──HARCOの指向としては一貫してると私は思ってて。コア時代は確かにソングライターとして集中して向き合った結果がいいカタチで作品になったと思うんですけれど、今の方がスタンダードなものを作るんだ、という意識、気概を感じます。
HARCO 「意識とかそういうのはわからないんですけど、ただ単にそういうスタンダードなポップスが好きなだけって感じなんですよね。MORって言葉があるじゃないですか。ミドル・オブ・ザ・ロード。その感覚が好きなんですよ」
──ミドル・オブ・ザ・ロード系というのはある時期のアメリカ西海岸のポップスには確かにありましたよね。でも、言葉本来の意味は中庸、中間。ともすれば、その言葉は、どっちつかず、中途半端というように受け止められてしまう恐れもありませんか?
HARCO 「ああ、そうかもしれない。でも、例えば僕が好きなジミー・ウェッブとか、まさにミドル・オブ・ザ・ロード系じゃないですか。誰かに曲を提供するソングライターとしての顔も持っていて、自分でも作品を作る。で、特有の聴きやすさとかメロディの良さを持っていて、時代を問わないような…。まあ、僕は誰かに曲提供はあまりしないですけど、職業作家性の強いスタンスの音楽家でいたいという感じなんですよね。そこは本当に昔からあまり変わっていないかもしれないです」
──例えば、昨年秋に子供が生まれましたよね。父親になったという感覚が、そうしたポップスに向き合う姿勢を変化させたりしましたか?
HARCO 「ああ、どうだろうな~。そういうのはあまり関係ないかもしれないな~。HARCOはHARCOっていう別の人格があって、結婚とか子供とかそういうのが関係してくるってことはないと思いますね」
──でも、「星に耳を澄ませば」からはお子さんの声が聞こえてきますね。
HARCO 「あ~、あれですね(笑)。でも、どうなんですかねえ、自分としてはポップスに向き合う感覚が変わるってことはないんですよね」
──ええ、結婚してもフレッシュさが常にあってきたし、そもそも青木くんの曲は常にどこか少年っぽさが魅力になっています。例えば今回のアルバムだと「Snow on the Pasta」「星に耳を澄ませば」「南極大陸」あたりは歌詞も含めて“男の子目線”って印象で。
HARCO 「あ、その3曲はどれも作った時期が古いんですよ。[Snow~]は前のアルバムを作っていた時のもので、[星に~]は4年くらい前、[南極~]もずいぶん前です。だから、まあ、少年ぽいのはその通りではあるんですけども…」
──ただ、私はそういう曲よりも、例えば「カメラは嘘つかない」や、共作曲ですが「口笛は春の雨」や「電話をかけたら」のような曲の方が、キャリア20年以上、40歳近くになった今の青木くんが自然に反映されたまさしくミドル・オブ・ザ・ポップスと思うんです。
HARCO 「ああ、それは嬉しいです。僕も[カメラ~]は好きですね。やっぱり、スランプがあって、それを乗り越えるきっかけになった曲っていうのもありますし。[口笛~]は、堀込泰行さんと杉瀬陽子さんとの共作なんですけど、やっぱり泰行さんはすごい、さすがだと思いましたね。リレー形式で3人が順番に作ったんですよ、この曲。で、泰行さん、いきなり“ところがどういうわけか…”って歌い出し。なかなかできないですよね。流れとしては、メールでこの最初のフレーズの歌詞が泰行さんから届いて、“あ、いいですね~。じゃあ、この後、杉瀬さんよろしくお願いします”という感じで、作っていきました。この曲は元々『HARCOの春フェス2014』に出演した3人で作ったんですけれど、ある程度ちゃんとレコーディングをすることは視野に入れてたんです。どういう形でリリースするかは決めてなかったんですけど、とにかくあまり難しく考えずにわかりやすいポップスを作りたいなって、割とそんな感じで気楽に作れました。あと、これはイベント当日の3日前に完成したんですけど、当日は雨になることが予想されていたんで、雨を歌詞のテーマにしよう、で、ミドル・テンポで…くらいのことくらいしか考えていませんでしたね。この曲の目玉は、ヒックスヴィルの中森(泰弘)さんのギターなんですよ。レコーディングの時にギターとアンプだけ持ってきてもらって」