3.30(Sat)Open : 17:30 / Start : 18:00
会場:新潟 北書店
前売:¥2,500 / 当日:¥2,800
出演:Orangeade-1 Guest : 月の満ちかけ
2019.4.6(Sat)Open:18:30 / Start : 19:15
会場:江古田 BUDDY
前売:¥3,000 / 当日:¥3,500
出演:Orangeade Band Set
──まずはバンド名「Orangeade(オレンジエイド)」の由来からお伺いできますか?
黒澤鷹輔 「僕はもともと北園みなみ(大沢建太郎の旧名)のファンだったんです。彼のサウンドクラウドに〈Orangeade〉という曲がアップされていたんですね。その曲がとてもよくて好きだったんですよ。そこからバンド名をとったんです」
──他に候補はなかったんですか?
大沢建太郎 「“餅々倶楽部(もちもちくらぶ)”という名前も提案したんですけどね。米米クラブが大好きで、黒澤をステージのセンターにしてコメディアン風に仕立てて、イケメンが面白くかつ歌もうまいという想定で・・・」
黒澤 「一瞬、本当に“餅々倶楽部”になりかけたよね」
大沢 「でも2人とも嫌そうだったので(笑)」
佐藤望 「論外、ですよね」
大沢 「ちなみに望さんは“エチュード”っていうバンド名を挙げていたんだよね」
黒澤 「出た、そうだったよね!」
大沢 「今更だけど“エチュード”も良かった気がするね」
──名前を変えるなら、まだ間に合うかもしれないですよ(笑)
黒澤 「いや、名前変えすぎでしょ、大沢くんも名前変えたばっかりだし(笑)」
──ちなみに短縮形の呼び名、愛称はあるんですか?
黒澤 「今のところないよね?」
大沢 「ジ・エイドとか?」
一同 (笑)
黒澤 「でもオレンジエイドは略せないですよね。キリンジみたいにそのまま呼ぶのがいいかな」
──昨年のインタヴューでも伺いましたけど、バンド結成は2017年でしたよね?
佐藤 「そうですね、2017年の暮れですね。そして2018年の元旦から活動が始まったんです」
黒澤 「元旦だったね。去年の今ごろは制作で死んでたからなー」
──1枚目のシングル『Orangeade』は、確か2月下旬のリリースでした。僅か1カ月で作られたのですか?
佐藤 「1カ月もかかってないですよ。2週間位でレコーディングして一気に作りました」
黒澤 「去年1月は色々と詰め込みでヤバかったんですよ。望さんの、無駄のないガチなスケジュールがすごかったです」
──ところで、バンドリーダーは佐藤さん?
佐藤 「いやいや、違いますよ」
一同 (笑)
黒澤 「バンマスはいないんですよね。でもやっぱり望さんかな?」
佐藤 「いや、それは違うから。僕はディレクターなんですよ。制作進行をやっているだけなので」
大沢 「バンドの顔は黒澤だよね」
佐藤 「それはそうだね。バンドリーダーはいないかな」
──大沢さんと黒澤さんはどこで出会ったんですか?
大沢 「(長野県の)松本だよね」
黒澤 「大沢くんの知り合いの友達と松本に遊びに行ったんですよ。カラオケやったり飲み屋で飲んだり・・・もともと北園みなみのファンだったので、どんな人なのか興味があったんです」
大沢 「その前に黒澤からはサウンドクラウドでメッセージをもらっていたから、名前だけは知っていて」
──佐藤さんと大沢さんは?
大沢 「結構古いんですよ」
佐藤 「6年位前からの知り合いですね」
大沢 「同じボクシングジムに通っていたんですよ」
佐藤 「またそんな嘘言って(笑)。本当は共通の知人を通じて知り合ったんです。それから2015年に僕がプロデュースしている婦人倶楽部を大沢くんに手伝ってもらったり、カメラ=万年筆のジャケットを描いてもらったりして。色々なつながりがありつつ、今に至りますね」
──バンドをやろうと言いだしたのは誰ですか?
黒澤 「大沢くんかな」
大沢 「そうだね」
──それまで大沢さんは、北園みなみ名義のソロで活動されてきましたよね?
