Record Review
Three Berry Icecream のニューアルバム『Three Berry Icecream』。
アルバムリリースにあたり、ディスクレビューが届きましたのでご紹介します。
作品理解を深めるのに役立ててもらえたら幸いです。
12.22 土橋一夫さん、こたにな々さんの記事をご紹介!
12.06 ウチタカヒデさん、峯大貴さんの記事をご紹介!
BRIDGE(ブリッジ)のメンバーだったイケミズマユミのソロプロジェクトThree Berry Icecream(スリー・ベリー・アイスクリーム)が、初のフルアルバムを11月27日に12インチLPでリリースする。
ルドベキア(或いはミニひまわり)に囲まれた草原でメンバー達が写るジャケットからは、甘酸っぱいサンシャイン・ポップが奏でられていることが容易に想像出来るだろう。僭越ではあるが一足先に音源を聴いたので、筆者が管理するWebVANDA流に解説してみたい。
Three Berry Icecreamは英歌詞によるギターポップやソフトロック系の楽曲を発表する、イケミズがプロデュースするプロジェクトで、彼女はソングライティングとリードボーカルは勿論のこと、各種キーボード、アコーディオンとグロッケンなどを担当している。サブ・メンバーはアコースティック・ギターにレーベルメイトでSwinging PopsicleやThe Carawayを率いるシマダオサムをはじめ、ドラムとパーカッションにorangenoise shortcutの杉本清隆、ベースにSloppy Joeの岩渕尚史、エレキ・ギターにはCorniche Camomileの桜井康史とh-shallowsの廣瀬美紀が参加し、曲毎に多彩なゲストをむかえている。
レコーディングは様々な名作を生んできたスタジオ・ハピネスでおこなわれ、主宰する平野栄二がエンジニアリングを務めている。またミックスには多くのメジャー作品の他、ムーンライダーズ事務所と共同設立したhammer(ハンマー)、渋谷系のクルーエル・レコードやエスカレーター・レコードでその手腕を発揮していたシンセサイザー・プログラマー兼エンジニアの森達彦、マスタリングはマイクロスターの佐藤清喜という音の職人達が関わっており、サウンド・クオリティーも折り紙付きなのだ。
A面冒頭の「Rainbow mountain road」は、イントロから左チャンネルのシマダによるアルゾ&ユーディーンの「Hey Hey Hey, She's O.K.」よろしく小気味よいアコギのカッティングと、右チャンの廣瀬によるジョニー・マー直系のハイライフ風アルペジオのコントラストが素晴らしく、このアルバムのスタートに相応しい。続く「That summer we were free」は、スペインのバンドCapitán SunriseのSanti Diegoが作詞を担当しコーラスでも参加している。イケミズは彼女のトレードマークでもあるアコーディオンをプレイしており、夏の高揚感を印象付けている。
イントロのスローなピアノからシャッフルにリズム・チェンジして始まるソフトロックの「Gentle sunset」では杉本がピアノを担当し、コーラスはイケミズにシマダと廣瀬が加わっている。またゲストとして間奏の弦パートでバイオリンにVasallo Crab 75の河辺靖仁、ヴィオラにチドリカルテットの田中景子が参加し、導入部ではこの2名による口笛の二重奏も披露されていてアレンジの構成力が極めて高い。
「Fear of flying」と小曲「Milky pop. Song」でもこのピースフルなムードは続き、前者ではSanti の作詞とWACK WACK RHYTHM BANDの國見智子がトランペットで参加し、後者ではヴィオラの田中がピッツィカート奏法も駆使して表現豊かにイケミズの歌に寄り添っており、作詞を担当したシンガー・ソングライター小林しのが描く世界観を演出している。
