──話は少し変わりますが、このアルバムを聴いたときに僕は音として古臭いとか、90年代っぽいな、といったものを感じなかったんです。前作のアルバムから続けて聴くことができたのが意外だったんですよ。高橋さんからしたら、過去の作品というイメージがあると思うんですけど。
高橋 「いわゆるアレンジの新しい、古いといったものはないと思うんです。もともと自分がそういったことに引っかかって作品を作っていくタイプではないことも大きいかな。現在流行りのサウンドとか、こういうのがキテるというのは、リスナーとしては好きなんですけど、自分が作るのはまた別で。だから当時っぽいね、といったものはないんだと思います」
──なるほど。前作『大統領夫人と棺』の後に作られたと言われても違和感がないなと思ったのですが、それはその姿勢にあったんですね。あとアルバムを聴いて一番驚いたことが、15年前に作られた音と、現在の高橋さんの曲の作り方が、もしかしたらあまり変わっていないのではないか?と感じたことなんです。
高橋 「今回マスタリングをしてくれた Small Circle of Friends の東里起さんが、実は同じようなことを言っていたんです。東さんとは2002年あたりからのお付き合いなんですが、東さんから『高橋さんの今のスタイルは実は15年前にあったんですね』と。馬鹿の一つ覚えなのかもしれないですねーなんて話をしていたんですよ」
──GOMES THE HITMANの山田稔明さんとも以前似たような話をしたことがあるんです。山田さんの場合はバンドからソロ活動ということで、変わっている部分も多いのですが曲作りやスタンスにおいて変わらないものもずっと持っていて、シンガーソングライターの方はやはり個性が勝負するポイントだから、そこがきちんと滲み出ているのだろうなと。
高橋 「一貫していると思います、何かしら。それが面白いものかつまらないものかというのはありますけど。一貫したものがあるから、つまみ食い的にその時々に立ち寄ってくれた人が離れても、また戻ってきてもらえると思うんですよ。『そこにある港』だったり『(銀河鉄道999の)メーテル』みたいな。基本的には曲を書いて演奏する、といったことに尽きると思うんですけどね。言葉尻だけが、表現において違うと思うんですけど、歌詞とメロディさえも特別なものとしては考えていないんだけど・・・曲がありますよね、それに対して楽器やアレンジというのは演出みたいなもので、必要に応じてやっている、という感じなんです。だから流行っているものに寄せるといった発想がそもそもないんですよ。でも僕もリスナーとして相当昔の歌から現代までかなりの量を聴いているから、特定のジャンルや傾向を切り取るといったことをしていないんですよね」
──以前高橋さんのマネージャーが、高橋さんの歌は形容が難しいと話されていたのを思い出しました。確かに知人に紹介するときにはライヴを見て!というしかないというか。よくある○○系といった代名詞となる言葉がなかなか見つからないんです。もちろん音楽的にはアフロファンクもあるし、ビートルズもあるし、それこそ前回話をしたジョニ・ミッチェルの片鱗も見えますけど、それらの片鱗を際立たせても高橋さんの音楽の魅力は伝わらないし、意味もあまりないので。
高橋 「メジャー在籍時も同じようなことがあったんですよ。宣伝の人もどうやって形容したらわからない、といった。ただセカンド、サードアルバムのときに『ダークなイメージ』で特化して打ち出していこうというのがあって、それが功を奏して広がったんですけどね。でも形容が難しいというのは今でもあると思いますね」
──事前にいただいた資料で「星の終わりに」という歌については「自分にしては珍しく、この曲は自分の素直な想いや死生観を綴ったものかもしれない。他にはない特別な曲だと思う」とありましたが?
高橋 「自分の中で、音楽ってのは聴いてくれた人のものだという感覚があって、そこに対して俺はこう思っているんです、というのはないんですよ。歌詞にも自分の価値観や哲学を反映することはあまりないんです。でもこの曲はそれとは違って・・・歌詞に<<新しい人達が君の役目を引き継ぐように>>とありますが、自分も含めて今生きているほとんどの人は何かを成し遂げられずに死ぬと思うんですね。でもそれが何かの礎になっていて、必ずいつか遠い未来に 託されているという、確信があるんですよ。だからこのまま今の規模で僕の音楽が終わったとしても、それによって何か先の人だったり聴いた人に何か残っていくものだと、理屈じゃなくて体のあらゆるところで感じるんですよ。だからこの曲は特別なんですよね」
──また2曲目の「Les Vacances」の歌詞に出てくる「君」を読んで・・・特別な意味などはありますか?
高橋 「ないですね。これまで具体的な恋愛ソングは書いたことがないんですよ。この曲に歌詞で登場する君も、対象が一人ではなくて多くの君、というところが多いんです。でもいつか誰か特定の人を考えた曲を作ってみたいとは思いますけどね」
──歌詞について、もう少し。前作では政治面や世の中に対するテーゼの要素が表れていたのですが、今回の作品には見当たらなかったんですよ。もちろん15年前の作品だし、当時と今では高橋さん自身も年齢を重ねられて世間に対する見方も違うと思うのですが。
高橋 「前作ではその点はすごく意識はしていましたね。誰もが言うと思いますけど、やっぱり地震があって、その後の閉塞感、税金だけ上がってあまりいいことがないといった世の中に対して、ちょっと違うんじゃないのかな?と思ったんですよ」
──それを曲にして言うのって勇気がいると思うのですが、葛藤はありませんでしたか?
高橋 「逆にその、あまりに具体的な事象を描くことですごくフィクションになったいい例だったと思うんです。普通歌詞にしないようなことを入れることで・・・それは すごく良かったと思いますね。どこかの国の話でしょ?、といった印象になったし、未だにライヴでも面白いですしね」