──なるほど、それではレコーディングはどのように進められていったのでしょうか?
黒沢 「エリックに会って話をしてから足掛け3か月くらいですね。実際のレコーディングはエリックに任せていたので、ファイルで音源が届くんですよ。ベーシックトラックができたけどどう? といったように。だから僕は何の指図もしませんでした。そこでオリジナルのコードをこうしてくれ、とか言うと自分のプロデュース、アレンジになってしまうので。そこはあえて拘りましたね」
──歌やコーラスはいかがですか?
黒沢 「歌録りは日本で行ったんですよ。コーラス入れも日本でやったんだけど、そのアレンジは茂村さんにお願いしました。実は今回アメリカでレコーディングしようという話になったときに、茂村さん自身がアメリカのミュージシャンにも詳しいこともあって知恵を借りたんです。エリックから送られてきた音源を元に茂村さんがコーラスのアレンジを考えてくれました。コーラスと歌以外は全て向こうでレコーディングをしてもらったんです」
──その際、歌についてエリックさんからお話はありました?
黒沢 「最初に仮歌をエリックに送ったんですよ。それで大丈夫とのことだったのでその仮歌のフィーリングに合わせるようにはしましたね」
──オリジナル盤よりも自由に歌われているように感じました。
黒沢 「エリックの作ってくれたサウンドで自由に歌おう、というおおらかな感じでできましたね。自分でプロデュースしているとこうはできないんですよ。サウンドが頭の中にあるから、その通りに歌おうと思うんです、頭の中の音をそのまま歌おうというヴォーカルにね。だけどエリックが作ってくれて自分のプロデュースを離れたから、僕はヴォーカリストになれたんです。多分初めてだと思いますね、こんなにヴォーカリストとして自由に歌えたのは。今までは歌っている瞬間もプロデューサーでしたからね」
──少し視点が変わりますが、今回エリックさんにプロデュースしてもらって、これまでとの違いはありましたか? 近年の健一さん自身によるセルフプロデュースや日本人の方によるプロデュースとの違いなどがあれば?
黒沢 「大きくは違わなかったけど、今まで日本人のプロデューサーと一緒に仕事をするときって、僕のやりたいことに手を貸してもらいたいという、セルフプロデュース・プラスということなんですよ。だから今回のように完全にまかせて自分の作った曲がどうなるか? ワクワクしたいということではないんですよね…僕の立場からしたらですけど。こちらから声をかけるときは、どっかしらその人のサウンドが自分のやりたいことに似ている、などがあるときなので。過去『Let me Roll it!』のときにジャック・ヨセフ・パイクという今はストーンズなどを手掛けているプロデューサーと一緒にやったんですけど、彼はその当時のギターサウンドを作っていた人で、日本で自分がその音を出したいときにやり方がわからないから、彼にミックスをしてもらったら目指すサウンドになるんじゃないかと思って頼んだしね。イギリスでのジョン・ジェイコムズという人との作業は、彼の作り出すサウンドの力を少し借りたいと思ったり。今回のエリックに関しては完全に彼らにまかせていたのが大きな違いかな」
──完成された作品を聴いたときはどのように感じましたか?
黒沢 「アメリカンらしいサウンドだなあと思いましたね。とにかくストレートでシンプルになったし…あとやっぱりカーステレオで、でっかい音でかけて走っていると気持ちいいよね。前の「PALE ALE」もそうなんだけど、(自分では)ロックンロールのつもりで作っているんだけど、やっぱりさ、日本で作っているとどこか屈折しているんだよね(笑)。洋楽に憧れて音楽を始めているから、洋楽ってきっとこうだろうなと思ってスタジオの中で練りこんでいるものが、洋楽の世界でやるとホンモノになるんだなって。(日本で)アメリカの音楽が好きでスタジオ借りて、どうしたらあのような音になるんだろうな? と(機材の)目盛りを2つ変えてみたりコーラス少し変えてみたりしながら…なんかアメリカっぽくなったんじゃないか? といった箱庭的な作業をして洋楽っぽくなったなと思っていてもそれはバーチャルな洋楽なわけで、それだったら現地に行って録ったほうが早いよね、ホンモノだし(笑)。ギターの音はやっぱりこれだよ! といった…違いといったらそういうことなんです」