続いてのライヴレポートは、市村 佳さん。彼は一般的などこにでもいるギターポップリスナーの一人であり、普段から数多くのギターポップイベントや下北沢系、渋谷系バンドのライヴに足を運んでいる。まさに当サイトが応援しているミュージシャンの音楽が大好きな方である。音ゲームも好きで今回の出演者の熱烈なファンでもある。今回純粋なファン・リスナー目線でこのイベントがどのように映ったのか、感想を教えてもらった。
文/市村 佳 撮影/山崎ゆり(urico) 協力/編集部
文中敬称略
指折り幾夜、待ちに待ったゴールデンウィーク最終日はピンポイント豪雨日和。
入場で隣接ライヴハウスと多少の混乱があったものの、じき収まり順調に入場。
壁際に残した椅子のほかはスタンディングでした。
入場の際に入口にて小袋を渡され、中身はお菓子(ラムネ、飴玉、そしてアルバム「芯空」ジャケット・「powdery
view」ジャケット・杉本さんフェイスから1種がラベルされたチロルチョコ)と、メンバーからの手書きメッセージカード計3枚!びっくり。見どころは杉本さんのレアな手描き絵と常盤さんの天然シュールでしょうか。
物販にては各バンドゆかりのアルバム等のほか、ギターポップ系イベントでおなじみ、オカシコさんのスウィーツが販売!和三盆のブールドネージュとフィナンシェを求め、帰ってから頂きましたがこれが絶品。特にブールドネージュ。幸運にもイベントに居合わせたならこれは味わわねば。ギターポップ系イベントにはお菓子がよく似合いますね。
DJはCymbals
Night主催のdj-plexさんが全時間帯を担当。渋谷系・ネオ渋谷系周辺音楽と、音楽ゲーマー中心の客層に合わせてか音ゲー曲がたくさん。ポップンのどれかのバージョン(わすれた)のオープニングが流れたり、「STEREO TOKYO」では腕が動いたり口ずさむひとが続出(私調べ)。ところで「亜熱帯ガール」に英語バージョンなんてあったんですか。あとCymbalsの「So You Want To
Be A ROCK'N'ROLL STAR #6」をかけるセンスを持つDJはこの人しかいるまいと確信しました。
ワンドリンクにもこだわりがあり、各バンドにちなんだカクテルを、メンバーからの提案にもとづき準備したもよう。DJイベントのCymbals
Nightでは毎回恒例ですが、それ以外で見たのは初めて。私は「Low cost Low price & High return」(ノンアルコール)を注文。なんでもこれまでCymbals Nightで候補に上がっては却下されたネーミングだとか(ローコスト……)。おいしかったです。他のラインナップは芯空より「メロディ」、杉本さん「POP QUIZ
CIDER」(ノンアルコール)、risetteは「powdery view」。思わずにんまり。友人からrisetteカクテルをひとくちいただきながら、すでに満場近い会場の暗転を待ちました。
まずは空気公団の窪田渡さんによる、空気公団曲のインストカバーバンド、芯空。この日は奇抜でカラフルなロングTシャツを着た窪田さんがピアニカ+キーボード、サポー トでドラム+パーカッション+木琴+キーボードを切り替え弾きこなす五味俊也さんの計2人編成(+打ち込み少々)。芯空名義の音は前提知識なしで臨んだので単にインストバージョンを流すのかと思いきや、1曲目「今日少しそう思った」で仰天。どことなく久石譲を思わせる、ド迫力で雄大なアレンジ。こう来るか!続いて「田中さん、愛善通りを行く」。空気公団ver.で聴きなれた曲も全くの別アレンジで新鮮、ヴォーカル不在の空白感など微塵もない堂々たる演奏。全編を通して強く響くピアニカの音にノックアウト。やられました。
途中のMCで語ったのは本イベントのテーマ「MEET MUSIC」にちなみ、「音との出会い」について。お兄さんが絵が得意だったので下の子は音楽、といった雰囲気になり、かねてドラムがやりたかったところへエレクトーンを譲り受けて教室へ通い出し……といったエピソードを披露。またカクテル「メロディ」について。乳酸菌飲料っぽい(明治のメロディ、みたい な)イメージがあるので、ミルクがベースのカクテルを作ってもらったそうな。チョコに合う。締めの曲としてその「メロディ」を演奏。暗闇を照らすライトの中でピアノ+ピアニカだけが響きわたるとても雄大なステージ。感動。芯空名義でアルバムも出しているのですね。知りませんでした。空気公団ともどももっと聴きたくなりました。
続いて元orangenoise shortcut、サイモンマンこと杉本清隆。初期編成はアコースティックギター、ベース、ドラム、杉本さん(MCにていわく「杉本清隆と楽しい仲間たち」)。チェックのシャツに安定のキャスケットで弾き始めた1曲目はイントロですぐさま分かる「クオンタイズ」!
