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selected by サトウヨシヤ
──オススメの名盤を3枚教えてください。
はじめまして、サトウヨシヤと申します。これからポップス名盤3枚を選ぶわけなんですが、その前に僕がポップスというものを果たしてわかっているのか?というところから始めないといけません。言葉主体で楽器は効果音程度、あまりメロディというものを重要視してこなかった僕は、世間一般のいわゆるポップスという世界から少し離れていたところにいました。そんな僕がたどり着いたのは『あ~こんなポップなのオレもやりてぇなぁ、出来ねぇけど、、、』みたいな音楽。実際に今でも聴くと胸がトキメキ、思わず口ずさんでしまう音楽、しかも出来ないなりに自分にも多大な影響を与えてくれたアルバム。ベタかもしれませんが、そんな3枚を選んでみました。
1枚目
1991/03/21 release
※オリジナルは1981年の作品 |
A LONG VACATION 大滝詠一
1981年発売。言わずと知れた大瀧先生ロンバケである。当時中学生だった僕はまだ歌謡曲しか知らず、初めて買ったアルバムは『イクエちゃんファースト』と『太陽に吠えろサントラ』と言うミュージシャン履歴的に大変残念な少年だった。いまでもトラウマになっている程だ。音楽を聴きたいが何を聴いていいかわからない。同年代のイケテルヤツだとすでにYMOやストーンズ、パンクミュージック辺りを聴いていたのだがどうも良さがわからない。そこでこの大ヒットアルバムに目をつけた訳だ。
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まずジャケットが大変イカしている。薄暗い四畳半に飾っておけばそこはもう南国だ。レコードに針を落とすと一曲目のイントロから衝撃が走る。そう 『君は天然色』。音楽とはここまで人の心を揺さぶるものなのか。なんてアッパーなイントロだろう。小躍りが良く似合う。そして唄はダウナーに押さえられた 鼻にかかるボイス。歌詞も洒落てる。
しかし残念な僕はここから良質なポップ路線に走らなかった。歌謡曲の延長と捉えてしまったのだ。心底残念である。ちなみに山下達郎近辺の音楽も買っ て聴いたが同じ判断を下してしまった。ここで違いのわかるイケテルヤツは今やポップマエストロになっていたことだろう。僕はこのただ流行りのちょっとお洒 落な歌謡曲を激しく聴いてはいたが自分の音楽には反映させなかったのだ。
そしてこの頃からギターを覚え卒業式に家で卒業ライブをやり(笑)高校から本格的にバンドを始めライブハウスに出入りし、いろんなミュージシャンと 音楽情報交換をしているうちにこのアルバムの本当の偉大さがわかってきた。歌謡曲と、湿ったフォークしか無い時代の突破を図った洋楽指向ミュージシャン達 の心意気がやっと理解出来たのだ。それ以来僕は洋楽をむさぼり聴き続け、同時に(それ以上に)言葉の研究をし続けている。
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2枚目
THE GREATEST LIVING ENGLISHMAN Martin Newell(マーティン・ニューウェル)
1993年発売。マーティン・ニューウェルは詩人でもある。しかもXTCのアンディ・パートリッジがプロデュース。言葉主体で洋楽はビートルズスタートの僕にとってこのアルバムは買いであった。思えば英国とは言葉でも音楽でも最初に影響された国。18歳の頃、英国の小説に感化された僕は学園祭的な曲を全て捨て一から曲を作り始めた。人体実験のバイトをして最初に自分のお金で行った海外も英国ロンドンである。 |
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残念ながらマーティン・ニューウェルの他のアルバムは僕的には良くない。アンディ・パートリッジのプロデュース能力がマーティン・ニューウェルの隠れた才 能を引き出し、アンディ感を太く注入した結果、この奇跡の一枚となった。英国特有のかかり過ぎのドラムコンプ、うねるコーラスワーク、エラの張った顔立ち 特有のジョンレノンライクなちょっと鼻にかかった様なボイス。結局この辺の声質が好きなんだろう。
