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YeYe 『ひと』 Release Interview

目標はとにかく死ぬまで音楽を続けること

──アルバム『ひと』はこれまでの2作品と比べるとよりオルタナティヴで、アンビエントな要素も詰まったYeYeさんの新境地を感じました。面白いのは全体の音像は音響よりにシフトしつつも根っこは恐らく60年代70年代のブリティッシュロックなんですよね。2曲目の「Broke Your Phone」などその典型ですが、今回サウンド面でやりたかったことは何でしょうか?

 

YeYe 「音楽をはじめたときからパンクの精神でずっとやってきたつもりなんですが、どこかふわふわしたイメージばかり先行してしまっていてうまく伝わらなかったんです。“もっとわかりやすくしなければあかんのや、ぐわわ〜!”ってやった結果、3枚目でやっと出たような気がします。最初のころと気持ちは全く変わっていませんけど、やっと周りにも自分の変化を納得してもらえるようなアルバムができたかもしれないと感じているんですよ。サウンド面はベースの浜田淳さんとドラムのsenoo rickyさん中心に進めていて、彼らの話している内容がわからないときは“とりあえずかっこよかったら採用!”と直感で突き進めていますね」

 

──歌についてはどうですか?

 

YeYe 「歌い方に関しては、自分でも変化を感じていて、それは『Gotch & The Good New Times』での経験がとても大きいと思っています。基本的にGotchさんの温度感に合わせてコーラスを重ねていくように意識してやりました。リトルゴッチになりきったつもりでやっていくうちに今まで自分が出したことのないような声で歌うようになっていって。そこから生まれた曲が[ate a lemon]です。歌い方に幅が出た曲なんですよ」

 

──音楽性が大きく変わっているので驚いたんですが、リファレンスされた音楽があれば?

 

YeYe 「個人的には今までと変わった意識はあまりないんですが、もともとファイスト(Feist)がだいすきで、レコーディング前にはFeistばかりを聴くようになっていたので、歌い方に影響されているような気がします。 ファイストを辿って行った時にブロークン・ソーシャル・シーン(Broken Social Scene)に出逢いました。 ブロークン・ソーシャル・シーンでのファイストの歌声に鮮烈な影響を受けて。この音のかっこよさでこの歌の感じ、“これや!”ってなりました。それを意識して作った曲が [Broke Your Phone]です」

 

※ファイスト(Feist)は、カナダ出身のシンガーソングライター。日本ではアップル社のiPod nanoのCMで「1234」が起用されたことで話題になった。2008年にはグラミー賞で「最優秀新人賞」「最優秀女性ポップ・ヴォーカル」「最優秀ポップ・ヴォーカル・アルバム」「最優秀短編ミュージックビデオ」の4部門でノミネートされたほか、過去フジロックフェスティバルへも出演している。フォーキーなサウンドでジョニ・ミッチェルともよく比較される。

 

※ブロークン・ソーシャル・シーン(Broken Social Scene)は、99年にカナダで結成された一時は20人を超えることもあったグループバンド。上記のFeistのほか、ケビン・ドリューKevin Drew)、アンドリュー・ホワイトマン(Andrew Whiteman)など個性あふれる多種多様なメンバーが参加しており、楽器を多数取り入れて制作されている独特なサウンドも特徴。これまでに5枚のアルバムを発表しており、2ndアルバム『You Forgot It In People』が、高く評価された。最新作ではショコラ&アキトの片寄明人らとも親交の深いトータスのジョン・マッケンタイアJohn McEntire)を共同プロデューサーに迎えている。

 

──別の観点で気になった曲が。7曲目の「Veronika」なんですけど、この曲はイントロから最後まで同じフレーズをひたすら繰り返し、アレンジを少しずつ変えながらグルーヴを生み出していくタイプの曲です。サビから入る、転調を繰りかえすなど、要は音に変化や刺激を与えてリスナーを飽きさせないようにアレンジを施していく昨今のJ-POPとは真逆に位置するようなタイプの曲です。この曲から僕はブラックミュージックの片鱗を感じたんですよ。音像としてはポップスなんですけど、このタイプの曲をYeYeさんが作られるとは想像できなかったんですね。

 

