藤井 「ギターの音もドラムも、ロックっぽい感じになっているね! でもこれいい曲だね、久しぶりに聴くと。すごく良くないですか?」
石田 「どの曲もそうなんですけど、ギターの音づくりにこだわって、よりロックらしくしましたね。あとこの曲は今回ギター・ソロのテイクがオリジナル盤とは違うんです。この当時、ギター・ソロをちゃんとダビングしたんですが、ミックスの時になって、ミキサーの寺田さんが“リズム録り(注7)のときのギター・ソロでいいじゃん”って思いついて、それでミックスしたんです。でも、そのリズム録りで弾いていたギター・ソロなんですが、明らかに間違っているんですよ(笑) けど‘別にいいじゃんこれで”って寺田さんが言ったら、場の空気が全部そっちにいっちゃって」
藤井 「それは、石田くんとしては残念な感じだよね?」
石田 「そうなんです。それで、この残念な感じって、ギタリストじゃないとわからないんだろうなと思って、クル(車谷浩司)に“どう思う?”って聞いたんです。そうしたら、クルも“うーん、ここの部分でしょ? 僕はわかるけど、多分これギタリストしかわからないし、みんながいいって言うんだったらいいんじゃない”って言って(笑)・・・そういうわけで、場の雰囲気に流されてミスしたテイクでそのままリリースしちゃったんですよ」
佐々木 「けど、そこで自分の意見を通そうとすると、こだわってる奴、細かい奴って思われるんですよね・・・」
藤井 「そうそう。そういうことがレコーディングではよくあるんですよ。場の雰囲気に流されるって・・・2,3年位経って失敗したなあと思うことってあるよね。そのときは、“お前、大きな流れ見てないよ”みたいなことを言われるんだけど、3年位経つと明らかに間違ってるじゃん、みたいな(笑)」
石田 「まさにそのパターンです! その正規のバージョンのギター・ソロを入れました。あと中西康晴さんが弾かれたオルガンが一部カットされていたんですけど、それが今回は全部出ています。全体的に、ロックっぽくなっています」
藤井 「またね、最初はロックっぽいんだけど、当時流行っていたジーザス&メリーチェインとか・・・なんかそういう感じで行くのかと思ったら、メロディアスに展開するところが・・・グッときますね」
黒須 「僕は、この曲は、サビのメロディが大好きなんです。僕の場合はリアルタイムではなく追っかけでスパイラル・ライフを聴き始めたんですが。スパイラル・ライフはコーラス、メロディがものすごく綺麗なバンドだと思っていて、この曲もその印象がすごく強かったんですよ」
(注7)【リズム録り】 主にドラムとベース(リズム体)の音を録るために行われる録音作業。ギターも一緒に演奏をすることもあるが、ギターは後からかぶせたり、録りなおしたりして、のちに録ったものを正式テイクにすることが多い。
藤井 「あとさ、あのときのクルのヴォーカルがすごくいいね。わりとこうメロディアスに歌うと三善英史(注8)みたいになっちゃうじゃないですか? 車谷君って・・・ファルセット男性ヴォーカル系というかね。この曲はクルのいいところが、他の人ではなかなか歌えない味っていうか出ているよね。声の伸ばし方とかが独特なんだよね」
石田 「さだまさしっぽかったです」
あず 「車谷さんのボーカルは、繊細さの中にも力強さもあるというか。詞の雰囲気もあって、すごく響いてきますよね。佐々木さんは、いかがでしたか?」
佐々木 「・・・さっきのギター・ソロで鳥肌がたっちゃいました!」
石田 「オリジナル盤は、今回のリ・ミックスのギター・ソロより、2小節早く先にソロが出ているんですが、本来は間違っているんですよ。だからオリジナル盤の方は同じフレーズでもう1回弾きなおしているんですよね。そしてそのやり直した回で、またミスっていて(笑)。僕としては“なんで、これなんで?”っていう・・・ただ、僕自身こだわらないプレーヤーなので、みんながOKだったらいいや、とすぐ切り替わったんですけどね。当時は。ただ、20年経って、テープの中に、ちゃんとダビングした方のソロが残っていたことに気付いて、これを使おうと思いまして」
藤井 「そういうわりと諦めが早いっていうか、みんながそう言うんだったらいいやっていう感じの所が、当時はやっぱりまだアマチュアというか、プロになりたてだったってことなんだろうね、石田君は」
石田 「いや、当時から、視点が大局的だったって言ってくださいよ(笑)」
(注8)【三善英史】 1972年「雨」でデビューしてヒットをかざった演歌歌手。繊細で細い声が車谷氏のイメージに重なるとは、藤井丈司氏談。