シンガーソングライターの黒沢秀樹さんが、ソロとしては16年ぶりとなるオリジナルフルアルバム『colorations』を7月1日にリリースした。当サイトでのインタヴューはMEET MUSIC Vol.23以来4年ぶりで、対面での直接インタヴューは今回が初めてとなる。
L⇔Rのギタリストでもある黒沢さんは97年の活動休止以後、フロントマンとしてのソロ活動、HOWやuncle-jamなどのバンド活動のほか、裏方として有里知花、遠藤久美子、石野田奈津代、sowansong、にこいちなどへのプロデュースワークや楽曲提供などで着実に力をつけてきたミュージシャンだ。しかし2011年の震災、度重なるプライベートでの様々な要因で音楽家としては一度死の瀬戸際にまで追い込まれてしまったという。
そんな黒沢さんが心機一転、新曲を作りワンマンライヴで披露するというアーティストとしての原点に立ち返った活動を2012年よりスタート、全国のファンが彼の音楽を楽しみに集まるようになっていった。さらにはお客さんが喜んでくれるならと、今ではL⇔Rの曲も歌うようになった黒沢さんからは、16年前のネガティヴな様子はほとんど見られず、ポジティヴで音楽を心底楽しんでいる様子が伝わってくる。きっと音楽活動を行っていく上でもとてもいい状態にいるのだろう。
2時間に及ぶ取材では新作についてのお話はもちろんのこと、ギター片手に飛び回るようになった近年の音楽活動の話、デビュー結成秘話、そして多くのファンが気にしているであろうL⇔Rに対してどのような想いを持っていたのかについてまで伺っている。これらの話を知ることで現在の黒沢さんがシンガーソングライターとして何を考えどんな気持ちで歌っているのか…理解する上で読者の皆さんの手助けになるだろう。
筆者は21年前にL⇔Rに出会ったことで音楽を聴くようになり、今ではこうして編集者として活動するようになった人間である。記事中にはいささかマニアックな話も含まれていると思うが、そこはご容赦願いたい。8/7のワンマンライヴも楽しみである。
インタヴュー・文 黒須 誠
撮影 山崎ゆり
企画・構成 編集部
取材協力 ユニバーサルミュージック合同会社
日時:2015年8月7日(金) open 18:30/start 19:00
会場:東京・青山月見ル君想フ
出演:黒沢秀樹(バンドセット)
料金:前売 3500円/当日 4000円(共に+1drink)
予約:http://www.moonromantic.com(〜8月5日(水)24:00迄)
電話予約:月見ル君想フ 03-5474-8115
詳細はオフィシャルサイトをご確認ください。
──本作『colorations(カラーレイションズ)』はユニバーサル・ミュージックからのリリースとなります。
黒沢秀樹(Vo/G) 「ありがたいことに、これは人のつながりによるものなんですよ。以前石野田奈津代さんをプロデュースしたときに彼女からどうしてもメジャーでやりたいというオファーがあったんです。そのときに知人の佐々木美夏さんがユニバーサルの制作ディレクターである永井さんを紹介してくれたんですね。佐々木さんは今回の僕のリリース資料でも文章を書いてくれた人なんですけど。それで昨年の秋ごろに永井さんへリリースの相談をしたところ“ぜひ出しましょう!”と言ってくれたんです。ところが永井さんが突然会社を辞めるという話になり、一度ふりだしに戻ったんですよ(笑)」
──それは大変でしたね。
黒沢 「みんなで“えー!”っと驚きましたね(笑)。その後永井さんが別の部署で働くことになったのですが、担当が違う部署に異動されたこともあって、制作部門の後任として三上さんを紹介してくださったんです。以前僕が伊藤銀次さんとやっているバンドuncle-jamで、『猫と音楽の蜜月』という猫のコンピレーションアルバムに参加したことがあって、そのアルバムの制作ディレクターが三上さんだったんですよ。それでトントン拍子に話が決まったんです」
──収録曲について教えてください。
黒沢 「今回の作品は、ここ数年配信でリリースしていたものを集めたものなんです。三年前からソロ活動を再開したのですが、約三カ月に一度新曲を作って弾き語りのソロライブをやるという活動をずっと行ってきたんですよ。それがたまってきたのと、ボーナス・トラックとして[焼いた魚の晩ごはん]という、かもめ児童合唱団という三浦半島の子どもたちによる合唱団に提供した曲を、新たにセルフ・カヴァーでレコーディングし直しました」
──レコーディングなどはどうされたのですか?
黒沢 「今回のアルバムはシングルの集大成でもあるので、ボーナストラック以外は近年レコーディングやミックスしたものなんです。作っている時期によって自分のやりたいことがバラバラだったので、音についても楽曲ごとに全然違うんですよね。だから今回はマスタリングが意外と大変だったんですよ(笑)」
──それは活動スタイルとも関係しますよね?
黒沢 「そうです。三年前にソロ活動を再開してからライヴを中心に活動してきて、弾き語りのソロライブをやる度にシングルを出すということをやってきたんです。次のライブの日程を決めたら、それまでに曲も作ろうというやり方だったので、予めどんな曲を作るか考えてはいなかったですからね」
──アルバムタイトル『colorations』について教えてください。
黒沢 「アートディレクターに僕の曲を聴いてもらったんです。そして歌詞を見ていただいたときに、“黒沢さんの歌にはいろんな色があるよね”という話になりまして、先にアーティスト写真のアート・ワークからスタートしたんですよ。その後タイトルの話になったときにも “秀樹さんの曲には単なる赤や青、黒といった色ではない複雑な色味みたいなものを感じる“という話がありまして。そこでカラーなんとかって言う名前を考え始めて行きついたのが”カラレーションズ”という名前だったんです」
──どのような意味がこめられているんですか?
黒沢 「この言葉には本来複数形はないようで造語なんですよ。目の不自由な方が自分の位置を知るために必要な反射音、音が飛んでくる方向、モノがどのへんにあるのか、どこから声をかけられているのかを測るためのものをカラーレイションと言うそうなんです。あともう一つ、プロのリファレンス・オーディオの世界では原音再生、つまり作った曲をどれだけ正確に再現出来るのかが問われるんですけど、民生機では音に色づけをするんですよね。”このアンプはものすごく真ん中の音がふくよかで良い音がするよね”とか、”このスピーカーはドンシャリだよ”とか。原音からは少し離れて音が色づけされることをカラーレイションとオーディオ用語で言うんです。これが自分の音楽のスタンスとすごく合っているなと思ったんですよ」
──合っているというのは?
黒沢 「聴く人がいるからこそ、音楽ははじめて音楽になると考えているんです。僕がこうだよと言っても、聴いた人が違うといったらそれはその人のものであるということですね。だから自分が作った音楽が手を離れたらあとはお客さんの色になるという意味もあるかな」