──昨年に3曲入りのCD-Rも販売されていましたけど、アルバムとして正式リリースするのは今回が初めてですよね?
kiwako 「そうですね」
──バンド名は誰が考えたんですか?
kiwako 「私です。umbrellaという単語が好きで、それありきで何かくっつけたくて合う単語を探していたんですよ。それでたまたまmarchという単語が思い浮かんだんです。先にバンド名を決めてからメンバー募集をしたんですよ」
──バンド結成したときにどんな音楽をやろうと話されていたんですか?
神野 「最初集まったときはネオアコ、ギターポップがやりたいね、ってなんとなくのイメージみたいなものを話していたんですけど、やっていくうちに少しずつ変わってきたんですよね。やりたい方向性が明確になってきたというか・・・。キラキラした可愛いギターポップよりも、自分たちが好きで聴いて憧れている洋楽の雰囲気を目指していくうちに今のスタイルになってきましたね。好きなバンドはたくさんありますが、最近はベルセバ(ベル・アンド・セバスチャン)みたいな音楽がやりたいと話しています。もちろん編成が全然違うので同じようにはできないですが、雰囲気的にああいった音楽性を目指したいというのはありますね」
──なるほど、ベルセバなんですね。話が脱線しますけどkiwakoさんのベルセバ好きは一部のファンの間では有名ですからね。ちなみに昨年日本でも公開された映画『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』は、ベルセバのスチュワート・マードックが監督でポプシクリップ。でもタイアップ企画を行ったんですよ。kiwakoさんは何回観に行かれたんでしたっけ?
kiwako 「20回以上観に行きましたね(笑)」
一同 (笑)
──多分日本一あの映画を劇場で観ていらっしゃいますよね(笑)。ベルセバのどんなところがお好きなんですか?
kiwako 「最初は確かCDショップで知ったんですよね。あとラジオでかかっていたのを聴いてかな・・・。好きになった直後にベルセバが来日してそれを観に行ってライヴがものすごく良くて、さらに大好きになったんです。曲ももちろん好きですが、ベルセバは歌詞が本当に素晴らしいんですよね」
──余談ですけど皆さん映画や本などで影響を受けた作品はありますか?
asako 「映画では『アメリ』ですね。唯一デラックスエディションを買ったことがある映画で。日本だと是枝監督の作品が好きですね」
野崎 「『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』は僕も見て面白いなと思いましたね。あと音楽映画でいえば『ハイ・フィデリティ』とか」
神野 「僕は『青春デンデケデケデケ』というバンド映画ですね。四国でベンチャーズの影響を受けてエレキバンドを始めるという映画なんです」
──ここでさっと音楽映画も挙げてくださるのは嬉しいですね(笑)。話を元に戻しますが皆さんはベルセバ以外にも、カーディガンズなどスウェディッシュ・ポップもお好きなようですが、何か理由はありますか?
神野 「お洒落なところですね」
一同 (笑)
神野 「以前やっていた別のバンドで、おしゃれな音楽をやりたいという話が挙がったときに、おしゃれな音楽と言ったら渋谷系だよね、という話になったんですよ。それで渋谷系の影響でスウェディッシュ・ポップも知って、おしゃれってこういう音楽だよなって思ったんですよ(笑)」
──野崎さんはいかがですか?
野崎 「渋谷系でいうと、僕の場合はコーネリアスの1stアルバムから入ったんですよ。そのあとフリッパーズ・ギターや小沢健二さんへと広がっていきましたね」
──asakoさんは?
asako 「私はピチカートでも野宮さんになってからなんですよ。渋谷系って音楽もおしゃれだけど、ファッションやビジュアルも含めたカルチャー全体がおしゃれだったと思うんですね。CDジャケットも凝った作りのものが多かったじゃないですか? それら含めて新鮮でかっこよかったんですよ」
──確かに今CDパッケージをシンプルにしているバンドが多いですよね。フリッパーズ・ギターの『ヘッド博士の世界塔』では3Dメガネのレンズまでついていましたから(笑)。今でも声優さんのアルバムだと豪華60ページブックレット付とかあります。当時とは今ではCDへの予算のかけ方が違ったんでしょうけどね。
──先ほども話に挙がった以前出された3曲入りのCD-Rについて少し教えてもらえませんか?
kiwako 「一昨年に作ったやつでイベントの予約特典だったり、100円で販売していたんですよね。でもそれくらいです」
──100円とは思い切った値段でしたよね。僕も買わせてもらいましたけど、1,000円でもよかったと思いましたよ(笑)。
神野 「まずは知ってもらいたかったので激安にしました(笑)」
──アルバムタイトル 『polka-dot puddle』の由来を教えてもらえませんか?
kiwako 「“水玉模様の水たまり”というそのままの意味ですね。昔ブログをやっていてそのときに使っていた名前だったんですよ。特別な意味はないんですけど、響きや語感が好きだったんです。一応バンド名に傘が入っているので、雨つながりというのはありますね」
──ミニアルバムにされた理由はありますか?
kiwako 「うーん、曲がなかっただけですね(笑)」
神野 「正確に言うと、曲はもう少しあるんですけどギターポップ寄りのものが多くて、そっちの曲は省いたんですよ。さっきも言ったように洋楽の匂いがする作品にしたかったんですよね」
──アルバムのコンセプトなどはありますか? アッパーなものからバラードまでバランスよく収録されていますが?