大沢 「そうです。前からバンドに興味があって始めたのがオレンジエイドです。“売れたらいいな”と思ってね」
一同 (笑)
──バンドをやりたかった理由はあるんですか? ソロ作品もポップスファン中心に評価されていましたし、ソロを続けていてもよかったと思いますが?
大沢 「もちろんソロ活動はこれからも続けていくことです。ただ黒澤が面白い人物なので、バンドをやろうかなと思ったんです」
黒澤 「やったー(笑)」
大沢 「最近はそうでもなかったかな、と思うこともありますけど」
黒澤 「どっちなんですかねえ」
一同 (笑)
──佐藤さんはいかがですか?
佐藤 「僕も北園みなみのファンでしたし、仕事でもつながりがありましたしね。黒澤は僕がモナレコードで働いていたときのお客さんで、そこでつながってはいたんです。まあ北園くんがバンドをやるっていうならやってみようかなと。ただ黒澤とバンドをやる気はなかったんですけどね(笑)」
──厳しいねえ(笑)
佐藤 「北園くんが一緒にやりたいというんだったらまあいいかなと」
大沢 「でも望さん、ツイッターで俺のこと殴りたいって書いているよね。絶対俺のファンじゃないでしょ?」
佐藤 「それは“北園みなみ”というアーティストのファンではありましたけど、一個人としては色々ありますからね、、、」
一同 (笑)
──うーん、原稿にしづらい話題ばかりですねえ。なるべく原稿にしますけど(笑)。
大沢 「なんだかんだ三人の仲がいいってことが伝われば、それでいいです」
──表向きの言葉は悪いけど、心の中では三人互いに尊敬しあっているということで、こんなまとめ方でよろしいでしょうか(笑)。
黒澤 「それでお願いします。それにマジで尊敬はしていますよ」
大沢 「そうじゃないとバンドは、続けられないからね。互いに迷惑をかけあいつつもね」
黒澤 「望さんは誰にも迷惑かけていませんけどね」
一同 (笑)
──バンドをやるにあたってのメンバー間における決まりごとはあるのですか?
黒澤 「うーん、むしろそれがないのがこのバンドの決まりごとじゃないですかね。例えば、僕が絶対に歌わなくちゃいけないというのもないし、絶対に望さんや大沢くんが曲を作らなければいけないというのもないし・・・」
佐藤 「一つだけあるとしたら“売れる”ってことですね」
──そのために始めたバンドだから?
佐藤 「いや、そこも少し違っていて。僕や大沢くんがやりたいようにやってしまうと、すごく実験的な音楽ができあがってしまう可能性もあって。カメラ=万年筆なんかそうだし」
大沢 「そうかもね」
佐藤 「当時北園くんも作品を3つ出して、色々な方向性を模索していた時期だったから、そのまま進んで非常にわかりづらいものが羅列されてしまっても困るなと。そのバランスをとるためにも黒澤がいるのは大切で。それでターゲットも絞らずに、多くの人に聴いてもらえるようにしたいなと思って始めたんです」
大沢 「バンドが売れたら解散後の活動もやりやすくなりそう、という話もしましたね」
──いきなり解散の話になっていますけど。
一同 (笑)
佐藤 「でも、イメージとしては、打ち上げ花火のように売れてから解散できたらいいと思いますね」
大沢 「解散というのは、このバンドでは前向きに捉えられるんですよ」
佐藤 「売れないで解散するというのが、一番カッコ悪いですからね」
──イメージしているバンド像はありますか?
佐藤 「ビートルズですね」
黒澤 「YMOかな」
──1枚目の『Orangeade』をリリースされたときの話から伺いたいのですが、当時の反響はいかがでした?
