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ルルルルズが昨年9月にリリースしたアルバム『ルルルルズ』。自らのバンド名をアルバムタイトルにするほど力の入った彼らの自信作。聞こえてくる音楽は、70年代、80年代の日本のポップミュージックの影が見え隠れしつつも、彼ららしい唯一無二の聴きやすいポップス。

 

約4年前にリリースされた1stアルバム『色即是空』が各地で高い評価を獲得したあと、中心的存在だったメンバーの行が脱退、新たなメンバーでの再スタートとなったルルルルズ。メインソングライター奥野の嗜好性がいかんなく発揮された本作品は、前作以上に多様な楽曲で構成されているものの、ヴォーカルモミの透明感あふれる歌声を最大限に生かすという、バンドとしての核がしっかりとしているからなのか、ソングライターが変わっても、前作から地続きで聴ける作品に仕上がっているのは、バンドメンバーがルルルルズとは何なのか、しっかりと向き合ってきたからなのであろう。

 

いくつかの誘いを断り、自分たちのやりたい音楽を貫く選択をした彼らの2ndアルバム。決して派手ではないが、前作以上にすみずみまで行き渡った彼らなりの美学をぜひ体験してみてほしい。

インタヴュー・テキスト 黒須誠

撮影 萩原紀子

 

本原稿は2018年3月2日に刊行したポプシクリップ。マガジン第10号に掲載のインタヴュー記事をWEB化したものです。掲載内容は雑誌と同一です。また誌面では撮影者の記載に誤りがございました。萩原紀子さんが正となります。ご関係の皆様に改めてお詫び申し上げます。

Album『ルルルルズ』

ルルルルズ

ルルルルズ

2017年9月20日リリース

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『色即是空』を出したあとに応援してくれる方がすごく増えたんです。それで少しずつ歌にも自信がもてるようになってきました(モミ)

──1stアルバム『色即是空』から3年が経ちました。

 

奥野大樹(Key) 「メンバーだった行がタワーレコードに転職したんですよ。それで仕事が忙しくなってしまい、バンドを続けることができなくなってしまったんです」

 

──行さんは作詞作曲とバンドの中心的な存在でした。

 

奥野 「そうですね。ただ行がいたときから僕も曲作りを少し手伝っていたんですよね。それで行がいなくなってからは、ソングライティングを僕が担当することになりました」

 

──行さん以外にも代わっているメンバーがいらっしゃいますね?

 

奥野 「ベースの石垣とドラムの渡邊が新たにメンバーに加わりました。まず、行が抜ける段階でギターを弾けるメンバーが必要になったので、大学の後輩だったコバヤシに頼んだんですよ。石垣と渡邊はコバヤシの知り合いで、紹介してもらいました」

 

モミ(Vo) 「去年の6月にようやく今のメンバーになったんですよ」

 

──ということは、バンドメンバーが固まるまでに1年半も要したということになりますね。

 

奥野 「そうですね。演奏力や相性などもあるんですけど、何よりもバンドのサウンドを固めていくところに時間がかかってしまったんですよ」

 

──ここでいう演奏力というとテクニック面のことですか?

 

奥野 「それもあるんですけど、どちらかというと素養、カテゴリの部分ですね。どういう音楽に共感するのか、これがすごく重要で同じベクトルを向けるかどうか、という部分を大事にしました」

 

──その部分をもう少し詳しく伺いたいのですが、やりたい音楽やビジョンに共鳴する人を探すのに時間がかかったのか、それとも集まってからベクトルをすり合わせるのに時間を要したのか?

 

奥野 「前者ですね。我々はこう温厚というか・・・例えば意見を交わし合ってバチバチやりながら曲を作り上げていくタイプではないし、決まったメンバーとなるべく長くやっていきたいという志向があるんですよ。我々の音楽に共感してくれるのはもちろんなんですけど、そこに対してどれだけの引き出しを持っているか、あとプロフェッショナルを目指しているかどうかという点も大事にしたんです。一般的なアマチュアリズムを持っている人ではなくて、ほぼ全員が音大卒・音楽で生計を立てようと考えているメンバーなんです。石垣と渡邊も高校時代からプロとして活動していますしね」

 

──音楽に対するスタンスと大事にしたと。

 

奥野 「そうですね、そうすることで共通言語ができあがるからとてもやりやすいんです」

 

──なるほど、ただ今の時代に音楽で食べて行く選択をすることは、とても勇気がいることではありませんか?