オーディオ的に最高の音とは言えないがそんなこと関係ない。ラジカセから聞こえてくる音楽に震えた世代に音質は関係ない。そりゃ良ければそれに超したこと は無いが、まずは楽曲である。そしてそれは制作中のマジックによって生まれる。相棒が変わっただけで劇的な化学変化が起こる。偶然が必然となり歴史に残っ てゆく。特に名盤と言われるものはその傾向が多大にある。それは歴史が証明しているはずだ。狙って作った音楽に名盤無し。人生に何度もある出会い頭の初期 衝動を見極めるアンテナを張り巡らす方が有効である。
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3枚目
2009/09/09 release ※オリジナルは1967年の作品
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Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band THE BEATLES(ザ・ビートルズ)
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しかし映画でも小説でもパイオニアとはそんなものであり、新しい作品を創造すると凡人が飛びつき消化され進化し3,40年も経つとその無から新しく作り上げた素晴らしい事(発明)が当たり前の世界になってしまう。これは仕方が無いのかな、一般的には。でももしあなたがロック、ポップスなミュージシャンを目指しているのなら聴くべき一枚。音楽に関わるいろんな発明の宝庫。詳しくはここじゃ書ききれないので自分で調べてみてください(笑)。
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──名盤との出合いで印象的なエピソードがあれば。
新しいヤツを友達と買い合うと朝まで飲みながら回し聴き、それが気に入れば気に入る程、夜が深くなるに連れ爆音になってゆき、非常に非常識な快楽になってゆく。次の朝二日酔いの耳で聴いたその音楽がまだ素晴らしいと感じる事が出来れば、それが僕等にとっての名盤であった。もうそんな聴き方してないけど(笑)。
──リスナーに向けて一言お願いします。
音楽は素晴らしい。たくさんアイテムがあるから枯渇する事がない。好きなアーティストなら売れてようが、ファンが自分だけだろうが関係ない。自分だけを満たしてくれればそれでオッケー。そんなものを好きになった自分を褒めてあげましょう。僕はレコーディングスタジオをやっているんですが、やはり制作には幾許かのお金がかかります。僕も含めミュージシャンはバカみたいに音楽に人生の大半の時間とエネルギーと、それに伴うお金をつぎ込んできました。だからせめて自分が好きになったアーティストの音楽は焼くんじゃなくて買ってあげてください。ライブにも行ってあげて下さい。グッズも買ってあげて下さい。次の作品を聴きたいならそうしてあげてください。その循環が崩れたら良質でマイノリティな音楽文化は消滅します。すぐそこです。
──ありがとうございました。
<作品情報>
目を閉じることを忘れてしまった/サトウヨシヤ 2008年3月8日発売 01. KINEORAMA 02. FAKE SUNSHINE 03. きれいなもの 04. 2月の革命 05. 夏 06. ジェットコースター 07. 流星のスピード 08. ネイティブフィッシュ 09. もうひとつの夏
>>>iTUNESで作品を見る
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(サトウ ヨシヤ)
1991年CROWNよりミニアルバム「STOUT,,,(with Caramel Cream)」でデビュー。沈黙の90年代前半をバンド「the zulu」でディープに駆け抜けた後も「NON-POLY」(サウンドエンジニア&ミュージシャンの杉山オサムとのユニット)やソロ「サトウヨシヤ」など一貫して「映像が見えるような言葉と音」を常に考えてきた、基本ミュージシャン。ひとつの曲が一編の映画のように感じてもらえるような言葉を、音を使いオブラートに包んではリアルに投げかける反復の連続で表現。04年には坂本龍一が率いた復活第1弾コンピレーションアルバム「GUT +1」や映画ROCKERSの劇中歌、サウンドトラックに参加。これまでに10枚の作品を発表・リリースしている。最新作は08年にリリースしたソロアルバム「目を閉じることを忘れてしまった」。ライヴも不定期ではあるが継続して行っているほか(昨年12月のライヴレポート)、近年は映像制作なども手がけている。
掲載日:2012年3月16日
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