──冒頭にもありましたが、真城さんはじめヒックスヴィルのメンバーは数多くのバンドのサポートをしていらっしゃいます。自分のバンドもやりながらこれだけ多くのサポートをされるのは何故なのですか?
真城 「ありがたいことにお話をいただけるんですよね。もちろん自分たちのバンドだけでやっていく人達もいるのですが、たまたま私たちの周りには自然と自分のバンドをやりながらサポートもやるミュージシャンが多いんです。例えばノーナ・リーヴスもそうですしね。メインヴォーカルの西寺君が“バンドメンバーが他で色々な人と活動をしていくのはすごく嬉しいことだ”と以前話していたんですよ。西寺君自身も楽曲提供やプロデュースなどで活躍していますしね。なかにはそういうことを嫌がるバンドもあると思うんですけど、私たちは最初からそのようなスタイルでやってきたし、そうやってつながりのある人たちとは、10年20年と一緒に活動することが多いんですよね」
──ヒックスヴィルというバンドの側面だけ見ると気づかなかったのですが、今日のお話を伺って、音楽家としてのメンバーお一人ずつを考えたら理解できました。
真城 「あとはやっぱり周りのミュージシャン仲間のおかげというのもあります。例えばオリジナル・ラブや小沢君の存在が大きいですね。オリジナル・ラブは私が長年サポートをしていて、私がやらなくなったころから木暮さんがサポートをするようになって、一昨年からは二人で一緒にサポートするようになりました。小沢君とも何十年という付き合いで、四年前に久しぶりに彼が表に出るようになってからまたサポートさせていただくようになりましたし、今回の『WELCOME BACK』を発売するタイミングで『超LIFE』という小沢君に関連した映像作品も発売されたりと何かと不思議な縁があるんです。この映像作品にはヒックスヴィルのメンバーが三人とも関わらせていただきましたしね」
──小沢さんについて僕はフォロワーで四年前まではCDの音しか聴いたことがなかったものですから、四年前、一昨年のコンサートは本当に感激しました。一曲目、暗闇の中から「流れ星ビバップ」が流れてきたときには本当に驚いたんです。
真城 「あの演出も言ったら単に明かりがついていないだけの演出なんですよね。お金をかけて何かがプラスされた演出ならわかるんですけど、単に明かりをつけないだけでみんなを湧かせることができるというのは、さすが小沢君だなと。演奏メンバーは大変そうでしたけど(笑)」
──サポートをされるときと、フロントマンとしてステージに立たれるとき、どのような違いをお持ちでしょうか?
真城 「それは全く違いますね。サポートするときは絶対に緊張しないんですけど、自分が前に立つときはとても緊張するんです。他の方を支えているときって自分が緊張している場合ではないですよね(笑)。もともとロッテンハッツでコーラス担当からバンドをやりはじめたということもありますし…。ただヒックスヴィルをスタートするにあたり“あなたがメインヴォーカルだから”と言われたときには悩みました。“自分の歌って何だろう?”と、これは今でもずっと考え続けています。バンドでは自分の歌もヒックスヴィルの要素の一つであるわけで、過去の3枚のアルバムのときにかなり葛藤していたんです。それこそ色々な“歌い方”にチャレンジをしました…力強く歌ってみたり、可愛く歌ってみたり…その後15年経って経験を重ねていくうちに“自分の歌って何だろう?”ということではなくて“楽曲それぞれに対する自分があるだけ”ということに気が付いたんですよ。だから今回のアルバムでは歌うことに迷いはなかったんですよね」
──今年でバンド結成20周年になりますが、歌うことについての答えは見つけられたのでしょうか?
真城 「いやいや、それはまだですね。ただ、迷っているわけでもないんです。私の場合自分で曲を作っているわけではないから、どこかに向かっていたり何かを探しているわけではないんですよ。シンガーソングライターだったらまた違うことを話すと思いますけど」
──このような聞き方が適切かわからないのですが…なぜ歌い続けてこられたのでしょうか?
真城 「何故でしょうね…これしかやれることがないからですね、きっと。私は他には何もできないんです。もともと単に音楽が好きだっただけで、それが運よく仕事になってこれまでやってこれたから。特に他に興味も才能も趣味もないですし」
──真城さんは歌うことが好きなのですか? それとも歌っているところを見てもらうのが好きなのでしょうか?
真城 「“見てもらうのが好き”というのはないですね。歌というかバンドで誰かと演奏するときに起こる、“何か”が好きなだけなんです。例えばヒックスヴィルはいわゆる仲良しバンドとも違ってMCでいつも話している通りで(笑)。だけどライヴのときのうまくいったりする瞬間、シンクロする瞬間…それは一体感というのか…昔聴いたあのレコードの感じが蘇ってくる、といった“何か”が好きなんですよね。その感じを求めているだけなんですね。メインでもサポートでもそこは同じです」
──それであれば、自分のバンドを辞めてサポートミュージシャンに徹するという選択肢もあったと思うのですが?
真城 「確かにそういう方もいらっしゃいますよね。何故バンドを辞めなかったのか…ヒックスヴィルは、たくさんファンがいるわけではないんですけど、音楽好きな人が好きでいてくれているっていう自負があって、その人たちを裏切ることができないという気持ちだけですね。長年、こんなにのんびり活動しているバンドを常に支えてくれて…ヒックスヴィルのファンは他のアーティストのライヴもたくさん見ていて、洋楽邦楽問わず聴いている音楽ファンの方がたくさんいて、それがありがたいだけで。その人たちがライヴ中ちょっと嬉しそうな顔をしてくれると…喜びはそこに尽きますね」
──僕は2013年に行われたイベント、マシロックでの真城さんの発言を未だに覚えているんです。確か「ちょっとセンスのある音楽をずっとやって来ていて、それを好きな人がたくさん集まってくれて嬉しい」と話されていました。
真城 「私の周りにいるミュージシャンは、先輩後輩問わず才能ある人が多くて、尊敬しているんですよ。何故ならみんなちゃんと続けているんですよね、長くバンドを。バンドは続けるのが大変で…バンドってたくさん誕生しては解散しているじゃないですか? その中でも私の周りには永く続けているアーティストが多くて、そういう人たちに支えられているので、そこが一番良かったなと思える部分ですね。あと仕事だったら何でもやる人っているじゃないですか? 私はそうではないんですよ。また幸いにも変な仕事が来たこともほとんどありませんでした。例えばコーラスの仕事だったら、ちゃんと自分の居場所を作ってくれる人たちとやってくることができたんです」
──ノーナ・リーヴス、キリンジ、堂島孝平さん、小沢健二さん、レキシ…数えきれないですよね。
真城 「サポートでは自分のバンドじゃできないことができるし、色々なやり方を学べるのが面白いんです。あと変な言い方かもしれないけど、自分のバンドだけだったら多分いくつになってもできるんですよ、それなりのやり方で。でもサポートはボケたらできなくなるんですよね、きっと。だからサポートを続けている限りは、自分のバンドも続けることができるんじゃないかと思っているんですよね。今後どうやって音楽を続けていこうかと考えたときに、それが一つのやり方なんじゃないかなと思うんです」
──サポートの経験が、ご自身の音楽活動につながったこともあるのでは?
真城 「バンドでいうと、例えばこの前コラボさせてもらった[口づけキボンヌ]は一つのいい例かもしれないですね。多分昔だったらできなかったと思うんですけど、サポートを通じて色々な音楽ややり方を知ったことで、ここ数年色々なことができるようになったから」