黒澤 「いっぱい売れて僕はただ単に嬉しかったです!」
佐藤 「僕も思ったよりは売れたな、って思いました。情報がほとんど出ていなかったというのが大きかったと思いますね。CD以外に聴けるものが他になかったというのもあるだろうし、何より僕と大沢くんがバンドを組んで、もう一人面白いやつがいるという限られた情報の中で、ネット上でのレビューや感想を見て買ってくれるという、いい流れができていたなと思います。でも売るまでは音源だけで本当に大丈夫かな?という不安はありましたけど・・・」
大沢 「確かにね、想像と違う形でバンドが進んでいったというのがかなりあったからね。でも思っていたよりも早く売れたのはびっくりしたね」
──皆さんのそれまでの活動の下敷きがあれば、期待が高まるのは当然だったと思いますよ。ただ、作品としては1枚目のCDをリリースした後、少し間が空いて、9月に7インチレコードをリリースされました。
佐藤 「1枚目を出したときから、なりすレコードの平澤直孝さんから声をかけてもらっていたんです。ただ、どれくらい売れるかわからなかったし、僕らもどうしていいか悩んでいたこともあって。平澤さんからは早く出そうよ、と言われていたんですけど、僕らの方針がなかなか決められなかったこともあって、時間がかかってしまいました。ただ周りからも7インチがあったらいいよね、という声もいただいていたので、じゃあこの機会に出そうかということで、お願いしました」
──なかなか決められなかったというのは?
佐藤 「バンドとしての次の活動目標が見えていなかったんですよ。1枚目をリリースしたのは良かったんだけど、その後の活動ができていなかったんです。ライブもやらないし、具体的な次の作品のスケジュールも見えていなかったし」
大沢 「ファンの方に出せるものが何もなくて、それで少し焦っていたところはありますね」
佐藤 「“あれ、このバンド、ワンショットで終わり?”のような空気も流れていたしね」
一同 (笑)
大沢 「バンドとして活動していることを、打ち出したかったんですよね」
黒澤 「だから7インチをリリースできたのは、正直有難かったですね。バンドにとっても大きなことだったんじゃないかな」
──脱線しますが皆さんレコードを聴かれるんですか?
大沢 「ほどほどに聴きます」
黒澤 「僕も」
佐藤 「僕、普段はほとんど聴かないかな・・・」
黒澤 「でも望さん、プレーヤーは持っていますよね?」
佐藤 「もちろん聴ける環境はあるよ。でも7インチって片面5分ぐらいのシングル盤じゃない。この時代にシングル盤を普段から聴く人って、相当マニアックというか、強い趣味の領域だなって」
大沢 「でもさ、レコードって売り上げが伸びているし、モノとしての魅力ってあるよね。買っても聴かなくていいっていう」
佐藤 「それはあるね」
──レコードはジャケットの大きさが魅力だったりしますよね。だから買っても飾るだけで、聴かないという気持ちもわかりますね・・・僕も自分のレーベルではレコードもリリースしているから、そんなこと言ってはいけないんでしょうけど。
一同 (笑)
──ただ、この7インチも売れ行き好調だと聞いています。
黒澤 「そうなんですよ。2月に再プレスも決まったんです」
──今の時代、アナログの再プレスってなかなか厳しいですよ、レーベルオーナーとしても実感しているので。
佐藤 「でも、最初からもっと作っておけばよかったのに」
一同 (笑)
大沢 「まぁ出たばかりのバンドですからね」
──レコードってね、売れているようでCDと比べたら実数はそんなに出ないんですよ、一般的には。1枚目だし仕方なかったんじゃないかな。ところでこのアナログ盤はCD盤からミックスを少し変えていますよね?
佐藤 「基本的なところは変えていないんですが、アナログ向けのマスタリングに合わせて、レベルを調整するなどの直しはしていますね。アナログは自分で音量調節ができるということもあって、CDほど音圧をバキバキにあげる必要がないんですよ。レコードらしい、楽曲のダイナミクスを活かしたミックスになっています」
──昨年12月には待望の1stミニアルバム『Broccoli is Here』をリリースされました。まず気になったのがタイトルでして。
黒澤 「ある日、大沢くんから“Broccoli is Here”というタイトルがいいと提案があったんです。それだけです」
大沢 「なんとなく出てきた言い回しです」
──アルバム名はいつ考えられたんですか?