 

奥野 「はい、それはそうですね(笑)」

 

モミ 「私の場合は、もともとそこまで考えられていなかったこともあって、かなり悩んだんです。だけど前作の『色即是空』を出した後に応援してくれる人やファンの方がすごく増えたんです。それで少しずつ自信が出てきたんですよ。あと今のメンバーと音楽を奏でることが自分にとってとてもいいこと、プラスになっているんですよね。みんなと一緒なら、信じてやっていけるんじゃないかと思えたんですね。だから今はもう大丈夫なんです(笑)」

 

──前作の取材のときのモミさんは、不安気な気持ちをお持ちでしたよね。何か転機となることでもあったのですか?

 

モミ 「前のときは、まだ自分の歌に自信がなかったんですよ。私の歌をいいと言ってくださる方もいたんですけど、“本当かな?”と半信半疑だったんです(笑)。でも前作を出した後、しばらくたってからも私の歌がいいと言ってくださる方がたくさんいらっしゃって、それで徐々に自信が持てるようになったんです」

 

──つまり転機となるものがあったわけではないけれども、自然とそう思えるようになったということなんですね。奥野さんはいかがですか?

 

奥野 「僕の場合もともと色んなバンドのサポートやコピーバンドをやっていたんですけど、本格的にオリジナルのバンドをやるようになったのはこのルルルルズが初めてなんです。前作では1曲書いてはいますけれども、基本的にはプレーヤーの立場だったんですよ。大学では作曲など裏方を専攻していたこともあって、演奏に関してはあまり自信がなかったんです。人前に立つのがそもそも好きじゃなかったですしね(笑)。だからバンドを通じて、色んな経験をしてなんとなく音楽でやっていくことの手触り感を掴めたのが、ここ数年の出来事ですね。ただ僕の場合は高校時代から音楽の道に進むことを決めていたんですね。父親がサラリーマンなんですけど、あまり自分のやりたいことが見つからずに生きてきたと言っていて。息子の僕には“お前は好きなことをやれよ”というスタンスだったので、自分のやりたいことに打ち込める環境を作ってくれたことには感謝していますね」

 

──良いご両親ですね。普通だったら止める親が多いと思いますけど(笑)。高校生のときに決めていたということですが、なりたい音楽家像はあったのですか?

 

奥野 「高校時代はクラシックの作曲家になりたかったんです。ポップスも聴いていましたけど、そちらを職業にしようとは考えてもいませんでしたね。クラシックだとラヴェルやドビュッシーが憧れでしたし」

奥野大樹
奥野大樹

僕が一番大事にしていることは〝長く続けていく″ということなんです。〝流行り廃れに左右されない″というのが根底にあるんですよ(奧野)

──今回のアルバムタイトルは『ルルルルズ』、バンド名にされていますが?

 

奥野 「この3年間でこのバンドがどんなバンドなのか、自ずと考えさせられることが多かったんです。行さんがいたときのバンドはどんなバンドで、今のルルルルズはどうで、そしてこれからのルルルルズは・・・演奏もそうですけど、どんなアプローチでやっていくのがいいのか・・・。だけど今のメンバーが揃ってスタジオで音を鳴らした時に、ようやくその手ごたえが感じられたんですよ。演奏中に音楽で会話ができたんです。集まるべきメンバーが集まったといったら大袈裟だし、それを言葉で説明することはうまくできないんですけどね。それでタイトルを『ルルルルズ』にしようと話した時に、メンバー誰からも反対意見はなかったんですよ」

 

モミ 「これだよね、という暗黙の了解のようなそんな感じだったよね(笑)。自分たちらしい音楽を作れたということもあったし」

 

──その手ごたえがあった瞬間というのは、どんな気持ちだったんですか?

 

奥野 「答えになっていないかもしれないんですけど、このメンバーで長くやっていけたらいいなと思えたということですね。バンドって人生において特別なポジションのイベントなんですよ。6人が同じ音楽をやろうと集まって、それを続けていくことで、メンバー間の対話も深まってできることが増えていくんじゃないかなと」

 

──特に大事にされたことは何ですか?

