──これらの恋愛の歌詞は大野さんの体験談がもとになっていることが多いのですか?
大野 「うーん、心情は知っていないと書けない、というのはあるでしょうし、私の考え方は出ていると思いますが、世の中の創作物の由来と同じ程度だと思います(笑)。核になっている“感情”を伝えるための設定、物語の舞台はわりとフィクションというか、想像から作っているものが結構ありますね。でも実際にある場所を舞台に使うのも好きですね。[Fantasy]に出てくる“なないばし”は、井の頭公園にある橋の名前です。
[Lady Dancer]のヒントになった話では、昔わりと大きくて、“これ跳べるかな?”と迷うくらい幅広い小川が中庭にあったんですけど、男の子たちはそれをジャンプして超えていくんですね。それで私も跳ぼうとしたら、“えっ跳ぶの? 女子はあっちから周ってきなよ、危ないから”と言われたんです。急に止まれず飛んじゃったんですけど(笑)。“あっ女子はダメなのね……”みたいに思う瞬間がいろいろあって、女子ならたぶん分かると思うんですが。そういう小さい体験は歌詞にも散りばめられていますね」
──少し視点を変えてリスナーを意識して作ることもあるのでしょうか?
大野 「はい。最近はより“僕”目線を大事にしていますかね。あえて女性目線を打ち出したいときは“私”という一人称を使いますが。歌い手という立場で言うと、一個一個その歌のキャラになりきって歌っているような気分もあります。[poplar(ポプラ)]の経験がすごく大きくて、あの曲は初めて“僕目線”を強く意識して作った歌です。それが男女問わず聴いてもらえたというのがあったから、そういう歌があるといいなと。[アイの夢]や[Gift
of Light]もそうですね」
──普段の生活の中で女性だからと意識させられることがあるのですか?
大野 「うーん。特別フェミニストではないのですが、普段から男女の違いを客観的に考えているところがあるんだと思います。女性目線の歌は繊細だけど爆発というか、“感情”の成分を増やしますね。僕目線のときは、ちょっと穏やかで冷静です。理性と感情が頭のなかで強烈にせめぎ合っていますので(笑)」
一同 (笑)
──先ほどから話題になっている[Lady Dancer]について詳しく教えてもらってもいいですか?
ジョナ 「[Lady Dancer]は、まずABあたりのギターコードを作って」
大野 「別のピアノトラックと混ぜ合わせて、そこからメロディつけて、8分の6拍子のイントロなども加えていきました」
武田 「[Lady Dancer]は恭ちゃんから絵を見せてもらったんですよ」
大野 「ドガ(※)踊り子の絵を見せてそんな感じでと。踊り子、バレリーナをイメージしてと」
武田 「曲のイメージを絵で例えられたのは今回初めてでしたね」
大野 「イントロのドラムは、ダンダカダンダンダン、って感じでお願い、と伝えました(笑)」
木村 「リズムを曲に合わせていくのが大変でした。ビジネスでこんな抽象的な指示をされたら怒られますよね(笑)」
武田 「ちゃんと仕様書ください、って言いますよね(笑)。でもそのときは恭ちゃんの見せてくれた絵でイメージが広がったんですよ。開けたというか、自分が弾くフレーズに迷いがなくなったんです。そういう瞬間がどの曲にも必ずあるんですよ。突き抜けたというか……。はじめはこれがいいのか、あれがいいのかって悩みながらアレンジを詰めていくんですけれども、どこか一点を突破すると、曲全体がすごくクリアになっていくんです。今回のアルバムではどの曲もそれを徹底的に突き詰められたので、力を抜くところがないベストアルバム的な作品になったのだと思います」
※エドガー・ドガ。1834年生まれのフランス印象派の画家・彫刻家。『ダンス教室』、『三人の踊り子』『バレエのレッスン』などバレエに関する作品を多数残した。
──制作にあたっては他の曲も同じような感じですか?
ジョナ 「イメージ・ワードが後から決まる曲もあります。私の曲はトラックを作るところからが多いですね。ベース、ドラム、ギターの3パートだけの基本的な構成の打ち込みを」
大野 「2人で作るときは、曲の断片をたくさん持ちあって、それらを組み立てていくんですよね。編集作業的な感じで。あとジョナや武田さんは音から歌を見ていて、私は歌から音を見ているので、そこが違っているから、色々な曲ができるんだと思いますね」
──大野さんとジョナさんが曲作りをされているわけですが、武田さんは?
武田 「僕は作らないですね。作ろうと思ったこともあるんですけれど、自分が世の中に対して主張したいものがないんですよね。歌詞もそうですけど、作るならそういったものがないと意味がないと思うんですよ。ゼロをイチにすることよりもイチをジュウに広げることに興味があるんです」
大野 「武田さんはアレンジ、特にベースラインについて参加してもらうことが多いですね。だから私達が基本のベースを打ち込みで作ってなんかしっくりこないことがあっても、武田さんにアレンジ、生音でレコーディングしてもらうことで、曲が違う印象になってまとまっていくんです」