B面は10月15日に先行配信された「Another world」から始まるが、この典型的ソフトロックの美しいフォルムを持ったサウンドには一聴して虜になった。イントロ~バースのボッサのリズムからセカンドバースで跳躍し、イケミズ、シマダ、廣瀬のコーラスがリフレインするブリッジを経て甘美なサビで解決するという、複数のパートと転調を経ても聴き飽きないメロディとアレンジはさすがであり、リズム・セクションの確かな演奏力があってのサウンドである。弦パートはバイオリンの河辺、ヴィオラの田中が参加している。アルバム中唯一のインスト曲「Yell song」は、國見のトランペット、田中のヴィオラ、桜井のエレキ・ギターの順でリードを取る小粋でマリアッチな小曲だ。
ギルバート・オサリバン風のプリティなピアノのイントロから始まる「One spring day」は、英歌詞含めイケミズが1人でソングライティングしたミディアム・シャッフル曲で、フェイザーをかました桜井のギター・リフやイケミズによりリコーダーとグロッケン、2コーラス目から入る弦パートの展開など聴きどころが多い。この曲ではその弦パートの河辺と田中の2人がコーラスを取っている点も興味深い。ラストの「Jour bleu pâle」は6/8拍子でプレイされるフランス語の歌詞が印象的で、杉本の巧みなドラミングと桜井のギターソロに注目したい。イケミズの歌詞を仏語訳したのはパトリック・ベニーで、後ろ髪を引かれるメロディにマッチした言葉の響きがアルバムの終幕に相応しい。
アルバム全体を通して感じたのは、ブリル・ビルディングの系譜からUKのネオアコースティック期のソングライターに通じるイケミズの巧みで色褪せないソングライティングに尽きる。
文:ウチタカヒデ(WebVANDA管理人/ソフトロックA to Z~The Ultimate!)
ソロ活動23年目にして初のフル・アルバム。しかもそのタイトルはプロジェクト名をそのまま冠した『Three Berry Icecream』。さぞかしバンド時代も含めて30年以上に及ぶキャリアをひっくるめるような、音楽家としての到達点的作品になったか。とはいえ2018年の20周年の際にこれまでの楽曲をまとめたベスト盤『SUNSHINE ON MY MIND 1998-2018』を発表しているので、ここから新たなスタートラインを切るような転換作となるか。
などと色々想像を巡らせていたが、いざ聴いてくと本作でのイケミズマユミの佇まいは素朴かつ軽妙で、こちらの気構えをスルスルとすり抜けていく心地がする。ただフル・アルバムという全体でテーマを描く形式を、この2021年までとっておきの楽しみに取っておいただけ、とでも言わんばかりだ。せっかくの機会、ここぞとばかりに仲間を呼んでホームパーティーを開くかのような、細やかだけど賑々しい全9曲のバンド・サウンド作品となっている。
演奏メンバーはシマダオサム(Swinging Popsicle/The Caraway)、杉本清隆(orangenoise shortcut)、桜井康史(Corniche Camomile)を始め、東京のギター・ポップを体現する布陣が参加。とりわけA面にはネオ・アコースティックのアンサンブルが際立つ楽曲が並び、廣瀬美紀(h-shallows)による柔らかいクランチギターのフレーズが、イケミズの歌を先導するような場面も時折見受けられるのが心地よい。対するB面は、言うなればソフト・ロック・サイド。特にイケミズ自身のピアノも映える本作中最もシンガー・ソングライター的楽曲“Another world”にはRoger Nichols、アルバムならではのインスト曲“Yell song”にはBurt BachrachなどA&Mサウンドを色濃く思わせる仕上がりだ。
また「仲間を呼び込む」というテーマは詞にも表れ、イケミズ単独で作詞にクレジットされているのはわずかに“One spring day”とフランス語に翻訳された“Jour bleu pâle”のみ。スペインのSanti Diego(Capitán Sunrise)、ドイツ在住のBrent Kenji(ex.The Fairways/Friedrich Sunlight)といった海外にいる仲間や、“Gentle sunset”にはRuka Muramatsuと実娘の名前も見受けられ、身辺をフル動員させているのも本作の卑近な質感に繋がっている。