神野 「今のumbrella marchの雰囲気を、こういう音楽をやっていますというのを全部収めたものになっていますね」
──全部英語詞なのは何か理由があるのですか?
kiwako 「神野さんも言ったように洋楽っぽいものをやりたいというのと、前にやっていたバンドで日本語の歌詞を書いて歌ったら、日本語より英語のほうが声に合うと言われたことがあったんですよ。それと日本語だとうまく歌詞が書けなかったというのもあって(笑)。英語詞だとそんなに気になりますか?」
──一般的な話として英語詞になるとリスナーの敷居をあげてしまうじゃないですか? 日本のマーケットだと洋楽は2割しか売れていないという現実もあって届きづらくなってしまうんですよ。数曲混ぜるんだったら構わないと思うんですけど、umbrellaは全曲英語詞ですからね。どんなこだわりがあるのか知りたかったんです。
神野 「実は日本語でやるほうが逆に難しいと思っているんですよ。相当な日本語力がないとかっこいいものが作れないと。逆に英語だったら意味よりも語感を重視して聴いてもらえるところもあるからいいんじゃないかと。まあ多少誤魔化せるんじゃないかとも思ったんですけどね(笑)」
──なるほど、わかりました。次に歌詞について教えてください。kiwakoさんの詞は基本的に第3者目線で情景をスケッチしている点が特長なんですが、歌の中で男性目線と女性目線が混ざっているんですよね。それが面白いなと。例えば1曲目[an ordinary man]の〈彼女は 雨宿りをしている〉というフレーズは男の目線です。でも〈今すぐ家に帰りたいの〉は女性目線なんですよ。そのような箇所があちこちに見受けられるんです。日本語訳だから、英語で捉えると少し違うのかもしれませんが。
kiwako 「あまりそこは意識してなかったです(笑)」
──実体験に基づいた歌が多いんですか?
kiwako 「いや、そうではないですね。架空の物語ばかりです」
──なるほど、例えば「moustache」という曲のタイトルは日本語訳で“口髭”という意味なんですけど、詞にそれらしいことがほとんど描かれていないのは不思議だったんですよね。詞と曲名の関連性がつかみづらかったんです。
kiwako 「この曲は、空港の係員が無愛想だったというその係員に口髭があったということなんですよね。先に詞を書いてから曲名をつけているんですけど、なるべく詞に出てこない単語にしようとは心がけていますね。サビの詞の一部をタイトルにすることってよくあるじゃないですか? だけど、全く歌詞に出てこない単語が曲名になってるほうがなんかかっこいいんじゃないかって思うので(笑)、聴いてくれる人に、“どうして曲名がこれなの?”って思って欲しいんです」
──そういうことだったんですね。「cruel song」も同様で、これは直訳すると“残酷”という意味なんですけど、詞を見るとそれほど残酷なイメージはなかったので・・・。そのほか気づいた点として、kiwakoさんの詞の中に登場する“彼”の存在が挙げられます。全体的に“ダメでイケテない感じがする”とひたすら歌っているんですよ。架空の物語とはいえ、僕が妻から言われたら絶対凹むだろうなという、個人的にはもうちょっと褒めてもいいんじゃないかなと思いました(笑)。
kiwako 「そうだと思いますね(笑)」
一同 (笑)
──あと「that’s crying for the moon」というタイトルも特徴的です。
kiwako 「これは“それはないものねだりだ”という意味なんですよ。辞書をパラパラっと引いていたら偶然見つけたんですけど、とてもいいなと思ったんです」
──なるほど、面白いですね。普段どこで詞を書いているのですか?
kiwako 「家ですね」
──日常生活で思いついたことを書きとめまとめているのでしょうか?
kiwako 「いや、違いますね。神野さんが作ってくれたデモを何回も聴きながら日本語で一度書くんですよ。そのあと辞書などを使いながら英語に直して作っていますね」
──いわゆる男女の恋愛のドロドロ感や青春時代の甘酸っぱい思い出など、感情的な要素がほとんど見受けられなかったんですが、何か理由はありますか? 一般的に女性が詞を書くと恋愛経験や日常生活から引用して書く人も多いので。
kiwako 「ベルセバの歌詞がすごく好きなんですよね。ああいった世界を描きたいなとは思っています。もちろん全く足元にも及ばないんですが、あの世界観にものすごく憧れていて。おこがましいですが、ずっと目標にはしています」
──そういうことだったんですね。ベル・アンド・セバスチャンがumbrella march を理解する上で重要なキーワードになりそうですし、それがkiwakoさんの特長にもつながっていることがわかりました。