──前作『Superstar』から3年半ぶりのアルバムとなったわけですが、今年リリースするに至ったきっかけは何かあるんですか?
サツキ 「アルバム作るときって、ずっと作り続けてしまうんですよね。メジャーにいたときはリリース日が決まっていて、録音するスタジオはいつからいつまで、プロモーションはいつからいつまでといった感じでスケジュールを全部決められていたんですよ。それに合わせて多少心を惑わされながら(笑)やっていたんですけど、自分たちには合わない感じがしてきちゃって。それでメジャーを出て山下さんのSKYLARKIN(スカイラーキン)レーベルから一枚シングルを出したあと、自分たちのレーベル"basque"を立ち上げてやるようになったんです。今の形になってからはリリースして1年くらいはライヴやったりツアーやったりしていて。それがひと段落して、また毎日のようにビートを作ってそれが1年でだいぶ溜まって、またアルバムを作ってというこのサイクルがたまたま2,3年タームという感じでしょうか」
アズマ 「前作の『Superstar』は冬に出した作品で、次は夏に出したいなというのはなんとなくあって。前作が初めてミックスからマスタリングまで全部自分たちでやったアルバムだったんですが、そこで力を使い果たしていったん空っぽな気分になったんです。じゃ、次どうしようかなと考えたときに、ドラムは菅沼雄太さんに叩いてもらったものを、ベースは鹿島達也さんに弾いてもらったものを使う、つまり二人の生音を全部使って曲作りをするというルールでやってみたら面白いんじゃないかと。それが『Silence』の特徴かな」
──そんなアプローチもあるんですね。
サツキ 「今回は2年ぐらいレコーディングしていましたね。去年SCOFとは別に初となるBEATSアルバム『STUDIO75 / Best of LoopLaunch』を作ったんですけど、その合間にSCOFとしても3回だけライヴをやったんです。そのライヴの間に鹿島さんのベースもいい感じで変わったから、それでまた録音し直したら音の感じも変わっていったりする…とても興味深いです。生の音、ならではの」
──制作はどのように進められたんですか?
アズマ 「録音する前に歌もほぼできあがっているデモを10曲くらい作ったんです。僕らっていつもポストプロダクションが長いんですよ。今回も録音しはじめてから完成まで2年くらいかかっているんですよね。音の足し引きやアレンジやら色々試していて。曲はわりとすぐにできるんですけど、完成させるのに一苦労というか。録音して気持ち悪い方向にいってまた戻ったりとかもあって」
サツキ 「方向はあっているんだけど蛇行している感じというか」
アズマ 「ヨタヨタと左右にブレながら歩いていくうちに、目指している音、真ん中に落ち着いていく感じですね」
──二人が音にOKを出す基準というのは?
アズマ 「具体的に話はしたことないよね」
サツキ 「“これで大丈夫?”と互いに聞いたことないよね?」
アズマ 「うん」
サツキ 「互いが作りたい音のベクトルは先に確認しているから、できあがった音に対してどうこうというのはなくて。ブレているのは自分たちだったりするんですよ」
──目指す音は、二人が好きな音楽ってことですか?
アズマ 「いや、“人が聴いても面白いと思うポイント“かな」
──自分たちらしさ、自己表現ではないんですか?
アズマ 「うん、そのような意識はないですね」
──例えば…制作中に家族に音を聴かせて感想を聞かれますか?
サツキ 「それはないですね。二人の間だけですね」
アズマ 「結局…自分たちがしっくりくるポイントだから、俺が俺がという部分もあるんだけど、リスナーが聴いて大事な音楽になるように願っているんですよ」
サツキ 「考えてみたら昔から音楽が好きでずっとレコードを買っていて、昔から聴いている作品は今でも聴いているんですよね。じっくり聴くにしろザッピングで聴くにしろ結局いい音楽はずっと聴いているんですよ。せっかく作るんだったら私たちの作品もその一枚になりたいな、とは思っているんです。それもできればアルバム単位で好きな一枚になってもらいたいんですよね。もちろんその中にヒット曲があってそれが好きというのでもいいんですけど、曲の並び順やA面B面のふりわけ、一曲目出だしの高揚感も楽しんでもらいたいんですよ。以前ライター・編集者の北沢夏音さんが“SCOFにはジュヴナイル感がある”と言ってくださったんですけど、そういった感覚を大事にしたいと思っています」
──アルバムタイトルを『Silence』にしたのは?
