●先日吉祥寺スターパインズカフェで行われたワンマンライヴ、会場を見回すと固定ファンの方も多く観に来られていました。ご自身これだけ多くのファンに愛されるようになったのは何故だと思いますか?
高橋 「難しいですね。普段ライヴやってもアンケートを取らないんですよ。何だか怖いから。自分はそんなに有名でもないし、ヒットしているわけでもないんで、その中でポリシー曲げずに頑張ってやっているのをあたたかく見守ってくださっている方が多い気がしますね。控えめで思慮深い方が多いみたいなんです」
●高橋さんの曲は一曲が長めで、じっくり聴かないと咀嚼できないじゃないですか? だから今のスマホ世代というかインスタントな曲が求められる時代・傾向がある中では逆行している気がするんですが?
高橋 「3分くらいの長さに凝縮してポジティヴなメッセージを歌にする、それを突き詰めることはある意味ポップソングとして理想形だと思うんですよ。ただ僕はそこを数年前から割り切っています。6分だろうが8分だろうが最後まで聞いてもらえないかもしれないけど、思いついたものに忠実にやることにしているんです。その点は退路を断っていますね。だって8分の曲だったらまずラジオで全部流れないですよね。途中で切られちゃいますから。でもそこははっきりと意思表示をしているつもりなんです。8分の曲でも最後まで聴いてもらえるように演奏の技量や歌詞、歌のうまさでカバーしたいんですよね。時代がこうなってきている、ニーズが違うというのはあるかもしれないんですけど、環境のせいにはしたくないんです。最後まで聴いてもらえないのは自分がまだ足りていないからなので、聴いてもらえるように頑張りたいんですよね。その危機感は常に持っていますね」
●迎合するつもりはなくても広く聴いてもらいたい気持ちはあるんですよね。
高橋 「もちろんです。わかる人にだけわかればいい、というそんな中途半端な気持ちでやっていたら誰も聴いてくれないし、ファンはすぐにいなくなってしまうと思うんです。自分の音楽は、わかる人にだけわかる音楽として語られることがこれまでは多かったんです。でもやっている自分の気持ちとしてはその真逆なんですよ。わかる人にだけわかってもらえばいいと思ってやったことはないですし。ただ、リスナーのアンテナに引っかかってもらえるような魅力がないと相手にされないというのはあって、その表現の手段が8分という曲の長さなのか、歌、ストーリー、演奏…色々あると思うんですけど、自分の得意なことをやり続けることだと思うんです。急にキャッチーで短めのスマホ世代にピッタリな作品を出してもダメだと思うんですよね。一本筋の通ったことをやり続けるほうがいいんじゃないかと」
●そのほかアルバム制作において思い出深いことはありますか?
高橋 「 実は[微熱]、今回のアルバムでは一番どうでもよかった曲だったんですよ。鹿島さんからしてもこの曲はいらないんじゃない? と思っていたくらいで。あまり中身はないんだけど、ちょっとノリのいい曲をやりたいなと作った歌なんです。歌詞も一番しか出てこなかったから、二番も同じにしているんですよ。洋楽では一番と二番が同じ歌詞の曲ってあるじゃないですか? だからいいかなって思って。ところがレコーディングしたときに一番ハマったのがこの曲だったんです。内容がない曲なのに、最終的にはその完成度に一番感動して…シングルカットするならばこの曲だなと思ったくらいで。それと一昨日にたまたま気づいたんですけど、一曲目の[The Orchestra]の最後は〈あなたに想いあふれて〉で終わって、二曲目の[微熱]の出だしは〈あふれだす想いを〉から始まるんですよ。これってすごいレトリックだなあと。ただの偶然なんですけど、隠された意図があったように見えることって面白いと思うんですよね」
●ちなみに「サマーピープル」、これはもしかして震災のころの歌でしょうか?
高橋 「あのとき大変なことが起きてしまったなと思って、でもそこからまた立ち上がっていかなくちゃいけないと、被災地から遠く離れた僕が被害者面するのは変なんですけど、そういう気持ちで作ったんです。歌詞も直接的で〈立ち止まらないでくれ まだ終わりじゃない 始まってもいない〉と読んだ通りなんですよ。ただ、それだけじゃ面白くないので、そこに”ベイビー”という歌詞を入れたんですよ。ロックに“ベイビー”は欠かせないかなと」
●アルバム制作の際にリファレンスにした作品やイメージはありました?