 

奥野 「僕が一番大事にしているのは“長く続けていく”ということなんです。そのためには“流行り廃りに左右されない”というのが根底にあるんですよね。今回のアルバムでも煌びやかなサウンドだったり、流行りのフレーズやコード進行を入れることはせずに、まずはモミの声を軸にした上でそれを取り囲む音像を構築しました。メンバーの対話を深めることでこのメンバーでしか出せない音を作る、ということを大事にしましたね」

 

──今の話を聞かれてモミさんはどうですか?

 

モミ 「前作では奥野の曲は1曲だけでしたけど、当時から彼の作った音楽をずっと聴いていたので、どんな音楽をやっていきたいのかはなんとなくわかってはいるんです。奥野がやりたいことは前から変わっていなくて、長く続けられるものを作りたいというのは私も同じですね。スタンスは変わらないし、スキルは前作以上に上がってきていて、メンバー同士の相互理解も深まっているのはその通りだと思うし」

──普段どんなことを考えながら音楽をやられていますか?

 

奥野 「僕は人見知りで、普段はあまり他人と深く話をすることがないんですよ。自分を語ることもしないし、思っていることを言うこともほとんどなくて。だけど怒りたくなることは結構あって、それらの感情を外に出さないようセーブしているんですよね。でも頭の中では色んなことをずっと考えていて、それを音楽に向けている意識がすごくあって。だから日常生活と音楽を書く行為って一体のような気がしているんです。“音楽は自分の考えたことを投影していくツール”、僕がこうあるべきだと思うこと、社会に対する意見など生活で考えているものを述べる場所だと思っているんですよ」

 

──面白いですね。日常生活とはスイッチを入れ替える、切り分けて考えている人も多いんですけどね。

 

モミ 「私も切り離すということはしないですね。自分をそのまま出している意識です」

 

──なるほど・・・実は新作を聴いて一番驚いたのが音像や楽曲の質感、ぬくもりが前作とあまり変わらない、地続きであったということだったんです。メンバーが大きく入れ替わり、特にメインのソングライターが変わったにも関わらず・・・これは意外でした。それともう一つ、この作品は相当レコーディングに時間をかけられたんじゃないかと・・・音作りがとても丁寧なんですよ。周囲のインディーズバンドとの決定的な違いは、そこにあるんじゃないかと言ってもいいくらいです。

 

奥野 「それは嬉しいですね。確かに普段では考えられないくらい録音には時間をかけています」

 

──皆さんのように20代の若手バンドの大半はもっと勢いがあったり、駆け出しのバンドらしい粗っぽさも見え隠れするんですけどね。それが全くと言っていいほどない。

 

モミ (笑)

 

奥野 「まさにそうですね、20代の音楽じゃないかも(笑)」

 

──もしかしてメンバーは皆さん温厚な方ばかりですか?

 

モミ 「そうですね。落ち着いていますね、本当に(笑)」

 

奥野 「みんな怒らなさそうだとはよく言われます」

 

──音像にも表れていて、モミさんの歌を活かすためのなのか、ほとんどの曲で楽器をかなり奥まった位置においたミックスをされています。控えめというか。

 

奥野 「ミックスについて、僕らからこれといったお願いをエンジニアの方には出していないんです。ただ自分は往年のシティポップスのようにたくさんの楽器を、キーボードやブラスアレンジを入れて、スキマを埋めていくようなタイプの音楽があまり好きじゃないんですよ。もっとミニマルな音楽が好きでそちらを意識していますね。今回は恣意性みたいなものを極力入れないようにはしたんです。もちろん各プレーヤーが提案して、面白いと思えたことは積極的に取り入れてはいますよ」

 

──それでこの音像ということは、メンバーも奥野さんのやりたいことを理解されているんでしょうね。

 

奥野 「面白いことにメンバーには、例えばロックバンドで激しいリフを弾いて注目を浴びたいといった俺が俺がというタイプの人がいないんですよ。僕の好きな音楽のことも理解しているから、そのような演奏をしないんです。特に渡邊のドラムは手数をみせびらかさないし、音量のコントロールもまるでミキサーのフェーダーを落とすように繊細なんですよ。彼は今23歳だし、普通だったらもっと叩きたい年頃だと思うんですけど(笑)、とても渋いドラマーで。モミの声って張りがあるタイプではないし、ダウナーな感じもあるから、その雰囲気をうまく汲み取ってやっているからでしょうね」

 