アズマ 「これは、サツキさんですね」
サツキ 「単純に全曲そろったときに”Silence”という言葉が浮かんだんですよ」
──1曲目にもってこられていますよね?
サツキ 「曲ができあがってから曲の名前を決めるんですよね。今回も[Silence]を1曲目に持ってきたわけではないんです。曲ができあがったのでそれを並べて名前つけたら偶然1曲目になっただけなんですが..」
──先に伺っておくべきだったのかもしれないんですが、アルバムのコンセプトはありますか?
アズマ 「コンセプトというか、一つの統一したムードを考えていましたね。前だったらバリエーションを考えたりテーマを無理やり変えてみたりとかやっていたんですけど、今回はアルバム通して同じことを言ってもいいかなぐらいの気分で作っていたというか。多分…人ってそれほど言いたいことってないと思うんですよ。考え方のバリエーションって実はそんなにない気がしています」
サツキ 「コンセプトとは違うかもしれないけど、今回特化したことといったらさっき話に出たドラムを菅沼さん、ベースを鹿島さんに弾いてもらったということかな。以前の作品だと全部打ち込みだったこともあったし、自分たちだけで作ってもいたから」
──このアルバムでチャレンジされたことは?
アズマ 「やっぱり一番のチャレンジは生で録ったドラムと生で録った生ベースをどうやって自分たちの曲に落としこむかについてでしょうね。普段やっている作り方だと俗にいうヒップホップのそれになっちゃうんですよ。ところが今回生ドラムでやったときに、今までのやり方が全く通用しなくてかなり試行錯誤したんです。でも途中でこれ以上は無理だ、ということにも気づいたんです」
──無理だというのは?
アズマ 「今まで作ってきたようなビートにあてはめて曲作りをすることが、ですね。自分が持っているヒップホップのリズムがあるんですけど、いくらやってもそうはならないことがわかったときに、この”菅沼さんのビートこそアルバムの個性”であることがわかったんですよ。その時からビートに合うようなアレンジ・調整をしていきました。例えば鹿島さんは”歌うようなベース”を弾くんですよ。だからラップの音域とベースの音域が重なってしまうところもあって、それらが対決しないようにしたり。そうしたら複数の人から“現在っぽい音が鳴っているよね”と言われたんです。そんなに暑苦しくなくてちょっと軽いところが現在っぽいらしい?」
サツキ 「現在を全く意識して作ってはいないんだけどね(笑)」
アズマ 「あ、でも全体的に優しくなった感じはあるかな」
──音楽ジャンルで括ればヒップホップなんでしょうけど、他とは違ってメロディがすごくはっきりしていてキャッチーなんですよね。音像としては優しいポップス寄りのサウンドだと感じているんですよ。ポップスファンにも心地よいヒップホップなんですよ。
アズマ 「実際、一番好きなものがヒップホップというわけでもないしね。デビューした20年前に自分たちの音楽についてもさんざん聞かれたんだけど、うまく答えられなかったんだよね」
サツキ 「よく音楽のジャンルを聴かれるんですけど…難しいですよね。レコードショップの店員さんから“どこに置いたらいいですか?”って聞かれることが多かったみたいで(笑)」
アズマ 「まあ…たいていJ-POPかCLUBのコーナーに入れられていたけどね」
サツキ 「デビューしたてのころは今ほどジャンル分けも今ほど細かくなかったですよね。DANCEとかもなかったし。だからSMAPの隣に普通に置かれていたんですよ(笑)。今はINDIESのコーナーに置かれていますが、ある意味わかりやすい(笑)」