──このアルバムはいつごろから作り始めたのですか?
行 「ここ一年ですね。曲が溜まってきたので、そろそろアルバムを出そうと思って今回リリースすることにしたんです。多めに作っておいた曲の中から選んでアルバムに入れました。最初に作ったのは[夜を泳ぐ]だったかな」
──制作にあたり、何か具体的にイメージされていたことはありますか?
行 「このバンドは何でもできるなって思ったので、リズムとベースラインに拘わりましたね。曲はわりとするりと作れた感じです。僕は少し暗い感じの曲が好きなんですけど、もう一人、鍵盤の奥野君も曲を作っているんですが、彼は対照的に煌びやかなサウンドが得意なんですよ。彼は現在のシティ・ポップの要素を表現することができるんです。僕はシティ・ポップというより70年代のニュー・ミュージックの世代なので、今流行っているおしゃれ感あるような曲は作れない(笑)。その違いが面白いんですけどね。今回のアルバムも転調や展開をほとんどしていないんです。学生の時はXTCや矢野顕子が好きで、そのころは転調こそ美学! だったんですけどね」
──1曲目のイントロ、ハイハット入ってフワッとしたシンセの音、そこにかぶさるヴォーカルがとても印象的でした。
行 「あのシンセのボワンっていうのは実は最初やり方がわからなくて、ベンダー使って手動でやっていたんですけど、シンセサイザーの説明書読んだらそういう設定ができることをあとで知って(笑)」
モミ 「最初は手動だったから、ライヴでも毎回タイミングが違っていて(笑)。今では安定しています」
行 「今はCDみたいに弾けるよね(笑)」
──レコーディング時のエピソードなどありますか?
モミ 「エピソードってほどでもないんですが、行さんがレコーディング時のタイムテーブルを作ったんですけど、他のメンバーが一人1曲あたり30分くらいなのに行さんだけ”ギター2時間”と書いてあって(笑)」
行 「僕はギタリストではないし、キーボーディストでもないんで・・・。楽器の演奏はあまり得意ではないんですよね。実は自分としては楽器は何でもよくて、バンドの中で存在価値があればいいなと思っているんです。普段はモナレコードを切り盛りしているから、曲のことを考えられるのって一日に一時間もないんですよ。その中でやっているので、練習する時間あったら先に曲を書くよっていう(笑)」
──「Hello It's Me」を聴いたときにユメオチの「さよならを教えて」を思い出したんです。イントロがよく似ていたんですよ。
行 「そうなんです。実はイントロが全く同じなんですよね(笑)。キック4つ踏んで裏にブラシっぽいの入れてアルペジオでやるというのが、死ぬほど好きなんですよ。だから次に出す曲にも似たような曲があるんですね。なので深読みしてもらうようなことはないです。でもある人に[点と線]という楽曲で、 <<これからのことなんて知らない>> という歌詞があって『これからのこと』ってユメオチのアルバムタイトルなんですけど、『とても意味深いことを歌っているよね』と言われたんです」
──私もその歌詞は気になったんですけど、今回のアルバムがあとに出されているので、それは関係ないと思いました。本作品がリリースされたのは(ユメオチが)解散したあとじゃないですか?
行 「でもこの曲そのものは解散前にシングルで発表しているので・・・でも何もないんですけどね(笑)」
──作品を聴いたときにメッセージ性が一切なかったように感じました。
行 「メッセージ性はないですね。詞を読んで、私もそうだよ、と共感してもらえたらいいなと思っています」
──詞について言えば、3曲目だけはモミさんが書かれているんですよね? 1曲だけ違うというのがあって例えば”ぼく”という言葉が出てこないんですよね。
モミ 「確かにないですね」
行 「そうですね。僕が詞を書くときは「ぼく」を普通に使うんですけどね」
──詞はどうやって作られたんですか?
モミ 「曲をキーボードの奥野君からもらって歌詞をよろしくと頼まれたんです。ただ歌メロが難しくて最初はとまどっちゃって。あと今まで歌詞は誰かと一緒に考えて書いたことはあったんですけど、100%自分で書いた歌詞は今回が初めてだったんです。だから書き方がわからなくて、まずはメロディに当てはまる言葉を探す、自分が歌うわけですから歌えるように、その言葉をたくさん探しました。特にAメロ出だしの <<知らない>> <<見えない>> といった言葉をずっと考えていましたね。電車の中で移動中に考えて作りました」
──電車の中? だから<<知らない街ですれ違ったの>> といった情景になったのでしょうか?
モミ 「うーん、どうなんでしょうね。曲を聴いたときに、東京、都会というイメージが強かったんです。私は福島生まれなんですけれどもメロディ、曲調が全ておしゃれで私とは真逆すぎるなあと感じたんです。自分と正反対なものを作ったという感じですね」
──東京に来られて何年目ですか?
モミ 「5年くらいですね。大学で上京してきたんですけど、最初は寂しかったんですよね。一人暮らしって憧れるけど実際は寂しかったというか。でも大学の友達にすごく恵まれて楽しかったし、バンドも始めて自分の居る場所が福島以外にもあるなと思えるようになりました。でも人ごみやザ・都会というのはちょっと苦手です」
──歌うときに何か意識されていることはありますか?例えば誰かの代弁者になった気持ちで歌いたいとか。
モミ 「歌を、歌詞をはっきりと伝えるようには意識していますね。誰かに伝えたいというよりも、自分の中で自分に言い聞かせるように歌っています。早口で歌う曲もないので、詞の意味も考えながら歌うイメージです」
──歌い手として憧れの歌手やバンドさんはいますか?
モミ 「私はもともと椎名林檎さんが大好きなんです。よく驚かれるんですけれども。声も好きですし、何よりも存在感がすごいなと。あの人しかいない、出せない個性があるところが好きですね」