──震災といえば去年山田さんはNO NUKESのTシャツを作られていました。これまで日常に寄り添う音楽を中心にやられてきた山田さんが政治など世の中へのメッセージを発信したのがとても印象的でした。
山田 「音楽と人というのを考えたときに、歌詞の中で誰かに何かを伝えたいと思ったときに、自分の思いや考え方を押しつけるのは好きじゃなくて・・・でも原発に反対か?と言われたら「反対です」という立場を何らかの形で伝えたいと思ったというか、それ以上に黙っているほうが不自然だと思ったんです。僕の仲良くしている人達は原発反対だと思っていると信じていて。それで原発が必要だとか積極的に肯定する人というのは話が合わないんだろうなと考え込んでしまって・・・とはいえ難しい問題ではっきりと答えを出せる問題ではないとも思ってはいるんです。そんな折りにたまたま「愛のかたまり展」というイラストレーターさん達のNO NUKESの展示に誘われたので参加することにしたんです」
──HARCOさんも参加していましたよね。
山田 「そうですね。僕らはどっちかというとメインストリームではないところにいるから、立場は明確にしておいたほうがいいのかなと思ったんです。ただブログでその話をした後に、違和感を覚えたリスナーの方々もいらっしゃったみたいで・・・音楽にその話は持ってきて欲しくないという方もいるんだな、ということを知りました」
──あのとき坂本龍一さんやソウル・フラワー・ユニオンさんなど立場を明確に発信したミュージシャンもたくさんいらっしゃいました。
山田 「ただ僕の場合は原発反対の歌を歌うわけではないし、普通に暮らす中でそういう風に思っているというだけなので。でも暮らしているということは歌詞の中にも自然とにじみ出てくるとは思うんですけどね。僕の中では色々な作用があってそれがなかったら今回のアルバムにも入らなかったフレーズもあったりしますし」
──例えば?
山田 「「平凡な毎日の暮らし」は地震の前に作った曲なんですけど、地震が起きた後に歌ってみたらその解釈が変わってしまったんです。平凡な毎日の暮らしをのほほんと歌う曲だったのが、平凡な毎日を恋い焦がれる歌になってしまったんです」
──それは歌詞を変えたというわけではなく、同じ歌詞でも意味合いが変化してしまったということなのですか?
山田 「そうですね。ただ歌というのはもともと聴き手がどのように解釈するのかは自由ですしね。自分の中での見方が変わってしまったというだけなんですけど」
──以前のライヴで「一角獣と新しいホライズン」が教科書を参考に作られたと伺いました。
山田 「僕は昔から英語が好きなんです。それで学生時代の英語の教科書に「UNICORN」と「NEW HORIZON」というのがあって前々からこれらを組み合わせたら面白いんじゃないかと思っていたんですよ。だからこの曲はコンセプト・メイキングというか先にこういう歌を作ろうと思ってはじめたんですね。ただUNICORN、一角獣という言葉がなかなかうまく使えなくて詞にハマったときは気持ちよかったですね(笑)」
──反対にスルリと生まれた歌はありますか?
山田 「「予感」という曲がそうですね。最初にワンコーラスだけ作ったあとに旅行に行ったんですよ。気仙沼、陸前高田、仙台そして福島に。ボランティアとかではなくて単に被災地を見て回るといったものだったんですけど。それで東京に帰ってきたときに、なんだか心が熱を持っている感覚に襲われて・・・これは今歌を書いたほうがいいなと思ったら曲の続きが書けたんです。すごく不思議な感覚で・・・タイトルもなかったんですが、”恋の予感”という自分にとって新鮮なキーワードが出てきたので、これは「予感」がいいなと思ったんです」
──9曲目の「日向の猫」では、これまで各地で行われていた「声を集めるツアー」で全国のリスナーから集められた声が間奏でラララ・・・と収録されています。
山田 「『pilgrim』にも『home sweet home』でもおなじやり方で声を入れた歌があって凄く良かったので今回もやろうかなと。そしてそれにふさわしい曲があればと悩んでいたときに「日向の猫」という歌ができたので。これは簡単なメロディだからみんなにも歌ってもらいやすいと思ったんです。ここ数年の僕の活動というのが、ライヴに行ってみんなの聴いたことのない新曲を演奏して、後にCDになるというパターンだったので。やっぱりライヴに来てくれる人が一番のサポーターっていうか。その人達に最初に新しい曲を聴いてもらって、初めて聴く歌でもみんなが一緒に歌えると楽しい感じを提供したくて。それにライヴで“声を集めるために録音する”って話すとみんなも面白がるしね。それが結実したという感じですね」
──ライヴで新曲を出してお客さんと一緒にその曲を作り上げていって・・・山田さんにとってライヴの位置づけが非常に高まっているということなんですね。
山田 「そうですね」