大沢 「曲ができあがった後ですね」
──ブロッコリーは、何かの“象徴”なのかと思っていました。ネギやピーマンのように苦手な人が多い食べ物なので、暗に意味するものがあるのかなと。
大沢 「僕はブロッコリーが好きなので“好きな物の象徴”になるのかな」
一同 (笑)
佐藤 「マジメな話、一つ言えるのは“Broccoli is Here”と聞いたときに、黒須さんが感じられたように、“何かの象徴なのかな”、“Hereってどこなのかな?”と、実際には意味がないんですけど、聴き手に考える余白があることが面白いんじゃないかということですね。何か意味がありそうに感じてもらえるタイトルだと思うんですよ」
黒澤 「後付けですけどね(笑)」
──なるほど、まんまとひっかかりましたね、僕は(笑)。
一同 (笑)
──アートワークも・・・そのままですよね。
佐藤 「これは知人の家で撮りました。構図はあまり決めていなかったので、撮っていくうちにこれだとフィットするものを選んだんです」
──ただ、この写真のブロッコリーには枝が残っているじゃないですか? 普通に食べるものとは少し違うなと。
佐藤 「あ、そうですね。普通のブロッコリーって枝が全部落ちているじゃないですか? 実はわざわざ枝が残っているブロッコリーを探したんです」
大沢 「ほとんどのスーパーでは枝が切られていたので、結構苦労しました」
黒澤 「5軒ほど周りましたね(笑)」
──意味がないと言っているわりには、こだわりがあるんですね(笑)。
一同 (笑)
──1枚目と2枚目では半年以上間が空きましたけど、この2枚に関係性はありますか?
大沢 「作品毎に各々のコンセプトを持ち寄って作っているので、前後に関連はないはずですね」
──1枚目は天気でいうと晴れのような明るい印象が強く、今回の2枚目は曇り、憂いを強く感じたんですよね。同じバンドながら、全く違うものが出てきたところに興味を覚えたんですよ。意図的に変えられたのかなと?
佐藤 「曲が並んだ時点で、1枚目とは明らかに違う、日常の延長のような質感をこのアルバムに感じたというのはありますね。人としての何かの葛藤だったり、自分で考え事をしているときのことだったり、部屋で音楽を聴いていたり本を読んでいる様子だったり。ジャケットを見ても1枚目は外だけど、2枚目は部屋の中ですしね。最初から意図したものではなかったですけど、何かしらの対称性というのは表れているとは思いますね」
──皆さんの楽曲はオーケストラというか、器楽的アプローチによるアレンジを下敷きにされているじゃないですか? 数多あるポップソングに見られる同じフレーズの単純な繰り返しではなくて、起承転結があること、つまり物語性をサウンドから感じるんですよ。
佐藤 「今の時代、バンドという形態の中で譜面をばっちりと書きあげてからレコーディングに望むことって、なかなかないんですよね。我々の場合は譜面をしっかりと書いている、ということがあるんですよ。ギターにしろ、バイオリンにしろ、フルートにしろ、基本的には決められたフレーズを演奏してもらって、完成に持っていくスタイルを取っているので・・・現時点では、ですけど。それを考えると、他のバンドと比べたら黒須さんがお話しされたように、我々は器楽的なアプローチになっているということなんでしょうね」
──続いてアルバムの構成なのですが、ポップスのアルバムとしては珍しくインストルメンタルの曲が2曲も収録されています。区切りの意味で挟んだり、導入部に入れている作品はわりと見かけるのですが、意図的に作品として入れられている点が新鮮でした。いわゆる歌ものポップスのアルバムではないんだなと。
大沢 「今回はインストを入れるかどうかというよりも、まずは“アルバムの構成”を考えたんです。僕の楽曲は左右対称の構成になっているんですよね。左右対称というのは、例えばAメロ、Bメロ、Cメロとあったらその次はBメロ、Aメロと戻っていくような構成のことです。じゃあ作品自体も左右対称にしようってことで、それで5曲のうちの2曲目と4曲目をインストにすることで左右対称になるなと、そういう発想で作りました」
──なるほど・・・その上でピアノを主体とした楽曲になっているのは?
