黒沢健一 BANDING TOGETHER in Dreams Disc Review ディスクレビュー

                

『BANDING TOGETHER in Dreams』

黒沢健一

2013年6月12日発売 ¥3,000円(税込)/24F-04

24th Floor Records/Cloud Cuckoo Land inc./CD

 

<収録曲>

01. Return To Love

02. A Summer Song

03. So What?

04. Rock'n Roll Band

05. Many Things

06. The Moon & You

07. I'm In Love

08. Lay Your Hands

09. Dreams

10. Goodbye 

 

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Alone togetherからBanding Together in Dreamsの間に、黒沢健一の22年分の音楽が見えた。

text by 牧村 憲一

コンサートの終了後に僕はこう伝えた。「Rockn Rollが還ってきたのが、一番嬉しい!来年はもっともっと!」と。黒沢健一はRockn Rollそのものなのだから。

 

黒沢健一のヴォーカルは、最初から飛び抜けてうまかった、あえて言うがうますぎた。だから多くの人が騙された。「おいおい、これは悪口?」と、早とちりしないで欲しい。

 

僕がL⇔Rのレコーディング現場にいたのは、おおよそ20年近く前のことだ。
畏友岡井大二が一本のカセット・テープを携えて、当時在籍していたポリスター・レコードに現れた。断るはずだったのだが、うっかり聴いてしまった曲が「Love is real ? ~想像の産物~」と呼ばれるデモだった。それがL⇔R、黒沢健一との出会いになった。歌と曲が対等にかみ合っていた。

 

いくつかの季節が過ぎた後に、思わぬ事態に直面することになる。契約を更新せずポニー・キャニオン・レコードへ移籍するという現実だった。
ポリスターでの最後のレコーディング、黒沢健一の書きおろしたばかりのメロディーを手にすることになった。プロデューサーではなく作詞家として、好きなテーマで遠慮なく詞を書いて欲しいというリクエストがあった。
ヴォーカル入れ予定日までは2日しかなかった。テーマはすぐに思い浮かんだ、「Equinox」。
出会いと別離、別離と出会い、繰り返される日々と思い入れを書きこむと、メロディーを遥かに超える分量になった。ヴォーカル入れの時間がせまっていた。スタジオの片隅で、メロディーと詞が初めて出会った。

いくつかの言葉を直した段階で歌ってみようという事になった。正直、詩としては出来ていても、歌う詞としては未完成だったはずだ。なのに、ほぼワンテイクで録音は終了した。それで充分だった。

黒沢健一のヴォーカルを得て、言葉のひとつひとつが音楽になっていった。歌がすべてを引き受けていた。そうやって、黒沢健一はL⇔Rを背負うことが出来た。

最初のうちはそれでよかったのかもしれない。しかし・・・。

 

2012年12月、アンコールの拍手の中で気が付くと、ステージに独りギターを手にした黒沢健一が立っていた。

『今日は街にバンドが来るんだ 僕らが好きだった奴さ またあの変な恰好して ラブソングを歌うつもりだろう』。自分の言葉と音を吐き出し、同時に慈しむように「Rock"n Roll Band」が歌われた。胸が妙にざわざわした。僕は聞こえないようにステージに向かって言った。「そうだ健一、それが君の歌だ、君にしかできない歌だ。」歌と曲が拮抗し、互いを高めあうそれだ。

黒沢健一4年振りのニュー・アルバム『Banding Together in Dreams』は、まるで想像の産物(imagination)だ。収録10曲のうち6曲を、遠山裕、岡井大二、菊池真義、木下裕晴のリズム・セクションが担当していた。このメンバー名の羅列だけで嬉しくなって、笑いだすしかなかった。
さらにM5「ManyThings」で聴ける黒沢秀樹のギター、M4「Rockn Roll Band」、M6「Im In Love」の嶺川貴子+黒沢健一のコーラスと、L⇔Rの元メンバーが全員ゲスト参加していた。
だからと言って、再結成ムードなどはどこにもない。「どう、元気だった?!」と互いにエールを交換しているような、心地よさだ。

すべてがひとつのバンドのように、バンドとしてのサウンドのために用意されていたのだ。
もちろん随所に遊び心は健在なのだが、表に出ることはなく隠し味となっている。
それがこのアルバムの落ち着きに繋がっていた。全く無駄のない、10曲。必要にして十分な10曲として。

でも、「Rockn Roll Band」。この1曲がすべてを握っている。
『沢山のことを望みすぎて 帰り道をなくしてしまった』と歌う。

それは黒沢健一のことであり、仲間のことであり、僕のことであり、君のことであり、僕たちすべての、今のことだと思う。リ・スタートに相応しい曲なのだ。『Alone together』から『BANDING TOGETHER in Dreams』のたった半年の間に、黒沢健一は22年分の音楽を取り戻した。

<作品情報>

ニッポン・ポップス・クロニクル/牧村憲一 2013年3月27日発売 

1,995円(税込) 320ページ 出版:スペースシャワーネットワーク

 

 ニッポン・ポップス・クロニクル 1969-1989 (SPACE SHOWER BOOks) [単行本]

 

「ここに書かれているのは、CD以前、レコードの時代の話が大半で、若い世代にとっては初めて名前を聞くであろうアーティストも多数登場する。

だが、音楽が好きであれば世代を問わずに読みこなせる、ある意味で『日本のポップスの入門書』としての役割を果たすものにしたつもりだ。

(中略) 素晴らしい証言者を得て、本書はたくさんの『音楽の川』を書くことが出来た。それと共に、その1本ずつの川が合流し、大きな河となって流れているのを知ることが出来るはずだ。

日本のポップスがいかに多くの人々の情熱や気概によって支えられ、紡がれてきたか。この本を通じて、その一端でも感じ取っていただければ幸いである。」……牧村憲一(まえがきより抜粋)

 

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