──面白いですね。6人編成のポップスバンドというと大概はノリのいいパーティーチューンをやりたい、すなわち音を足して豪華なアレンジにしたいという考えのもと、キーボードやブラス、ストリングスを足して編成しているバンドが多いんです・・・これは僕の仮説ですけど、ルルルルズの皆さんは音楽大学でクラシック、オーケストラの勉強もされているから、オーケストレーションの視点での曲作りやパートの構成を考える癖が自然と身についているんでしょうね。室内楽のような印象も受けますし。だから4人組みのポップスバンドがアレンジで2人増やすというよりも、最初から6人が必要な構成でソングライティングをしているのかなと。一般的なバンドマンとは曲の作り方が全く違うように感じます。

 

奥野 「確かにそういう一面はありますね。でもやっぱり、モミの声を生かした曲になるように考えて各プレーヤーもやっているということが一番にあって。だから必然かつミニマルな音楽になっているんだと思います」

モミ
モミ

極限にそぎ落としたところで出てくる〝素〝を出せたらなと。〝無言の美学〝と言ったらいいのかな(奧野)

──ここから曲についても。3曲目の「沙上のメモリアル」ではボサノヴァ、5曲目の「Night Owl」ではジャズを意識したアレンジを取り入れられています。これらは前作では見られなかったタイプの曲ですよね。バンド各々の役割がはっきりしていて面白いのですが、このアルバムの中では少し毛色の違う印象もあります。

 

奥野 「自分たちの中では、あまりそのように意識したものではないんですよね。自然に出てきたものの一つだったので、そう言われることが新鮮ですね」

 

モミ 「でもアルバムの中で少し窪んでいる位置づけの曲ではあります」

 

──モミさんの声を前面に出した「手紙」は、シンガーソングライターらしいアプローチですし。

 

奥野 「色んなタイプの曲を出したのは、密度を感じられるようなアルバムで在りたいと思うからなんです。色に例えると“白”“黒“”赤“といった単純明快なわかりやすさではなくて、深みを感じてもらえるようなものを作りたいんですよ。それでいて極限にそぎ落としたところで出てくる”素“を出せたらなと。”無言の美学“と言ったらいいのかな・・・」

 

──もしかして“わかりやすいものを作る”と、それが一見浅はかに受け止められてしまうのを気にされています?

 

奥野 「というよりも僕の能力の問題ですね。わかりやすいものを作ろうとすると、そのまんまになってしまうんです。わかりやすいものの中に、深みを出す技術が僕にはまだないと思うんです。それとわかりやすいものには上手が必ずいるんですよ。例えば〈Night Owl〉も今のメンバーであれば、もっと突き詰めることでより本格的なジャズにすることができるとは思うんです。スティーリー・ダン的な4曲目の〈スカイライン〉も、突き詰めたらもっと近づけられるかもしれないんですけど、近づけようとすればするほど、そのものでいいじゃん、ということになってしまうし、そこにはさらに上手がいるんですよね」

 

──つまり今回の作品は参考にしたモチーフやジャンルは多々あれど、あくまで方向だけであって、各々のテーマを突き詰めるのではなく、各テーマの中で自分たちの持ち味をどうやったら出せるか考えられたということでしょうか?

 

奥野 「そうですね、もちろん各ジャンルを突き詰めていっても結局はルルルルズらしさは残ると思うんですけど、それを突き詰めることにはあまり興味がなかったんですよ」

 

──わかりました。あと歌詞についてなんですが、僕らより上の40代・50代のミュージシャンの中には、音楽を通じて世の中へモノ申したり、政治的なメッセージを発信するなどして有名になったロックミュージシャンもたくさんいるんですけど、お二人を見ているととても温和だし、歌詞からもそのようなメッセージはないように感じます。

 

奥野 「それに関して言えば、実は僕らもある種のパンク的なアプローチでやっているんですよ。何故かと言うと・・・世の中の音楽は音数が非常に多い!」

 

一同 (笑)

 

奥野 「渋谷のスクランブル交差点のような音楽ばかりが溢れているように思うんですよ。それと聴かれる音楽や売れる音楽って、格好いいとか可愛いといった分かりやすいキャラクターが一つのポイントになっていると思うんですけど、そこに対してのアンチテーゼがあるんです」

 

──確かにルルルルズの音楽は聴きやすいし飽きがこない、シンプルですよね。いわゆる“引っかかり”を作ろうとは思わないんですか?