佐藤 「それは僕らのメイン楽器がピアノだからですね」
大沢 「そうそう、普段ピアノばかり弾いているので」
佐藤 「それと・・・僕の場合は、普段音楽を聴く際に、歌が入っていることと、入っていないことを区別していないんですよ。“じゃあ今日はインストを聴こう”という発想はないので・・・生活の中で普通に音楽を聴くにあたって、そこは意識していないところなんです。つまりオレンジエイドは歌ものポップスをやろうと最初から思っているわけでもなくて、普遍的なポップスのくくりの中で歌があったりなかったり、という感覚なので、インストがあることは自然なんです」
大沢 「確かに歌ものをメインに聴いている人からしたら“インストを聴く”ということに意識がいってしまうんですよね。それはよくわかります」
佐藤 「逆にクラシックをよく聴いてきた僕からすると“あ、歌が入っているんだな”という感覚なんですよ(笑)」
──一般のJ-POPリスナーの感覚からすると、インストはカラオケバージョンやヴォーカルオフバージョンのイメージが強いのではないかと。
黒澤 「3人の中では僕が一番、一般リスナーの感覚に近いと思うんでけど、それはわかりますね。歌がない、インストなんだなと」
佐藤 「でも黒澤はジャズも聴くよね?」
黒澤 「あ、でもそれは“歌が入っていない音楽を聴きたい”という意識があってのことなんだよね。だから自分の中では分かれているんですよ」
佐藤 「世間的にも、最近は歌の入っていない音楽が増えてきている流れを感じているんですよ。“作業用BGM”が多くなってきているでしょ?それにアンビエントがここ1年くらい流行ってきているのもその表れじゃないかと思うんですよね。シチュエーション・ミュージックというか」
黒澤 「作業用BGMってのはまさにそうだよね」
──続いて歌詞についてお伺いします。1曲目の「Wash the dirty pigeons」は、初の英語詞です。英語については?
大沢 「僕は日本語の方が好きなんですけどね、わかりやすいし、伝えやすいからという理由です。望さんは?」
佐藤 「今回は楽曲の骨格を先に作る上で、最初から日本語の詞が合わないだろうなと予想していたんですね。言語によってフィットするリズムやアクセント感というのは必ずあって。制作にあたり、ビートルズやソフトロックはじめ、色んな音楽を並べた中で、今回参照した音楽の中には日本語の歌詞のものがなかったので、日本語にならなかったんですよ。先に英語の詞をフィックスさせてから、メロディをつけていったんです」
──タイトルをそのまま訳すと“汚れた鳩を洗え”という意味になりますけど、歌詞には“フリーダム”ともあり、平和の象徴である鳩をそのままモチーフにされています。
佐藤 「はい、それはそのままですね。日本語で直訳してしまうとダサいんですけどね」
一同 (笑)
──これは今の世の中に何か物申したいことがあるのだろうなと解釈したのですが? サビでは自由と平和について連呼されていますよね?
佐藤 「確かに物を申している歌詞になるんですけど、日本のリスナーは英語の曲について、そこまで強く歌詞を意識していないと思うんですね。もちろん中には英語の歌詞を訳して、“ああ、こういうこと言っているんだな”、と理解する人もいると思うんですけど、基本的には英語の歌を音楽として、楽曲の一部として聴いていると思うんです。だからそこでどんな過激なことを言っていたとしても、ポップスとしては成立するだろうと思うんです。逆に日本語の詞で作った瞬間、ものすごく社会性を帯びたものになってしまって、パンクバンドというか、フォーキッシュな歌詞、音楽として捉えられてしまうのかなと。英語で言った場合はあまり問題にならない特性を使った感じではありますね」
──他にも理由はありますか?
佐藤 「もう一つあるのが、黒澤の歌です。黒澤はツイキャスを結構やっていて、そこでビートルズはじめ、スタンダードナンバーのカバーを披露しているんですね。彼の場合、英語の歌も結構良かったんです。あと歌いなれていることもあって、今回やってみたところはあります。僕自身も、これまでは英語詞で作ることをほとんどやってこなかったんですけどね」
──黒澤さん、歌われてどうでした?