もちろん参加した顔ぶれだけでなく、FeltやThe Monochrome Set、The Go-Betweensといったルーツだって、The Bachelors、Marble Hammock、Roof、そしてBridgeと彼女が参加してきたバンドの足跡だって聴きとることが出来る。でも「ネオアコの歴史を体現している」だとか「ネオ渋谷系の最新型」のような音楽地図に位置づけるような呼称には不思議と居心地の悪さを感じてしまうのだ。それは日常に溶け込んだ些細な幸せとして音楽に取り組んでいるかのような、アットホームさこそが最大の魅力だからだろう。やっぱり本作は到達点でも転換作でもない。そんなスタンスも起因し、23年かかってようやく完成したThree Berry Icecreamの代表作なのだ。
文:峯 大貴(ライター / ANTENNA副編集長)
そう、1曲目の「Rainbow mountain road」を聴いた瞬間、私の心は瞬時にトリップして、1980年代後半から1990年代に渋谷のレコード店へ足繁く通っていた頃の「あの感覚」を改めて思い出しました。キラキラして、ちょっと眩しくて、そして甘酸っぱくてずっと聴いていたいあの気持ち…。
あの頃は、とにかく新しい音楽に触れることが楽しくて楽しくて、そしてまだ知らないアーティストたちやその作品を知りたくて、感覚を研ぎ澄まして、手を伸ばして情報を集めまくって…。気がつけば毎日のようにレコード店に入り浸っていました。その中から趣味の合う友達とも出会い、そこからさらに海外のレーベルやアーティストのことを知り、それが今の自分のベースになる部分を作っていると言っても過言ではありません。もし20代のあの頃に、例えばネオアコやギター・ポップ、イギリスやヨーロッパ、アメリカなどのインディー・ポップ、もちろんイケミズマユミさんが在籍していたBRIDGEやトラットリアのアーティストたち、さらにリイシューされた過去の様々なカタログと出会っていなければ、その後の私の人生も変わっていたと断言できます。当時はCD化が急激に進んでいた時代でしたので、例えばアズテック・カメラやペイル・ファウンテンズと、エレファントやシエスタ・レーベルの音と、BRIDGEと、バカラックやA&Mの名盤を同時期に聴くことが出来たのは、本当にラッキーでした。自分の中の価値観や判断基準は、きっとあの頃に触れた音楽や人、そして場所が基準になって培われたのだと思います。
そして時は経って2021年。今でも「あの感覚」がしっかりと自分の中に存在することを、このアルバム『Three Berry Icecream』は教えてくれました。これを作ったイケミズマユミさんもきっと、「あの感覚」をずっと抱きながら、大切にしながら、音楽を作ってこられたのだと思います。
音楽って、作り手と聴き手に共通項(それは音楽的なことのみならず、例えば生きてきた時代や社会、地域性、趣味志向など背景となる部分も含めて)がどれくらい多くあるか、それによって作品に対する理解度も変わると思いますが、そういう意味では同じ時代を生きてきたイケミズマユミさんが創り出す音楽は、私にとってまさにストライクど真ん中で、聴いていると無条件に嬉しくなります。そして色々な想いが溢れ出てきます。
瑞々しく輝く曲の数々…ここには時を超えて聴き継がれるべき、音楽の魔法がたくさん詰まっています。そしてイケミズマユミさんのあのいつもの笑顔を象徴するような、ひまわり畑のジャケットも素敵です。
このアルバムに出会えて、本当に良かった!
文:土橋一夫(構成作家/FLY HIGH RECORDS主宰)
皆さんは「Three Berry Icecream」というミュージシャンをご存知だろうか?