 

奥野 「ルルルルズでそれがやりたいとは思わないんですよね。僕はこのバンド以外にも色んなバンドのサポートや、打ち込み、アレンジの仕事などをやっているんですけど、“引っかかりのあるメロディやアレンジでお願いします”と注文をいただくことが多くて・・・音楽には色んな方向性がありますし、それはそれで楽しいんですけど、エンタテイメント的なもの、商業的なものばかりでもどうなんだろうと・・・。好みの問題ですけどね」

 

──アルバム制作はどのように行われたんですか?

 

奥野 「今回はtoeやフルカワミキさんらも手がけているエンジニアの中村公輔さんにお願いをしました。ドラムとベースは2日間かけて録音したんですけど、そのあとレコーディングに3カ月以上かけましたね。さらにミックス・マスタリングに1カ月程度」

 

モミ 「去年の9月から今年の1月まで作っていたんです」

 

──レコーディングスタジオで3カ月以上・・・インディーズとは思えない贅沢な時間のかけかたですね。

 

奥野 「音数は少ないですし、地味な作品なんですけど一音一音相当こだわって作っていったら時間がかかってしまったんです」

 

──丁寧に作られているとは思いましたけど、そこまでとは思いませんでした。しかもほとんど生音で録られていますよね?

 

モミ 「そうですね。打ちこみも少しだけ入っていますけど」

 

──普通に考えたら3ケタ万円の制作費はかかっているように思うのですが・・・メジャーでも最初の予算は200万円やそこらですから、インディーズにしては驚きを隠せないんですけど(笑)

 

奥野 「良心的な価格でやっていただけたので助かりました(笑)。ただ言われるように時間をかけて作れたのは本当によかったですし、何より中村さんがじっくりと僕らの作品に向き合ってくれたことが大きかったんですよ」

 

──わかりました。それと自主レーベルからのリリースも意外だったんです。前作の売れ行きを考えたら、どこかのインディーズレーベルやメジャーが声をかけてもおかしくはないと思っていたので。

 

奥野 「実は複数のレーベルやレコード会社からお話をいただいていたんですけど、どこも自分たちのやりたい音楽ができる環境を提供してくれる感じではなかったんですよ。やっぱりレーベルに所属するからには、レーベルさんの費用対効果があるじゃないですか? レーベルさんから提案いただいた企画には派手で面白いものがあったんですけど、なんか違うなと。それに僕らのような地味な音楽への共感を得られる感じでもなかったので、それだったら自分たちで出した方がいいと思ったんです。商業的にある程度のポジションを目指すならばそれなりのことをやらなければいけないし、無理してまでそうはしたくなかったんですよ」

 

──お話を伺っていると、とても健康的に音楽と向き合っていますよね。

 

モミ 「健康的ってわかりやすいですね(笑)」

 

奥野 「納得のいくものを作れたとは言えますね」

やっぱり自分たちのやりたいことをやり続けることが大事だと思いますね(モミ)

──モミさんの歌なのですが、前作と比べると歌に芯が出てきたように感じたんです。歌い方も多様化して幅が広がっていますよね。

 

モミ 「前作のときは1枚目ということもあったし、私自身まだ迷いがあったんですね。“これでいいのかな?”というのが常につきまとっていたんです。でも今回は1曲1曲を消化しきってからレコーディングに向かうことができたので、それがよかったと思います」

 

──曲への理解を深められた?

 

モミ 「感覚ではあるんですけどね。ただ考えすぎるとドツボにハマるタイプなので、あまり意識せずに歌いました」

 

奥野 「今回はモミと2人で作った曲もあるんですよ。〈Night Owl〉や〈手紙〉がそうですね」

 

──歌い方のディレクションもされるんですか?

 

奥野 「レコーディングのときにやりましたね。前作より拘ったというか、中村さんも交えてみんなでディスカッションしながらディレクションしました。途中で何回も泣いていたもんね」

 

モミ (苦笑)

 

奥野 「別にいじめたわけじゃないんですけどね(笑)。でも声色の使い方については、かなりつっこんで議論したから、なかなかOKテイクが出なかったんですよ」

 

──歌録りも相当な時間をかけられたんですか?

