CMソングなどでも知られるヴォーカル大野の包み込まれるような歌声とキャッチーなメロディが魅力のwaffles。D.I.Y.でコンスタントに活動を続けているポップス・バンドから、2年振りとなる新作が先月届けられた。「色づいていく」という意味のアルバムタイトル『Coloration』は、12曲入り5枚目のフルアルバムで、全曲シングルカットできるくらいの気持ちで取り組んだ捨て曲なしの「濃い」アルバムに仕上がっている。
結成12年目、会社人生に例えるならば中堅の域に達している彼らはまさに今が伸び盛り。本作でも精力的に新しいチャレンジをしており、個々のメンバーの新しい取組が足し算の美学、いや「掛け算の美学」となって表れたのが本作品の魅力だ。それはインタヴューの中でも出てくる楽器ひとつとっても、リズムひとつとってもそうで、筆者も当初は移動中の電車の中でBGMのように聴いていたのだが、その後はステレオの前でじっくりと聴き込むようになった。それは仕事柄というのもあるけれど、思っていた以上に楽曲のアレンジが複雑で力を感じたからである。
本特集ではメンバーへのインタヴューに加えて、彼らとのつき合いが長いレコーディング・エンジニアの吉田さんへのインタヴューも行っている。彼が語ってくれたように、見た目は柔らかいが想像以上に「ロックなバンド」としてこの作品を聴いてみると新しい waffles が発見できるに違いない。
企画・構成・文 黒須 誠/編集部
撮影 木目田隆行
取材協力 バズーカスタジオ
──アルバムタイトル「Coloration/カラレーション」は誰の発案ですか?
大野恭子(Vo,Piano) 「わりとみんなで考えて決めたよね」
武田真一(B)「うんうん」
大野 「収録曲に[偶数マジック]という曲があって、最初はその名前をアルバム名にも使おうと思っていたんですけど、曲ができあがってきたら、この曲がむしろ異端になってしまって……」
武田 「それをタイトル曲にするのもどうなんだろう、と。全体を示すものではないような感じがあって」
ジョナ(G,Key) 「そうそう」
大野 「じゃあ、違うものを考えてみようかという話になったときに、『色』がテーマとして浮かんだので。「色づいていく」という意味の言葉にしてみました」
武田 「アルバムには色に関する曲が多かったんですよね、全体的に」
──本作はジャケットも目を惹きました。モノクロのイラストタッチに一部だけに色づきのあるところが、興味深かったです。
大野 「アルバムに[アイの夢]という曲があるんですけど、その曲のシーンを何となく説明させてもらって、モノクロとカラーを使って表現してもらいました。意識してはいなかったんですが、前作『10歩(Tempo)』がモノクロで、『ballooner』がカラーで、(今回は)その中間になりましたね」
──ジャケットを描かれた本田亮さんについて教えてください。
大野 「本の装丁などをやられているイラストレーターさんです。知人の知り合いで、展示会を見に行ったら、ピンと来るものがあって、本田さんが描かれた作品をジャケットに使わせてもらえないかと連絡をしたんです。そうしたら、有難いことに“新しくイチから描きたい”と言ってくれて。そこでデモ曲を聴いてもらって、イメージをイラストにしてもらいました。ラフを見た瞬間にも、『すてき!』と大興奮しましたが、作品になって、より一層感動しましたね。作品にぴったりだなあと」
──2年前のアルバム『10歩』で活動10周年を迎えられて、同年にはベスト盤とも言える『Re:cipe』も出され、バンドとして一区切りをつけられましたよね。その次に出す作品が今回ということで、どのようなスタンスで取り組まれたのか、気になっていたんです。
大野 「……実は……特にそういうのはないんです(笑)。こういう方向を狙っていこう、みたいなものはなくて。最初からコンセプトを考えてやる、というのがどうも苦手なんですよね」
武田 「できあがったら、こんなこと自分達はしたかったんだなあ、というのがわかる(笑)」
木村孝(Dr.) 「今までもコンセプトアルバムはないんですよね。こういうアルバムを作りました! ではなくて結果としてこんなアルバムになりました、という」
大野 「去年一年間木村さんがいなかったので、宅録の時間が長かったんですよ。今回のアルバムは8ビート曲が今までより少ないんですけど、もしかしたらその影響はあるかもしれません。皆でせーの、でアレンジするのではなく、長らく綿密に作り込んでいるうちに、8ビートじゃない曲が勝ち残っていました(笑)」
──じゃあ収録曲は木村さんが不在だった昨年以降の曲ばかりなんですか?
大野 「いえ、原型が何年も前のものもあります。ソロでやっていた曲もあります。以前からやっている歌だと6曲目の[君列車]とか」
武田 「確か、弾き語りでしかやってなかったんだよね」
大野 「[Gift of Light]という曲も、もともとの形は2009年ころからあったし、[アイの夢]も原型はわりと前ですね」
木村 「全然違う曲になっているよね(笑)」
──するとできあがった曲をそのまままとめられたのが今回のアルバム?
武田 「そうですね。だいぶ前に意図的にこういう音を狙ってやろう、といったことも試したんですけど、『究極的に言えば自分達の中から出てくるものしかない』ってことに気付いて、今はそうなっていますね。出てきたものをシンプルに良い音に仕上げていく、というのを自然発生的にやっていて、それがこのバンドのいいところなんじゃないかと思っています」
大野 「今回のアルバムはエンジニアのあっちゃん(※)が、“ベストアルバムみたいだね”と言っていたんです。“濃いね”って。少しブレイクのような曲を入れよう、というのが今回なくて」
木村 「箸休めするような曲がないよね」
武田 「箸休めはさせない、っていう」
※吉田明広 VASALLO CRAB 75のキーボード兼エンジニア。メンバーとも親交が深くここ数年の waffles
の作品にレコーディングエンジニアとして参加している。