高橋 「単純に音の傾向として、レコーディングの際にはジョージ・ベンソンの『ブリージン』というアルバムやドナルド・フェイゲンの『ナイトフライ』、アル・シュミットの作品など、わりと定番なAORをよく聴いていましたね。西海岸のようなイメージを出せたらいいなとエンジニアとも話していたので。あと割と今の20代中心にシティ・ポップやAORを聴いている人も増えているようなので、届いたらいいなとは思いましたけど」
●やっぱり今の高橋さんはいい状態だと思いますが?
高橋 「バンドのメンバー、鹿島さんは20年、キーボードのsugar beans の佐藤君は10年、脇山君がちょうど1年でバンドとしてもすごくいい感じになっているんですよね。彼らのおかげで今回アルバムを作ろうという気持ちになれたし、自分のテンションは高くなっているので…いい状態なんでしょうね。これで悪いわけがないだろうっていう」
●冒頭にも言いましたけど、高橋さんは近年毎年新作を出されているじゃないですか? これってすごいことだと思うんですよ。ベテランになると生活環境が変わって出せなくなるアーティストが大半なんですよね。インディーズでは締切もないから特にそうなりがちなんです。やりつくした感も出てくるし。でも今の高橋さんのモチベーションは、デビューしたてのころの勢いすら感じられるんですよ。来年はいよいよデビュー20周年を迎えられますし。
高橋 「確かに、そしてその楽しくやっている感じがライヴにも出ていると思うんですよね」
●あと昔に比べてMCでもたくさん話されるようになりました(笑)
高橋 「そうですか? それは良かった。確かにMCでも話すようになりましたよね。オープンになったと思いますよ、お客さんに対してもね」
●思い返すと3年前の『大統領夫人と棺』をリリースしたのが、今に繋がる大きな節目だった気がします。
高橋 「変わったんでしょうね。やっぱり…動くと何かが変わる、次が出てくるんですよね、ライヴでもそうなんですよ。動くと次々とお誘いが来るようになったりしますし。単純なことだけれども、それはすごく思います。やっぱり動くことが大事なんですよ、きっと」
2016年1月31日 高橋徹也さんからメッセージをいただいたので追加掲載いたします。
インタビュー後記
高橋徹也です。
この度は僕の最新アルバム『The Endless Summer』リリース記念インタビューをお読みいただき、誠にありがとうございます。そして3年で3枚のアルバムを特集していただいたポプシクリップ。・スタッフ皆さまにも改めて深く感謝申し上げます。
このインタビューが行われたのは、確か昨年9月のレコ発ワンマン直後、これからツアーに出るぞという慌ただしい時期だったと記憶しています。年末まで続いたツアー会場にもたくさんの方にご来場いただき、本当に熱く幸せな時間を過ごすことができました。
そして今、こうして改めて数ヶ月前の自分が話したことを読んでみると、なんだか少し恥ずかしい気もします(笑)。毎回のことですが、アルバム完成直後というのは、このアルバムがどういうものなのか?果たして良いアルバムなのか?自分自身でもよくわからず真っ白な状態なのです。このインタビューを読んでいると、そういう自分の想いが伝わってきます。たった数ヶ月前のことなのにずいぶん昔のことのように感じられるし、それがインタビューの面白さ、リアリティでもあるのでしょうね。
今なら迷わずこう言いたいです。
最高のアルバムを作れて俺は幸せです!
皆さん、ぜひ聴いてください!
...と。
本当に、それだけですね。
2016年 1月
高橋徹也
96年にキューン・ソニーよりメジャーデビュー。ジャズ、クロスオーヴァー、フュージョン、AOR、シティ・ポップ、ニュー・ソウルなどの要素を取り込んだ独自のポップスを追求している。これまでに8枚のシングル、8枚のオリジナルアルバムにベストアルバム『夕暮れ 坂道 島国 惑星地球』などを発表。05年に出した『ある種の熱』まではコンスタントに作品を発表していたものの、以降約7年間はひっそりとライヴ中心の活動へとシフト。12年にリリースしたライヴアルバム『The Royal Ten Dollar Gold Piece Inn and Emporium』、13年にリリースしたスタジオアルバム『大統領夫人と棺』以降は、再度制作活動にも注力、近年は毎年新作を発表し続けている。見たもの全てが圧倒される極めて高い演奏力に裏打ちされたライヴパフォーマンスは圧巻。最新作は昨年10月にリリースした『The Endless Summer』。今年デビュー20周年を迎える。
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掲載日:2016年1月17日