──制作・レコーディングはどのように進められたのでしょうか?
嶋田 最近というか、近年ポプシの録音スタイルは、もっぱらファイルのやり取りが基本になっています。自分のパートは自宅なりスタジオなりで録音してくるという感じです。唯一、みんなでスタジオで録ったのがパーカッションで、ライブでもお世話になっている、GOMES THE HITMANの高橋結子さんにパーカッションをお願いして、スタジオに機材を持ちこんで録音しました。アコギは今回、ミネコフにマーチンのアコギをお借りして、僕の自宅で録音しました。
藤島 最近のレコーディングは専ら個人作業ですが、今回も同様で。
けっちゃん(高橋結子)のパーカッションを録った時&シマッチ(嶋田修)がうちに来て一緒に仮歌&仮アコギを録った時以来、それきりこのレコーディングでは誰とも会っていません(笑)。
だけど、今回の曲はこのレコーディング体制がばっちりマッチしていたと思います。
平田 スタジオではけっちゃんに仮歌と仮ギターの入った音源を聴いてもらいながらパーカッションとドラムをプレイしてもらいました。その後にすぐシマッチのアコギを録音しまして、それを僕が持ち帰って自宅でベースを重ねました。出来たオケを藤島に送って歌を入れてもらい、そのヴォーカルのデータのみを送り返してもらいました。今度はそれをラフ・ミックスしたものをシマッチに送ってコーラスを入れてもらい、同様にデータを送ってもらうというよくある現代風なレコーディング方法です。
意外かもしれませんが、実際に3人で集まったことは無くてタスキを受け取って次に繋げるマラソンのようなレコーディングでした。今回はミックスは僕が担当しまして、一人で勝手にミックスしたものをメンバーに送って意見やリクエストなどに応えつつ仕上げて行く感じでしたね。
──キャロル・キングのアルバム『Tapestry(つづれおり)』に収録されている原曲はピアノがメインの構成でしたが、今回ギターが中心のアコースティックなアプローチで作られていますよね。どちらかというとジェイムス・テイラー盤に近いアレンジのようですが・・・聴くとジェイムスの淡々とした歌とは一味も二味も違ったポプシクルらしいオリジナリティある作品に仕上がっています。カヴァーするにあたりどのようなことを考えて、そしてポプシらしさをどこに求めていったのでしょうか?
嶋田 まぁ、この三人だと自然にアコギのアレンジになってくるわけですが、アコギのアレンジを考えるときには、何も参考にせずに考えて、ピロピロ弾いてるうちに出来た感じです。
後からコーラス録るときに、JTバージョンを少し参考にさせていただきましたが...なので、JTバージョンとも違ったポプシ風な感じになったと思います。コーラスはすごく難しかったです。自分の音域と出したい音との戦いでした。
平田 基本的にはギター、ベース、ヴォーカルの三人組なので、自然とライブではアコギでやる感じになりまして、サウンド・プロダクションはジェイムス・テイラーのそれに近いものになりました。そうなったらジェイムス・テイラーが好きなけっちゃんに叩いてもらうのは、僕らにとっては自然な流れで。思った通りにいなたくてフレンドリーな雰囲気を演出してくれました。そしてポプシクルらしさっていうのは、やはり絶対的な歌の存在にあると思っているので、そこはもう藤島にたっぷり歌い上げてもらったという感じです。
藤島 パーカッションを入れたいというのは私の意見でした。
今回に関しては、ライブで何回かやっていた曲だったので、それをそのままで録りたいということだけでした。
奇をてらうアレンジをするのではなく、この曲に素直に向き合い、気持ちよくそれを音にする。。。
そしたらポプシらしさは後からついてくるんじゃないかと。
イメージを描かず、素直に、丁寧に、この歌を、この歌詞を歌う事に集中しました。
──特にイントロや間奏のアコースティック・ギターのあたたかみのある音が印象的でした。
嶋田 やはり一つはアコギがマーチンという点でしょうね。
煌びやかな音色ですが、楽器の経年による、いい感じの枯れ具合いが弾いててなんとも気持ちよかったです。
さっきも言いましたが、楽曲のアコギアレンジはあえてJTバージョン(原曲)は
聴かずにアプローチしたのが、僕らしさが出て結果良かったんじゃないかと思いました。
──嶋田さんの音を聞かれていかがでした?
平田 レコーディングではシマッチと二人でマイキングなどあれこれやりながら録ったので、その狙いはしっかり反映されていると思います。シマッチの優しい人柄がサウンドに現れていてとてもイイ雰囲気ですね。
藤島 仮アコギはうちで録音したのですが、本チャンは彼の自宅で録ったようで、彼も私と同じでホームレコーディング派(笑)、仕上がりは格段違いました。
ああ、やっぱり自宅の方がリラックスして、いいテイクが録れるんだな、と。
あのイントロのおかげで、グッと一気にこの歌の世界に入っていけたのです。
グッジョブ、シマッチ!
──そして何といってもヴォーカル、歌の力強さには驚きました。歌い方、気持ちのこめかたなどで意識されたことはありますか?また藤島さんの歌い方もデビューの頃の軽やかでポップな印象から、力強さとあたたかみ、ソウルフルな方向へと変化してきているように感じます。
藤島 デビューの頃から変化してきている事に関しては、もう15年も経っているので、年を重ねて外見も内面も変化するように、歌も変化するのは自然のことかと。
勿論、変化しないことに重きを置くミュージシャンもいらっしゃると思いますが。
そうは言っても、以前、確かに転機というものはありました。
ネオアコ、スウェディッシュポップの枠の中に収まりきれない自分の歌に苦悩したことがあったけど、そんな時、パーカッションのけっちゃんが言ってくれたのは、「もっともっとねちっこく歌っちゃえばいいんだよ。そっちで自分の歌を極めた方がかっこいいじゃん!」みたいな。
なんだかすっと胸のつかえが取れた気がして、それからは何かになろうとして歌うことをやめた様な気がします。
結構前の話なんですけどね(笑)
けっちゃん、こんなこと言ってくれた事、覚えてるかなあ?(笑)
──お二人はどのように感じられました?
嶋田 いやもう、何も言うことがないくらい圧巻でしたね。彼女も思い入れのある曲なので、今回は特に”念”を感じました。
平田 藤島の歌は今が一番かっこいいです。神がかった歌ですよ。
──この曲で特に好きなフレーズや歌詞があったら教えてください。
藤島 歌詞全般通して、ずっと同じ事を言ってるんですよね。
「辛い時には呼んで。いつだってすぐにあなたのそばに行くよ。私はあなたの友達だから。」
辛い時に傍にいてくれる友達の存在。友達の一言。
そうである事に感謝し、自分もそうでありたいと願います。