92年から95年に活動した伝説のネオアコバンド・BRIDGEのキーボーディスト、イケミズマユミのソロユニットだ。 BRIDGEといえば、後にソロで活躍するカジヒデキが在籍し、Cornaliusこと小山田圭吾主宰のレーベル「Trattoria」からリリースされていた。 そのバンド時代にイケミズが作り貯めていた楽曲が、解散以降発表されることになったのが、この「Three Berry Icecream」だ。
キャリアは長く、2018年にはソロ活動20周年を迎えた。 活動は国内外に及び、リリースやライヴなど、マイペースかつ息の長い活動を行ってきた彼女。 今回、満を持してユニット名を掲げた『Three Berry Icecream』が、意外にも初のフルアルバムとなる。
一面のヒマワリ畑が輝くエヴァーグリーンなアートワークにも表れているように、 バンド活動時から現在のソロに至るまで、一貫して奏で続けてきたネオアコやギターポップ、 ソフトロックなどの彼女の大好きな音楽が今回も惜しみなく詰め込まれている作品だ。
丁寧に制作された音の重なりや、透き通るような英語詞のヴォーカル。 それは筆者で言えば、青春期に追っていた“あのキラキラとした音楽”そのものでもあり、 今も変わらない眩しさで満ち溢れていた。
“ネオアコ”に感じるのは、初夏の光の眩しさ、あるいは新緑の芽吹きの若々しさ。 1音1音奏でられる爽やかなギターの音色と、高らかと響くドラムやホーンの音、重なるコーラスが透明度を増すボーカル。 何もかもが絶妙なバランスで、それでいて目の前がキラキラと光で満たされる感覚。
アルバムの1曲目「Rainbow mountain road」のイントロである、 美しいギターのアルペジオから、その感覚を思い出し、涙が出そうになった。
また今回の作品は、“バンド”をテーマにしたスタジオアルバム。 参加メンバーには長年の盟友から彼女を慕うミュージシャンまで、幅広く豪華なメンツが名を連ねている。
数々の“渋谷系”作品を手がけてきたエンジニア・森達彦 (mix)や、 BRIDGEと同じく90年代に活動していた元nice music(現microstar)の佐藤清喜(mastering)、 TrattoriaレーベルメイトでもあるWACK WACK RHYTHM BANDから國見智子 (trumpet)も参加している。
BRIDGE解散後の90年代後半から2000年代中期にかけて、その音楽を引き継ぐかのようにポップス界隈に次々と出現した、 Swinging PopsicleまたはThe Caraway のシマダオサム(guitar)、Corniche Camomileの桜井康史(guitar)。 orangenoise shortcutの杉本清隆(drums, percussion, piano)や、Sloppy Joeの岩渕尚史(bass)らといった、 あの頃シーンや渋谷系フォロワーを追いかけていた者なら、息を呑むほどの豪華な面々も集まった。
彼女の活動を各時代に目撃し、愛聴してきたミュージシャン達がこの作品には集結しており、 それは世代を跨ぎながらも脈々と受け継がれるネオアコやギターポップ系譜の縮図にも感じられる。
80年代半ば、日本の東京において英のネオアコムーブメントをいち早くフォローしたペニーアーケード、 その彼らのライブを見ていたロリポップソニック、 そしてその彼らのライブを見ていたBRIDGEのメンバー・カジヒデキのような連鎖だ。
80年代の東京ネオアコシーンを起点に、BRIDGEが活動した90年代、解散後の2000年代、 そして現在に至るまでのイケミズの一貫した活動の中で、 彼女に影響を受けた者達が繋いだ“結晶”のような作品に思えるのだ。
渋谷系やネオアコ、ギターポップなどは、世間的には特に大きく認知されているムーブメントではないかもしれない。 しかし、2021年に彼女が続けている音楽は、きっとまた後世の心を打ち、 フォロワーを生み出すような、もはや伝統的な活動のような気さえしている。
今回の作品も、懐かしい者には懐かしく、新しい者には新しい。 どんな角度から聞いても、誰かのいつかの時代の思い出や、または新たな青春が、 必ずどこかに入っているキラキラと眩しい楽曲達と言えるのではないだろうか。
レコードの日である11月27日にリリースされた安心と信頼の文句なしの名盤を、 (奇しくも同日バンドメイトであるカジヒデキの1stALBUM『ミニ・スカート』も復刻!) ぜひ多くの方にお聞き頂きたい。
文:こたにな々(ライター)