YeYe 「そこまで深く聴いていただきありがとうございます。わし自身ブラックミュージックに精通していないのでわからないですが、そこはアレンジの見せ所である3人のプレイヤーの凄みだと思います。落としたい場所、盛り上げたい場所、は事前に伝えているんですが、全員が全員全く違う方向を向きながら音楽をしていて、でもなぜかいいと思うものはいつも同じで、そこが面白いところなんですよ。YeYe自身はブラックミュージックを意識していなかったものの、指摘していただいたように今のJ-POPの真逆を行きたかった、というのは少しあります。基本的にYeYeの曲はいつもサビがないんです。Aメロ、Bメロ、Cメロ展開があるかないかで。。。よく考えると普段自分が好きで聴いている曲には展開を求めてないんですよ。好きな曲って、実はただただ同じフレーズを繰り返していたりするものが多くて、あとで驚いたり。例えばザ・ホワイテスト・ボーイ・アライブ(Whitest Boy Alive)のシングル[1517] も展開が少ないし、ベル・アンド・セバスチャン(Belle and Sebastian)の[Another Sunny Day]なんかもずっと同じ。でも気がつかないほど飽きなかったし、むしろお気に入りの曲なんです。実は1stアルバムのころ、前のレーベルの社長にも“サビへの展開が必要なんだ”とか言われたんですよ。その時はいろいろと意識してしまってがんじがらめだったんですが、今は“できた曲ができた曲なんやし、それでいいやんか!”と思えるようになったんですよ。もちろん中には意識して作る曲もありますが、それはそうしたいからやるわけで。無理やりする必要はないと感じたのです。展開の話とはずれますが、カレンO(Karen O)のアルバムを聴いたときにも“短かったら短かったでええんや”と思えるようになって。YeYeはそのときそのとき全身全霊でやっているのですが、別にいますぐ売れたいと意識して音楽をしているわけでもないし、自分の目標はとにかく死ぬまで音楽を続けることなんですよ。だから何にも縛られることはなく作れたという開放的な部分もあったと思います」

初めてコーラスをお願いしたのも“ひと”に通ずる温度感を求めたかった

──一方で「close your eyes」のようにクラップや、エレポップに見られる多種多様な音を散りばめた曲もあって引き出しの広さを感じました。

 

YeYe 「これはコーラスとクラップだけで成立した曲を作ろうと思ったところから始まりました。前々から作ってみたくて。もともとYeYeがエレキギターを弾いて、えっちゃん(こっきり)、ゆいこっく(シライリゾートオーケストラ)、よっさん(シライリゾートオーケストラ)の3人がコーラス隊という、YeYe & awesome choir girlsというユニットがあって、そのユニットのために作った曲でした。ライヴでの初披露はコーラスとクラップ、歌、だけのものだったんですが、最終的には年末の集大成イベントでホーン隊も加わった9人編成での演奏になりました。自分の中では、いろんな形態のチームがあるというYeYeのコンセプトを、この曲で一番表現できたと思います」

 

──特にこの歌はコーラスも聴きどころだと思っていまして、とても分厚くてそして憂いのある歌声がとても気持ちよかったんです。コーラスで何かこだわったことはありますか?

 

YeYe 「この[close your eyes]で初めて自分以外の声で、女性コーラスをお願いしました。それもアルバムタイトルにあるように“ひと”に通ずるところがあって。どうしても温度感を求めたかったのです。自分の歌やし自分でコーラスしてしまえば済む話なんですが、やはり信頼している人に歌ってもらうのと、自分でそのまま歌ってしまうのではわけがちがうなと思って。目に見えないことなので、説明が難しいんですけど、それが音で伝われば嬉しいです」

 

──YeYeさんの歌声は独特でどこか儚げな感じも魅力ですが、自分の歌声についてはどのように思っていらっしゃいます?

 

YeYe 「満足して録れた歌を聴いてみたら、“あれ?なんかおもってたんとちゃう” というのは多いですが、楽器がどれも中途半端な分、“歌だけは自信を持っていないとな”という思いはあります。声だとすぐにセッションもできるし、なんでもすかさず歌えるんですが、楽器だとなんか入っていけなくて・・・。アレンジも楽器アレンジじゃなくて、コーラスから思いつくことが多いですね」

 

──そのほかサウンド面で新たにチャレンジしたことや苦労したことなどがあれば。

 

YeYe 「演奏一発録音です。1テイク目にしか出ないあの空気感みたいなものを大事にしたくて・・・。さすがにすべて1テイク目を採用することはできませんでしたが、歌も演奏も、だいたいは一発録りの1テイク目を採用したので生々しさが伝われば嬉しいです。一発録音の危うさをエンジニアの田辺玄さんがめちゃくちゃ納得いく音にまとめてくれました。昔からYeYeを知ってくれている玄さんがいなかったらこのアルバムは成立しなかったと思います」

        

 

 

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