 

モミ 「歌そのものの録音はそこまでかかっていないんですけど」

 

奥野 「どちらかというと、マイキングなど録音のやり方について何度も試したんですよ」

 

モミ 「歌う方向を変えたり、場所を変えたり、マイクの種類を変えたりと準備にかなり時間をかけました。そういう意味では中村さんがいなかったらできなかったですね」

 

──その中村さんとはどこで出会われたんですか?

 

奥野 「2年前に新宿MARSのイベンターさんが中心となって作った『New Action!』というコンピレーションアルバムに、ルルルルズも〈イロドリ〉という曲で参加したんです。今でいうシティポップの先駆け、黎明期で水曜日のカンパネラやHomecomings、LUCKY TAPESなど、界隈の音楽をやっていた人たちでコンピを作ろうという話になって。それで当時のドラマーの知り合いだった中村さんを紹介してもらって、ミックスやマスタリングをお願いしたのが最初ですね。今回ミニアルバムを作ることになったときに、また中村さんがいいんじゃないかって話になったんです。中村さんも70年代近辺の音楽に詳しい方だったので、そこで意気投合したのが大きかったんですよね」

 

──長く聴き続けられる曲を作りたいという話が先ほど出ましたけど、一方で旬な音楽、打ち上げ花火のような瞬発力のある音楽もあるじゃないですか? 前者により価値を置いているのは何故ですか?

 

奥野 「それは僕の根底にクラシックや昔の音楽があるからですね。“記念碑的に残ってきた音楽”を聴くことが単純に面白いんですよ。現在同時進行で起こっている日常のライフイベントが自分たちの音楽に与える影響はもちろんあると思いますけど、2,000年という長い歴史の中で刻まれて残ってきた音楽作品から受けるものと、これからの人生残り80年といった短い期間の中でリアルタイムにフィードバックを受けてできる音楽体験では、圧倒的に前者の範囲が大きいし、面白いんじゃないかと思うんです」

 

──つまりルルルルズもそのような存在、未来に出てくる音楽家から見たときに“記念碑的に残っている音楽”の一つになりたいということですね。

 

奥野 「そうなんです。僕らのCDが何百年後に残っているかどうかはわからないですけどね(笑)。でもそういう存在になる音楽を作るためには、単純にルルルルズというバンドが今面白いと思うことをやるのがいいと思うんです。未来の人が僕らの音楽を振り返ったときに“ジャズにもこんなアプローチがあるんだな”とか“こんな煮え切らない感じの人間臭さがあるんだな”といったものを感じてもらえたらいいなと」

 

──インスパイアされる音楽でいうと、日本のロックやポップスは洋楽からの影響が大きいですよね。

 

奥野 「そうですね。だからこそ日本らしい音楽をやることに意味があるなと思っているんです。僕らの世代で音楽を語ろうとすると、同時代の洋楽基準で語られることが多いじゃないですか? 海外で流行ったものが日本に持ち込まれるパターンが未だに多いと思うんですよね。例えばいま流行っている日本の音楽を聴いてみたら、なんかアメリカっぽいな、
というようなことってありますよね。こういうことってとても面白いと思うんですけど、だったらアメリカでやればいいし、向こうの人も日本の音楽にさほどそれを求めていないんじゃないかと思うんですよね。僕らが日本ですんなり面白いと思うことをやるだけで、それが他にはない新しいスタイルになるし、記念碑的な作品としても成立するんじゃないかと。それをできるのが一番面白いと感じるんです」

──話は変わりますが、ジャケットのアートワークもかなり拘りがありそうですね。私も買わせていただきましたけど、実物はデータで見る以上にぬくもりがあって心地よかったんです。

 

モミ 「ジャケットを誰にオファーするべきかとても悩んだんです。音源ができたのはいいけれど、アートワークの印象によってそれも大きく左右されるので何がいいのか・・・」

 

奥野 「例えば表紙が写真やアニメだったりしたら、また違う作品として受け止められていたと思うんです。それで自分たちの作品を合理的に伝えるにはどうしたらいいのか・・・メンバーで議論した結果、今回は版画家の森田奏美さんにお願いをしました」

 

──それはまた何故?

