──その時は当然ながら黒沢さんもエリックさんの作品を聴いて判断したと思うんですがそのあたり少し詳しく教えてください。
黒沢 「たまたま僕がエリックが手掛けた作品を結構持っていたんです。デヴィッド・アーチュレッタとかね。何だろう…事務所のスタッフとも話していたんだけど、アメリカのヒットチャートって日本にあまり入ってこないからわかりづらいかもしれないんだけど、向こうのヒットチャートでいい感じの新人が出てくると、次のプロデューサーはこいつだ! といった話題になってその中の一人にエリックが入っているんですよ。デヴィッド・アーチュレッタがアメリカンアイドル※ですごく歌がうまいとか、確か優勝したのかな? その時のデビューアルバムは彼がプロデューサーとしてチョイスされた作品で、それでなんとなく雰囲気を掴んでいたというか。トーリ・エイモスやバーディーもそうだけど、なんやかんや彼の作品を持っていたんですよね」
※アメリカンアイドルとはアメリカで放映されている毎週勝ち抜いてグランプリを目指すTV番組
──持っているCDの中にたまたま彼の作品がたくさんあって、健一さんの好きな音楽も多くあったと?
黒沢 「そうですね。それと、彼の作品はマルーン5も デヴィッド・アーチュレッタも全部違うスタイルなんですよ。ポップスであることは一貫しているんだけど、特段何か音に特色があるといったことでもなく、アーティストに合わせた音作りをされる方だなと思っていて、そこがやっぱりいいなと。あと彼がプロデュースしている様々なアルバムの選曲もよかったので」
──選曲のお話が出たので、ここで今回のベストアルバムの選曲についてお伺いしたいのですが、これはどなたが選ばれたのでしょうか? 黒沢さんですか?
黒沢 「今回はプロデューサーのエリックが選んでくれたんですよ。こちらから候補の曲を、全部ではないんですけど、送って彼からこれでどうか? と提示があったんです」
──思っていた以上に選曲がど真ん中、直球だなと思ったんですよ。ミリオンセラーを記録した「KNOCKIN’ ON YOUR DOOR」はもとより、ソロ活動一枚目のシングルである「WONDERING」、アニメの主題歌にも起用された「PALE ALE」など節目となる作品が収録されている一方、「SHOOTING THROUGH THE BLUE(邦題:ブルーを撃ち抜いて)」はアルバム収録曲でライヴでは定番のためファンにはお馴染みなんですが、一般の方にはそうでもないでしょうし。ちなみにポリスター時代が1曲、ポニーキャニオン時代が4曲、ソロが7曲という配分でしたが?
黒沢 「それぞれの楽曲の解説はしたんですけど、それだけですからあくまで楽曲でエリックが選んだんだと思いますね。特に僕ら側からというものはあまりないですね」
──今回再録ということなんですが、サウンドプロダクションの方向性について黒沢さんの中に具体的なイメージなどはお持ちだったのでしょうか?
黒沢 「基本的にエリックに任せよう、と自分の中で持っていたので特に提示したものはなかったですね。僕が口を出していくと絶対にオリジナルに近くなっていってしまうので面白くないし(笑)。ただ、逆にエリックからは色々と聞かれましたけどね。この曲はどんな感じで作った? と。彼に会ったときもそうだし、日本に帰ってきてからもメールでやりとりをしていました。あとこの曲の通りにしてほしくはないんだけど、という注釈付で、自分が子供のころから好きなアメリカンポップスで影響を受けた楽曲をいくつかイメージとして送ったら、彼から、まさに自分の中の人生においてすごく重要な曲が君と多分一緒だからという風に言ってくれたので。二人とも同じようなロックンロール、音楽が好きで、国は違えどミュージシャンという職業に就いたんだよな、という確認ができたので、それでエリックとしてはOKだったという感じでしたね」
──二人の中に見つかった共通点について差支えなければ少し。
黒沢 「いっぱい出ましたけど…当然ビートルズやスペンサー・ディヴィス・グループといった60年代のブリティッシュロック、ブルース・ロックなど。アメリカ人から見たビートルズってイギリス人のそれとは違うんですよね。ビートルズのようなブリティッシュ・インヴェイジョン、いわゆるリバプールサウンドってアメリカ人にしても日本人にしても外国の音楽だから、それらに対する憧れみたいな(笑)、イギリスのバンドってかっこいいよな! といった捉え方が一緒なんですよね。もちろん自分の国の、エリックにしたらアメリカの60年代のロックンロール、ポップミュージックがベースにありながら、2010年代の現在のアメリカのヒット・ポップスも手掛けている人なので幅は広いなと思いましたけど」
──今回のアルバムの全体的なイメージとしては、近年の黒沢さんのサウンドプロダクションに近くなっていますよね。曲の核となる部分は変わらないのだけど、雰囲気としては優しく落ち着いた感じになっています。ウェストコーストサウンドっていう言葉が合うのかはわかりませんが昔の音源との対比では、例えばホーンセクションは鳴りを潜めていたり、オリジナル盤にたくさん使われていたキメが減っていたり、コーラスが増えていたり…アレンジはもちろんのことコードも少し変わっています。
黒沢 「今のそのお話、具体的に楽曲の部分を捉える考え方ってとても日本人らしいなと(笑)。アメリカ人ってもっと直球なんですよね。考えていないわけではないんだけどもっと感覚的、身体的な感覚を大事にしていて…スポーツに近い感じなんですよ。音を出して目と目でオッケーだったらそれでいいというか。日本だと、ここの何小節かはこういう感じでさ…といった細かい話になっていくことが多いんだけどね。音楽が体に入っている国だから、頭で考えるというよりも聞いた感じをそのまま音に出すことに長けているので…お前の音楽を聴いて俺はこう思ったんだけど、とすぐにセッションできる人たちだからね。音でのやりとりだったし今回具体的なアレンジについてどうこうという細かいことはほとんどなかったですね」