言うか言うかと思っていた「どすこい」をこの日は連発。サポートの木田さんまでどすこいどすこい。あげく、のちのMCにてゴールデンウィークだから「ゴールデンどすこい」だとか言いだすわ、メンバー紹介で(景子さん以外が)「どすこーい!」とか叫ぶわ、twitterハッシュタグ「#どすこい」を提案するわと自重しない面々、どすこいフィーバーなステージ。
little lounge*little twinkleより田中景子さんがヴィオラで参加し、2曲目は木田さんのコーラスが冴えた「トゥルース」。いつも以上にノリノリの演奏。続く「Mr.螺旋形」は景子さんのヴィオラがメインメロディを弾き、杉本さんのピアノへ受け渡され、中盤は木田さんのアルペジオが響く。格好いいのなんの。 ティーポットオーケストラとはまた違ったかたちでジャズをいいとこどりしたポップス。杉本さんはよほどこの曲に思い入れがあるのだと思います。
同じく気に入っているらしいスタイル・カウンシル(The Style Council)のカバーをはさんで、ゲストにrisette森野さんを迎えての「Little Rock Overture」!バンド形式での演奏はrisette15周年ライブでの初披露以来数回ありますが、木田さん・景子さん・森野さんが総勢で参加したのはおそらく初。ラストはフェードアウトではなくじゃんじゃがじゃん、期待通りの演奏。ところで演奏前に作曲者と曲の出典をいじるのはすでに定番なのでしょうか。とある機会では演奏後に楽屋に来て「うん、今日はよかったよ」と仰ったとかなんだとか。拍手のなか森野さん退場ののち「ネオアコロング(※ポップン表記)」。景子さんのヴィオラ入り、ゲーム・アルバムver.にないピアノのフレーズ入れまくり、木田さんはひたすらにこにこ素敵な笑顔。
5月8日の木田さん誕生日をお祝いして景子さん退場、ラストナンバーはライヴでは定番ながらアルバム未収録の1曲「Return To Music」。「あの日の自分にさよならしなくちゃ / 物語を続けるため」「ひしゃげたタンバリンはじけ飛ぶ」、つくづく深読みさせる歌詞。Guitar Pop Restaurant vol.10でのインタビューでアルバムについて「まだ構想段階」と語った杉本さん、これからどんな活動を見せてくれるのか。応援します。
ちなみに後日twitter一部界隈にて「#ゴールデンどすこい」タグが流行したとかなんとか。2~3日ほど流通したのちにほぼ消失したところまで杉本さんの予想通りというオチでした。
ラストは昨年秋に行われた名古屋ワンマンライヴ以来のステージとなるrisette!
さらに人口密度の増してぎゅうぎゅうの客席を前に、髪をポニーテールっぽく編み、黒と白のインナーに紫のドレープシャツ、迷彩柄のベージュのボトムスに白のハイヒールな今日の常盤さんが登壇。そういえば坂東マブチ卒業おめでとうございます。
向かって右から森野さん、常盤さん、Tsugaiさん、今回はそれにドラムとベースのサポートを入れてバンド構成。1曲目、まるっとしたRのアルバム『risette』の冒頭、ライヴでもなぜか1曲目にやることが多いという「baby pink」。いつも以上に元気な演奏に比して声が少しか細く聞こえたものの、続く「水玉のエチュード」で一気に伸びやかに。常盤さんに出しやすい音程なのでしょうか。
3曲目、7拍子のイントロに一瞬「venus」かと思ったところが「tangerine」。おそらく昨年夏のchocolatreとの対バンで初披露された、 Tangeline(以下Lと略)ふうアレンジ。Lのような疾走感と、Rのしっとりとした叙情の間をうまくバランスした演奏。このヴァージョン好きです。そ ういえばこの曲、全編7拍子かと思いきや、一小節だけ6拍子に変わるんですね。
4,6曲目に昨年の音作り実況イベント「新しいレコード」で作曲された新曲をリニューアルして披露。「せいぎのみかた」(仮題)は昨年のワンマンでも演奏されましたが、「真夜中にららら」(仮題)の正式なライヴ演奏は初でしょうか。Tsugaiさんのギターが鮮やかに響いて、初披露のときから確実に増した魅力。その間の5曲目には15周年ライヴ以来(このときはアコースティック編成)、バンド構成では何年ぶりか分からない「call」!意外な選曲。そして 「your own sweet way」バージョンから格段にノリノリになり疾走感の載ったアレンジ。ぜひ定番にしてほしいです。
「パラソル」に続きblue tonicのカバーで「The shadow of your smile」!初めて聴いた曲ながら、常盤さんの声に惚れ惚れ。MCで語ったところによれば、森野さんがはるか昔に出会い「つながった」と感じた一曲 で、risetteをやるにあたってもバンドのイメージとして持っていたのだとか。
銀のきらきらマニキュアを煌めかせて「Stop!」「PROBABLY LOVELY DEADLOCK」を全力で演奏し歌い上げ退場するも当然のアンコール。しかしなんとアンコールの準備なし。とりあえずぞろぞろと出てくる面々。うろうろする常盤さん。やがて主催者から時間的にも演奏可能との通達が出て、その場でぶっつけ演奏準備。場繋ぎMCにてカクテルの好みについて語り、「リンゴ系でミントっぽく」と乙女な面を見せてはTsugaiさんに「でもいっつもビール飲んでるイメージ」とつっこまれ、「ビールしかないとこに連れてくからだよ」とさらっと返す常盤さん。一同爆笑。
それはさておき、常盤さんいわく「月のイメージ。まあきょうは外では雨が降っているけれど、雲を突き抜ければそこには月がある、そんなイメージ」という 「タウンホール・ミステリー・ツアー」!前練習いっさいなし、今回のメンツで合わせるのは1年半ぶりという1曲を堂々と演奏。個人的にはこの日のベスト曲でした。素晴らしいステージ。今後も活動を追っていきます。いちファンとして、いつか生で「whitehouse」を聴くのが夢です。
ギターポップ好き、空気公団ファン、音楽ゲーマーなどなど多くの切り口で訪れる観客に、それぞれが魅力を真っ向から投げかける、とても良いイベントでした。行けてよかったです。