黒澤 「いや、普通に楽しかったですね。曲も初めて聴いたときから好きだったし。望さんは、いつも歌い方についてもきっちりディレクションをするんですよ。“ここでは子音をはっきり伝えて”とかね。でもこの歌については、わりと自由に伸び伸びとやらせてもらえたんです」
──英語で歌うのは好きなんですか?
黒澤 「英語で歌うことが特別に好きというわけではないんですけど、好きな音楽を真似してやっていたら英語の曲が多かったんですよね。もちろん日本語も歌うし、特に言語の区別はしていないですね」
──続いて大沢さん、佐藤さんとは詞の世界が全く違いますよね。3曲目「Over Again」、5曲目「Anthropology」、どちらの曲もラブソング、男女の恋愛をモチーフにされています。これは実体験から作られていますか?
大沢 「それは何とも言いにくいところですね(笑)」
──この2曲は同時期に作られたのですか?
大沢 「〈Over Again〉は随分時間をかけて書いて、その後に〈Anthropology〉は一日で書き上げました。この二曲はある程度関連した内容になっています」
──曲が先ですか?
大沢 「いや、歌詞と曲が同時ですね。メロディがどこに向かいたがっているのか、それに従って言葉を選んだり、またはその逆だったりします」
──今の話を聴いて腑に落ちたことがあって。北園みなみ名義時代からなんですけど、大沢さんの生み出される楽曲展開には、ストーリーを感じるんですよ。景色が次々と変わっていくのが一つの特長だと思っていて。アレンジ、テンポ、コード進行などが次々と変わっていく・・・つまり曲や歌詞が先にあるのではなくて、物語を作ろうと同時に進行しているから、その物語に合わせて曲の展開が次々と変わっていくんだと、そういうことなんですね。
大沢 「まさにそうです。ストーリーがあって、それが何を求めているのか・・・電車の一定した流れをピアノに刻ませる、雑踏や人々のざわめきをクラリネット4本に異なるフレーズで歌わせるといったことを試みています。今までの僕の作品には表面的な展開が見られますが、本作では音楽の流れに“意味を与えられた”ということが大きいです。音楽を展開させることに、心から自分が思う意味を与え、場面や思考の移ろいを音楽で描写する最初の一歩が踏み出せたと思います」
──それはソロではなく、オレンジエイドだからできた、というのはありますか?
大沢 「僕のこれまでの創作活動の流れで、たまたま今はこの作風、位置に至ったというのが素直なところですね」
──風景としては夜、都会の印象が強いのですが、これはご自身が最近松本から東京に出て来られたことと関係していますか?
大沢 「曲の中では架空の街が描かれています。曲中の駅は、松本駅と池袋駅を混合したようなものをなんとなくイメージはしているんですけどね」
黒澤 「架空じゃないじゃん(笑)」
大沢 「見方によっては私小説的とも言えるかもしれませんけどね、脚色はされているという意味で」
──ちなみに作曲はどこで?
大沢 「作曲ではスマホをよく使いますよ。昨日も寝る前に思いついたメロディを録音しました」
──佐藤さんはいかがですか? 歌詞を考える場所など?
佐藤 「歌詞ね・・・僕はガストですね」
一同 (笑)
──ファミレスで書くミュージシャンは、知り合いにも結構いますよ。
佐藤 「普段ファミレスにはあまり行かないんですけど、ファミレスには若い人がいるじゃないですか? 若い人の会話って、普段は僕の耳に入ってこないんですよ。普段聞かないような話題や言葉がそこにはあるんですね。それを取り入れることはよくやりますね。それで日本語の歌詞はスマホで書いて、英語の歌詞については翻訳者の方に直してもらいました。詞は1日や2日で書きあげましたね」
──インストの2曲目「Miroir D’eau」と4曲目「Last Waltz」のタイトルは、どのように名付けられたんですか?
