石田 「「CHORONICLE」は「ヨー!オーコ」という仮タイトルだったんです。ジョン・レノンの曲で「オー!ヨーコ」という曲があるんですよ。それと同じコード進行とリズムで最初作ったんです。ずんじゃんじゃじゃん、ずんじゃんじゃじゃん・・・って。それで、この曲で一番でかかった欠損が、車谷くんのコーラスのパートが、テープがつぶれていまして」
あず 「コーラスが? まるまるですか?」
石田 「‘‘らーいらーいらいらいらいらーい…”という、サビのところが、丸々なくなってました。それをどうにかしなくてはならないということで、テープを探しまくったところ…曲の後ろのほうにですね、これがあったんですね」
‘‘らーいらーいらいらいらいらーい”と歌が流れる
石田 「これ、1本のマイクに、僕と車谷君と、二人でハモっているんです。この‘‘らーい”というところ、ふたつ分かれてるでしょ?上が僕で、下が車谷くんですね。で、Melodyneっていうプラグインを使いまして、その、車谷くんの部分だけを取り出して、僕の声のところだけ消すんです」
藤井 「Melodyneは、普通に音程とか調整できるプラグインなんですけど、一人が歌ってなくて二人で歌ってるとか、バンドでやってるときのヴォーカルだけを取り出すとか、たとえば、ギターだけチューニングが悪いから、そこだけ上げることができるようになったんですね。割と最近、ここ5~6年で出てきたソフトです。けど、こんな使い方してる人、はじめて見た。こんなことできるんだ(笑)」
石田 「僕の声を消して出てきたものが、これです」
‘‘らーいらーいらいらいらいらーい”(車谷さんの声)
石田 「かすかに僕の声が残ってるけど、車谷くんの声が取り出せているでしょ? という風に、僕の声の成分だけを消したものを、前のサビにもってきて、貼り付けたんですね。声ではなくて、音階で音を分けるので、ユニゾンのところでは使えないんですが。それで、これが前のサビに取り出した車谷くんの声を重ねた音ですね」
‘‘らーいらーいらいらいらいらーい”(ハモっている音)
一同 「おおおー!」
石田 「今だからこそこうやってやりましたって言えるけど、まさか後ろに2人でハモっているトラックがあるって最初気づかなかったので、最初はどうしようと思って。また“歌わない?”って車谷くんに言っても、彼がどう言うか、決まっているじゃないですか!」
藤井 「石田くん歌えば? やってよ、って(笑)」
石田 「そうそう。そんなね、自分の声に自分でハモりつけて、自作自演しても、なんも面白くないじゃないですか! それは、ちょっとなあ、って思って」
あず 「なるほど。ちなみにその、マイク1本で二人で歌ってたテイクはどういう目的で録られていたんですか?」
藤井 「いや・・・基本的にこの二人は、寄り添ってるように音源では聞こえるけど、別々に声は録ってたんだよね。だから、割と、二人で録ってるテイクは珍しいですよ。たぶん、それまでのところで別々で録り終わってて、二人ともコーラスラインがわかってたから、最後は二人でやってって、言ったんだと思うんですよ」
あず 「今、ほとんど加工してない石田さんと車谷さんの声が聴けましたけど、声の相性の良さは、生の声でも、すごく感じますよね」
藤井 「特に、石田がいろんな声を出せるのが大きいんですよね、スパイラル・ライフは。こう、ハモるときに、車谷の声質にあわせて、上にいくと包むし、下にいると支えるし・・・っていうのができるのが、すごく石田の声の魅力なんです。石田は、曲も詞もいいんだけど、それ以上にヴォーカルのスキルがすごく高いから。それが大きいよね」
石田 「いろいろとくすぐったいですね・・・今日は。あの当時言ってもらいたかったです。昔は怖くてですね、藤井さん!」
藤井 「絶対、当時も言ったって! 忘れているだけだって(笑)!」
あず 「藤井さんは、この曲をフェイバリットの一つにあげてましたけど、実際、この曲に想い入れはあるんですか?」
