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高橋徹也『大統領夫人と棺』発売記念特集

高橋徹也、この名前を聞いて「タカテツ」の愛称が思い浮かぶコアなファンもいれば、久しぶりに聞いたんだけど最近の活動はさっぱり、だけどメジャー・デビュー時の『Popular Music Album』や『夜に生きるもの』はよく聴いていたよ、と昔を振り返るリスナーもいるだろう。でもそれは仕方のないことで今年3月にライヴ会場にて先行発売された『大統領夫人と棺』も、前作の『ある種の熱』以降実に7年半ぶりのスタジオ・アルバム作品であるし、2000年代に入り活動をインディーズ・シーンに移してからは彼自身の実直で不器用な性格もあるのだろう、表立って発信をするのが決して得意なアーティストではなかったように思う。

 

とはいえ彼は決して音楽活動を止めていたわけではなく、'05年まではコンスタントに作品を発表していたし、それ以降も活動形態を変えながらストイックに自分の作りたい音楽を探求し続けてきた。この間、デビュー時に強く感じたポピュラリティは少しずつ影を潜めていったものの、彼が得意とする物語性のある世界観は更に深化を帯び、何よりもシンガーソングライターとしての、アーティストとしての生きる力、底力がついたのがこの数年の活動の成果であり、それを如何なく発揮したのが本作品である。

 

今回のインタヴューでは新作もさることながら、この7年半もの間、彼が何を考えて音楽と向き合ってきたのか、じっくりお話を伺うことができた。それはリスナー、ファンにとっての純粋な興味を満たすだけではなく、若手ミュージシャンがこれから末永く音楽活動を続ける上での羅針盤にもなるはずだ。リスナーだけではなく音楽活動に取り組んでいる全ての人に読んでもらえたら幸いである。

 

なお今回の特集では、インタヴューの他にディスク・レヴュー(再掲載)や高橋さんご本人よる楽曲解説も掲載しているので、合わせて楽しんでほしい。この特集を通じて高橋さんへの理解が深まってくれたらこんなに嬉しいことはない。

 

 

企画・構成 黒須 誠/編集部

撮影 山崎ゆり

ディスク・レヴュー 渡辺裕也

 

一遍の映画とか短編みたいな形で登場人物や背景を設定して、そこに感情を投影していくのがわりと得意なんです。

──新作『大統領夫人と棺』のリリースおめでとうございます。月並みな質問からで申し訳ありませんが(笑)、今回アルバムを出そうとされたのは何故でしょうか?

 

高橋 「最初はシングルを作ろうと思ってスタートしたんです。で、どうせだったらもうちょっと録ろうってことでやっていったんですよ。やっぱりライヴだけをやっていても、何か音源を出していかないと良くないなっていう想いが去年くらいから出てきて・・・出すということ、そのものが大事だなあと思ったのがきっかけですね」

 

──今回のアルバムのテーマでもある「寓話と現実を行き来するような曲を作ろう」と思われたのが何故なのかすごく気になっていました。

 

高橋 「もともと一遍の映画とか短編みたいな形で登場人物や背景を設定して、そこに感情を投影していくというような、みんなが入り込めるような器を作るような作曲がわりと得意というか、やっていて一番楽なんですよ。一方、普通に税金を払っている自分というものもいるから、そいつがどっかで出て来られないものなのか? というのもずっと思っていて・・・税金結構高いし不平不満もあって、その両方を。今回の歌で使ったワードは凄く具体的なんですよね、低所得者団体とか・・・自分でも歌詞として使ったことがないようなことを、その意味しかないような言葉を使って物語を作るということにトライしたかったんですよね」

 

──創った世界と現実とのリンク感?

 

高橋 「そうですね、そこは凄く難しいところだと思っているんですよ。でもたまにあるんです“夕方に近所のスーパーに行っているときの俺”みたいな気分の曲が。今回のアルバムでいうとラストの曲の<<帰り道の途中>>とか。J-POP的に言うならば“等身大ソング”。そういうのが自分としてはわりかしすごく難しいんですよ。自分の中の奥の奥にいてなかなか出てこないんですね。それを物語の中に投影したりするとすごく出てくるんですけど、そのまま言おうとするとなかなか出てこなくて・・・だから今回はすごく稀ですよね」

 

──等身大の話については出てこないからというよりも、高橋さん自身が書きたくないというのがあるのかもしれないですね。

 

高橋 「そこはアンチテーゼから来ているんでしょうね。他にもやっている人がいっぱいいるから。それが長く10年20年とやってきて今のスタイルになったのかもしれないですね」

 

──等身大の話をやってから今のスタイルという話はよくあると思うんですけど、最初から今のスタイルを選んだのが興味深いです(笑)。

 

高橋 「確かに!(笑)。なんなんでしょうね。でもいわゆる俳優さんのような“役柄になりきる”というのはすごく楽ですね。音楽の中でそれをやっているのかもしれない・・・自己投影して」

 

善悪を問わずにそこにはパワーを感じるんです。

──やっていないことをやろうとする・・・何かきっかけなどあったのですか?

 

高橋 「田原総一郎の番組「朝まで生テレビ」を朝まで見ちゃって何も救われない、みたいな(笑)。番組の中ですごく簡単に年収200万以下は貧困層というグラフを出して、貧困層が何%いて・・・という話をしていたんですよ。それを見たときに“いやちょっと待てよ”と。大体平均が400万位な話があって、“いや400万稼ぐって結構大変だぞ”と思って。その番組を見たのと“低所得者団体の怒号”というワードがあったから、それが今回のアルバムの始まりかもしれないです(笑)」

 

──今のお話に関連してタイトルトラックでもある「大統領夫人と棺」。社会性と物語性の狭間を行ったり来たりするところを目指されたようですが、この歌の主人公である彼女がナイフを手に持って最後どうしたのか、結論を明示されていないところが興味深かったです。

 

高橋 「結論は聴いてくれた方の想像力におまかせしたいのですが、ただ善悪を問わずそこにパワーを感じるんですよね。これはフィクションだからパワーを感じるとか言えることだと思うんですけどね。自分はジョジョの奇妙な冒険という漫画が好きで結構読んでいるんですが、あれも善悪を問わないみたいな(笑)、悪者が悪くないというか(笑)。なんかそういうのがあるのかもしれないですね。それを音楽で表現できたのが本作品なんだと思いますね」

 

──今回の作品を聴いて甘さが抜けた感じがしたんですよ。本質的には高橋さんの音楽はメロウだと思いますが。

 

高橋 「簡単に言えばちょっとシンプルになってきて、でもいわゆる年とってシンプルになったね、という感じではないと思っていますね」

 

──それは思います。すごい濃度があるというか。若い人って音圧やスピードで興奮するじゃないですか?でもこのアルバムではスロウな曲にこそすごい熱量を感じるんですが。

 

高橋 「2008年、2009年に椅子に座って食事ができるようなところでガット・ギターでやるという、ブラジル系のミュージシャンがやるようなライヴを頻繁にやっていたんですけど、このままずっと座ったままやっていくのも疑問があって。俺はブラジル系ではないしそれもちょっとつまらないなって。それで今回のアルバムでは、エレクトリックやロックの要素を、特に上田禎さんのシンセに担ってもらって作業していったんですがそれが濃度につながっている気がしますね」

 

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