佐藤 「さっき大沢くんも話していましたけど、歌が入っていない曲を入れることは、先に決まっていたんです。ただ、いい曲がなかなか思い浮かばなくて・・・締切直前に作ったんですよね。イメージ先行で、なんとなく“北欧の森の中の湖のそばで本でも読みたいな”という気持ちを、ただただ音で表現しただけです」
一同 (笑)
黒澤 「単なる欲望じゃん(笑)」
佐藤 「ちなみにフランス語なのも特に意味はないです。単にカッコイイかな、っていう」
一同 (笑)
大沢 「なんとなく印象派の感じもあるから、フランス語はピッタリだなと思ったけどね」
佐藤 「曲としてもまさに印象派らしいとは思いますね。それを意識して作ったというのもあるし」
──最後の「Anthropology」なんですが、この曲のイントロは1枚目に収録されている「Green Lawns」ですよね?
大沢 「確かに、引用しています」
──この2曲のつながり、関係性が気になったんです。曲調は違いますけど。
大沢 「それで言うと、実は望さんの曲の1曲目のイントロも引用しているんですよね。他の収録曲から引用した楽曲がアルバムにまとまりを与えるんじゃないかという実験です」
──なるほど、それは面白い発想ですね。以前作った曲をリ・アレンジしてアルバムに収録する、ということはたまに見かけるのですが・・・その視点は斬新に感じました。続けて「歌」についても少し。黒澤さんの歌には感情の起伏を感じるのですが、大沢さんはフラットに淡々と歌われています。
大沢 「そもそも旋律の起伏を抑えています。サビで高い音域でワーと盛り上がるような人生に覚えが無いもので」
一同 (笑)
大沢 「僕にとっては現実を自然な形で表現することが大切なことで、表現を誇張しないように気を払っています」
──歌詞は男女の恋愛で感情の起伏が大きそうな世界観なのに、歌は淡々としていて、そのギャップが曲の魅力なのだろうと思っていたのですが?
大沢 「どんなに嬉しいことや悲しいことがあっても心の中で感じ尽くすもので、その気持ちを素直に音楽に書き換えた結果です」
──黒澤さんの歌については?
佐藤 「黒澤の歌には、色んな良さがあるんですよ。1枚目の2曲はどちらも歌い方が違っているし、今回の作品も全く違うしね。バンドとしてもですけど、彼の歌についても様々な可能性を探っている段階なんですよね」
黒澤 「僕の場合は望さんのディレクションにまず従う、というところ、そこだけに命懸けていますね(笑)」
一同 (笑)
──オレンジエイドを初めて1年経ったわけですけど、今の状況をどのように捉えていますか?
黒澤 「とにかくもっと売れたいですねー」
──ほんと、売れたいという思いが強いんですね。じゃあ売れるための今年の抱負などありましたら。
黒澤 「個人的にはもっと練習してうまくなりたい、というのはありますけどね」
佐藤 「バンドとしては、まずはフルアルバムを出したいというのが一番ですね。あと、ライブかな。それをやって世間の反応がどうなるか見てみたいです。今度レコ発ツアーもやるので」
──オレンジエイドはライブをあまりやらないイメージがあったんですけどね。
佐藤 「いや、そんなことはないです。今年はライブたくさんやりたいし、ぜひ誘ってください!」
──その他、読者に伝えたいことがあれば?
佐藤 「まずはアルバムを聴いてどんな感想を持ったのか、発信してほしいです。どんな印象を持たれているのか、すごく知りたいです。1枚目と全く違う作品になったので」
大沢 「ファンレターとか欲しいよね」
黒澤 「それいいね、じゃあファンレター待ってますってことで」
──それでは、読者の皆さんでオレンジエイドの新作『Broccoli is Here』を聴かれた方は、バンドのオフィシャルサイトからメッセージを送るか、ツイッターでハッシュタグを入れて呟いてください。買っていない方、まずは買って聴いてみてくださいね。本日はありがとうございました。
Orangeade
Orangeade
2018年2月21日リリース
1,000円+税
orange-01
収録曲
1. 港の見える街
2. わたしを離さないで
3. GreenLawns
Profile
2018年、黒澤鷹輔、大沢建太郎、佐藤望により結成。
ジャンルにこだわらず音楽を探求する。
12/26、1stミニアルバム「Broccoli is Here」をリリース。
掲載日:2019年3月20日