藤井 「まず、ほかの曲と違って石田のソロだし・・・このアルバムの中で特色あるというのと、石田が、自分のやりたいことを全部できるということで・・・なんというか、親愛の情が湧いたんですね。この曲、個人的にすごく好きだったんです。他の曲って、ビートが複雑じゃないですか? この曲だけ、ずんちゃんずんちゃんって、メリー・ホプキンみたいにシンプルで・・・それがすごくいいなと思って」
あず 「佐々木さんもこの曲に思い出があるということで」
佐々木 「もちろん石田さんヴォーカルの曲ということで思い入れもあるんですが、2011年に、ショーキチさんとはじめて、僕が主催のイベントで出演いただくことになって。僕のバンドと、ショーキチさんのソロバンドで、対バンだったんです。そのときに僕が、病気で入院してしまったんですよ。急性膵炎で。それで、イベント自体どうしようかと思ったんですが、ショーキチさんの他にも出演者がいて、僕を除いた僕のバックバンドのメンバーと、ショーキチさんと、その一組でイベントを開催してくれたんです。軽く僕のトリビュート的な雰囲気で」
石田 「追悼ライヴになってたよね!」
佐々木 「はい(笑)。追悼的な雰囲気で開催してくれて。それで僕のバックバンドにショーキチさんが入って、「CHORONICLE」をやってくれたんですよ。それを、Ustreamで中継してくれて、病室でそれをリアルタイムで見ていてですね。そういうわけで、いい思い出がある曲なんですね。そういえば、石田さんも当時、ソロライヴでも、あまりやっていらっしゃらなかったんですよね」
藤井 「そうなんですよ。2年前だかに僕のライヴで呼んだとき‘‘CHORONICLEやってよ”って言ったら、自分のライヴでやったことないって言われて。‘‘あんないい曲なんでやんないんだ!”って久々に会ったときにいきなり怒りまして(笑)」
石田 「藤井さん、怖かったんですよその時! 最近は、時々やっていますけどね」
藤井 「そういえば、この曲ね、結果も出たんですよ! 九州のFM福岡のカレッジチャートで1位になったの! それを当時のレコード会社のポリスターの宣伝の人から聞いて、すごく嬉しかったんだよね。シングルでもなんでもないのに、アルバムの中でこの曲がピックアップされて、学生さんたちのチャートで1位になったというのが、すごく嬉しかった」
黒須 「僕はベースが印象的で。先ほどから、藤井さんが、試聴のときに体を動かしてリズムを打ってるのを皆さん気づいていると思うんですけど、やっぱり、自然とリズムに乗るような、ドラムとベースがすごくいいなと思っていて。ベースも少しずつラインが変わっていって、少しずつ盛り上がっていくようなところにコーラスがかぶさって。すごくいい気持ちにさせてくれる音楽だと思いました。実はステージから曲が流れているときに客席を見ていたんですけど、皆さんすごく嬉しそうな表情をしていたのが印象的でした」
藤井 「最後にひとつだけいうと、歌がすごく難しいんですよ、この曲。一息で歌うのが。デモテープがね、すごくよかったんです。それと同じように本番のレコーディングで石田がなかなか歌えなくて。石田が途中で心が折れそうになってましたね。‘‘いやあ、僕もう、ダメかもしれないです・・・”って、ちょっと弱音吐いていて。だから俺が励ましてうまくいったっていう、いい話でもないんですけどね(笑)。けど、なかなか歌えない歌だなあって思うんですよね。裏声にひっくり返るところのギリギリのところとか・・・すごくいいんですよね」
石田 「実は今回、もちろん、歌い直しとかはしてないんです。ピッチシフト(注14)もかけてないですけど、歌のテイク選びはやり直しましたね。今って、ピッチ修正とか当たり前の時代じゃないですか。その耳でもう一回聴くと、もうちょっと追い込んで選ぼうかなと思って。当時の僕の歌唱力がダメだったので、テイク選びを丁寧にやりました、今回」
(注14)【ピッチシフト】 ピッチ=音程の修正のこと。デジタルレコーディングの時代になり、簡単にパソコン上で、ギターやヴォーカルの音程の修正ができるようになった。