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『サイダーの庭』 スカート 2014年6月4日発売 ¥1,800円(税別) カチュカ・サウンズ/CD
<収録曲> 1. さかさまとガラクタ 2. アポロ 3. 都市の呪文 4. はなればなれ 5. サイダーの庭 6. ラジオのように 7. 古い写真 8. すみか
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text by 編集部T
スカートの新しい全国流通盤アルバム『サイダーの庭』が満を持してリリースされた。前作『ひみつ』から約1年3ヶ月ぶりのリリースということもあって、リスナーも発売を心待ちにしていたことだろう。本当に「待望のリリース」という言葉がぴったりだ。
今作は、アルバムタイトルからも察しがつくかもしれないが、全編を通して爽快感があり、風通しが非常に良い。前作『ひみつ』と比べると、より洗練されて澄み切ったバンドサウンドに、夢見心地なんだけど日常をふと匂わす歌詞のバランスが絶妙だ。
1曲目『さかさまとガラクタ』冒頭の、堰を切るかようにドッとかき鳴らされる音の洪水のすき間から、ヴォーカル澤部の持つ伸びやかで朗々とした歌声がすっと突き抜けてくる。そんな澤部の歌声を聴いた瞬間に、「これだ…!これが私たちの待っていたスカートだ!」と、期待で胸は高鳴り、今作に確かな手応えを感じた。スカートは、ギターヴォーカルの澤部によるソングライティング能力と、抜けがよく、のびのびとしていて、張りのある天性の美声で成り立っているといっても過言ではない。
この、ポーンと突き抜けてくる歌声は、まるでブランコに乗っている時に遠心力によって身を投げ出されてしまいそうになる「ここではないどこかへ行ってしまいそう!」と思うあの感覚に似ていて、歌声に耳を傾けているだけで、この現実からスカートが描き出す非日常のどこかへ連れ出してくれるのではないか?と、自然と澤部への期待に身を寄せたくなる。
歌詞も、現実において目の前で起きている事実と、澤部が思い浮かべているであろう、現実を見据えつつもどこか哀愁を漂わせる現実味をおびた心象風景がうまいこと合致しているため、より私たちとリンクしやすく、歌詞が描き出す情景を意識の中へと落とし込みやすい。
その手助けをしているのは、西村ツチカによるブックレットの全ページに渡るイラストである。
今回のイラストは、『サイダーの庭』というタイトルから連想される「夏」「清涼感」「風通しの良さ」というキーワードに加え、誰しもが一度は経験したことがあるであろう、個人的にもつノスタルジックな想い出が走馬灯のように駆け巡る状況をわかりやすく絵にし、どこにでもある普遍的な「想い出」という記号に変えた。だから、私たちリスナーの心へ直接訴えかけてくるのだ。
今作『サイダーの庭』は、もうすぐ終わってしまう夏休みのようなアルバムだ。ずっと楽しい夢から覚めたくなくて、甘美な日々に浸っていたい。だけど、サイダーを放っておくと炭酸が抜けてだらしなくなるように、夏休みだっていつか終わりが来てしまう。まとまらない想いにもいつかお別れを言わなくちゃいけないなと思っているうちに、気づけば現実へと帰って、目が覚める。夢みたいなアルバムも終わってしまう、そうやって日常へと帰っていく、そんな一枚だった。
スカート/澤部 渡 プロフィール
どこか影を持ちながらも清涼感のあるソングライティングとバンドアンサンブルで職業性別年齢問わず評判を集める不健康ポップバンド。澤部渡(スカート/ヴォーカル/ギター)を中心にして、佐久間裕太(昆虫キッズ/ドラムス)、清水瑶志郎(マンタ・レイ・バレエ/ベース)、佐藤優介(カメラ=万年筆/キーボード)をサポートメンバーとして迎え活動を行っている。主な発表作品に『エス・オー・エス』(2010年)『ストーリー』(2011年)『ひみつ』(2013年)『サイダーの庭』(2014年)がある。
■主な作品
-エス・オー・エス (KCZK-001) CD 2010年12月15日発売
-ストーリー (KCZK-002) CD 2011年12月15日発売
-消失点 (MYRD32) LP 2012年6月20日発売
-月光密造の夜 Live At ShibuyaWWW CD-R 2012年9月2日発売
-ひみつ (KCZK-005) CD 2013年3月3日発売
-サイダーの庭 (KCZK-010) CD 2014年6月4日発売
■参加作品
昆虫キッズ『My Final Fantasy』(パーカッション他)/『text』(サックス・ウーリッツァー他)、豊田道倫with昆虫キッズ『ABCD』(タンバリン)、川本真琴『フェアリーチューンズ♡』(サックス)、yes, mama ok?『CEO -10th Anniversary Deluxe Edition-』(ライナーノーツ)、caméra-stylo『CUL-DE-SUX』(ギター)他
関連リンク
掲載日 2014年6月24日