 

奥野 「一目で見てアートだな、と感じてもらえるものにしたかったんです。アートの価値をわかる人にジャケットをお願いしたいなと」

 

モミ 「森田さんは私たちより少し上の世代ですが、奥野の知り合いでもあったんです」

 

奥野 「データだとわかりにくいんですけど、森田さんの作品は版画で作られているんですよ。だから少しでもその良さを伝えたいと思い、紙のジャケットにしました」

 

──版画というのはまた珍しいですね。最近のポップス界隈のインディーズのアートワークだと写真はもちろんですが、イラストレーターや漫画家による作品が増えていますけど。

 

奥野 「一つ一つ版を重ねていく版画の作業が、音を重ねてレコーディングしている作業に相通じるものがあると思ったからなんです。それと森田さんのお父様も作曲家で、森田さん自身が音楽に理解のある方だったのもよかったんですよね」

 

──お話を伺って、ルルルルズがひたすら自分たちの納得のいく作品づくりにまい進してきたことがよくわかりました。一方で皆さんの同世代にはメジャー志向で、大衆性のある音楽、お茶の間を目指している音楽をやっている方々もたくさんいますよね。その中で自分たちの立ち位置をどのように捉えられているのか、最後に伺えたら。先ほど話に出た水曜日のカンパネラはもちろん、サチモスやスカートを始め、皆さんの周りの人たちはメジャーのフィールドにも挑戦しています。

 

モミ 「奥野と私はわりと何でも聴くタイプで・・・今挙げていただいた人たちもみんな好きだし」

 

奥野 「やっていることは違うけど面白いですよね。ただ、僕らは新メンバーになって今回が初めての作品で、バンドとしての方法論がようやくわかったところだから、その方法論を拡張してこれから面白いことをやっていきたいなと。そしてそれがまたどこかでリンクしたらいいなと思っているんです。サチモスや水曜日のカンパネラがいいなと思うのは、自分たちのやりたいことをやっていて、それでいて一定のポピュラリズムも得ているところだと思うし」

 

──スカートもですけど、メジャーのフィールドにも関わらず売れ線を追わずに自分たちのやりたいようにやっている方が増えているのは皆さんの励みにもなるのでは?

 

モミ 「同世代の人たちがどんどんステップアップしていくのは、とてもいいことだと思うんです。同じアルバムに入っていた人たちが活躍しているのは嬉しいし。でも悔しいといった感情もないし、私のやりたいことがそれかというと今はそうでもないんですよね。あとなんとなくですけど・・・大衆性が求められる世界では自分の良さを生かすのは難しいかなとも感じていて」

 

奥野 「どの場所を目指していくのか・・・それが僕らの課題ではあるんですけどね」

 

モミ 「私、以前のインタヴューで椎名林檎さんが好きだと話したと思うんですけど・・・」

 

──はい、覚えています。

 

モミ 「メジャーのフィールドで、あれだけ自由に色んな歌い方をしている人って見たことがないんですよ。椎名さんは声に特徴があって、その声に対する好き嫌いは結構分かれるじゃないですか? 私は椎名さんを好きな人が何故好きなのか、嫌いな人が何故嫌いなのかもなんとなくわかるんです。でもそれだけ話題になるのは、唯一無二の存在ってことの裏返しだと思っていて。椎名さんを見ていて、やっぱり自分たちのやりたいことをやり続けることが大事だと感じたんですよね」

 

奥野 「やりたいことをやり続ける・・・一つ参考になりそうなのがLampなんです。僕はLampが好きで高校生のころからずっと聴いているんですけど、彼らって孤高のポジションにいるじゃないですか? 音楽のクオリティがとても高いし、それでいて自主レーベルだけどフォロワーもたくさんいますよね」

 

──だったら空気公団も参考になると思いますよ。

 

モミ 「そうですね。空気公団も大好きです」

 

奥野 「独特のポジションですよね。自分たちのやりたいことを追求しながら、バンドとして一定の存在感も出せるのって僕らにとっては理想だし、その理想を当面は目指して頑張りたいですね」

 

──本日はありがとうございました。

Album『ルルルルズ』

ルルルルズ

ルルルルズ

2017年9月20日リリース

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ルルルルズ rourourourous

2012年に東京で結成される。Vo.モミ、Key.奥野大樹、Vl.コノミ美希、Gt.コバヤシアツシ、Bs.石垣陽菜、Dr.渡邊シンの6人編成。多様な音楽性を反映させた楽曲が魅力的であり、モミの透明感溢れる歌声と繊細な音作りが人気を集める。

掲載日:2018年3月25日

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